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森の奥の屋敷13

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「ユリアナ、大丈夫か? 疲れていないか?」
「うん、疲れたっていうより、頭が追い付かない感じがする」

 賑やかなパーティーは夕方になる前にお開きとなり、皆それぞれ王都に戻っていった。ようやく落ち着きを取り戻した屋敷で二人は、寝台に腰かけるとお互いの手を握り合う。

「今日はみんな、喜んでくれたかな……」
「ああ、満足そうな顔をしていたよ」

 レオナルドはユリアナの頭上に手を添えると、ゆっくりと降ろしながら髪を梳いた。

「君の髪は、とても綺麗な白銀色だよ」
「白い髪なんて、私ではないみたい」

 あの後、執事に聞いたところ、やはり以前いた侍女の先見した未来を変えたと思われる時刻に、ユリアナの髪の色が変わったという。だが、ユリアナがこれ以上落ち込むことのないように、アーメント侯爵がかん口令を敷いたのだった。

「でも、なんだか間抜けだわ。ずっと自分の髪の色を知らなかったなんて。その為に私は苦しんでいたのに……」
「そうは言っても、そうでなかればユリアナは俺に『抱いて』なんて言えなかったんじゃないか?」
「え、あ、言われてみればそうかも」

 あの夜が最後だと思っていたからこそ、勇気を振り絞って言うことができた。あの夜があったから、今の幸せを得ることができた。戸惑いも、悩みも、喜びも、全てのことが今の幸せに繋がっているように思えてくる。

「それに、自分の髪は黒いと思い込んでいると、いくらヒントがあってもわからないものだよ。はっきり伝えてくれた兄の子どもたちに、感謝しないといけないな」
「ええ、今度何か、木でおもちゃでも作りましょうよ。レオナルドなら、得意でしょ?」
「ああ、そうだな。木彫りの熊でも贈ろうか」
「もう! 熊を彫るならもっと可愛いものじゃないとダメよ!」

 くつくつと笑ったレオナルドの胸を軽く叩くと、彼は髪を梳いていた手を下に降ろしてユリアナの左足に触れた。もう動くことのない足は、右足に比べると細くなっている。

「君の足、ちょっとかして」

 レオナルドは足首を持つと、何かを結び始めた。

「これは?」
「昔君に、ブレスレットを渡したけど失くしてしまっただろう? その代わりにはならないが、アンクレットを作ってみた。ちょうど、一粒だけ琥珀を分けて貰ったから」

 膝から下は細くなっている足首に、皮紐でできたアンクレットを巻いている。琥珀はレオナルドの瞳の色と同じ色をしているという。ユリアナは手を伸ばしてそっと触れると、硬い皮紐に小さな丸い石がついている。これが琥珀だろう。

「ここなら、もう無くならないだろう?」

 そう言った彼は、細い左足を持ち上げると足先に口づけた。感触のないはずが、まるで唇の熱が移ったかのように温かく感じる。

「レオナルド……」
「失くしても、簡単に諦めないで俺に伝えて欲しい。俺は、君の目でもあるんだから」

小さくこくんと頷くと、ユリアナは両手を伸ばしてレオナルドの背中に回した。

「ありがとう、……嬉しい」

 レオナルドは、ユリアナの頬を両手で挟むと伺うように「いいか?」と聞いてくる。結婚した二人にとって、初めての夜。ユリアナは再びこくんと頷いた。

 そっと触れあうように口づけられる。唇が離れると、熱のこもった声で「もう、離れられないな」と耳元で囁かれる。

「ずっと、傍にいて。私も、……離さないから」
「だけど身体の調子は大丈夫なのか? 今朝から緊張していただろうし、その……、以前君を抱いた翌日は寝込んだと聞いている」

 ユリアナは大丈夫だと伝えたくて、首を縦に振った。翌日寝込んだのは、身体が辛かったからではない。別れが辛かったからだ。

「疲れはあるけど、それよりも……」

 寝台に座ったレオナルドの頬を両手で挟んで、ユリアナは額と額をくっつけた。

「もう大丈夫だから、遠慮しないで」

 そして彼の手をとると、服の上からでもわかる豊満な乳房の上に置いた。今夜も抱いて欲しい、そう思ったところでレオナルドの男らしい喉ぼとけが上下に動いた。

「本当に、……いいんだな」

 もう、何も我慢して欲しくない。身分を捨ててまで尽くしてくれる彼と、愛を深めたい。ようやく許されるのだから、遠慮しないで欲しい。

 ユリアナはもどかしくなりながら、こくんと頷く。

終わった恋だと思っていたのに、レオナルドが身分を捨ててくれた今、再びこうして温もりを確かめ合える。

「今夜は、優しくする」

 低い声で、耳元で囁いてくれる彼が愛おしい。腕を伸ばして引き寄せると、レオナルドはユリアナを一度持ち上げて寝台に優しく横たわらせた。

 胸がトクトクと高鳴っている。レオナルドは自身の上着を脱ぎ捨てると、下穿き一枚になった。そのままユリアナの着ているガウンを肩から外すと、寝台の下に置いた。

「自分で脱ぐ? それとも、俺が脱がせてもいい?」
「……今夜は、脱がせて」
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