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第11話 山天の不良集団
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「でも、ガチでどーすんの。一回でも負けたら終わりなんだよ」
「わしは細かいことはよくわからん。なので……」
ポン、とイズナは、ディック・パイソンの肩を叩いた。
「山天へと行くぞ」
「な、なんだとおお⁉」
「はいいいい⁉」
サーヤとディック・パイソンは、揃って声を上げた。
「な、何か策でもあるわけ、レイカっち⁉」
「いや、ない」
「じゃあ、どうしてそんな無茶苦茶を!」
「単純じゃ。山天なら敵対勢力じゃから、勝負を申し込む者も、勝負を引き受けてくれる者も、すぐに見つかるじゃろう。それだけのこと」
「いやいやいや……このオジサン、すぐ瞬殺されちゃうよ」
そんなサーヤの言葉を無視して、イズナはコマンド画面を開くと、ファストトラベルのアイコンをタップした。
山天、の表示があるのを確認してから、あらためてサーヤとディック・パイソンへと目を向ける。
「ほれ、どうした。二人も準備をせんか」
「俺には無理だ! 勝ち目が無い!」
「お主は、現実世界ではプロレスラーなのじゃろう?」
「ああ、そうだが……」
「プロレスラーとは、確実に勝てる試合しか受けないのか? 違うじゃろ」
「……!」
「お主にレスラーとしての矜持がまだ残っておるのなら、共に来るのじゃ」
そう一方的に言って、イズナは「山天」の文字をタップした。
ギュンッ! と風景が一瞬で流れて、あっという間にその身は深山幽谷へと辿り着いていた。
海天と同じく、都市がある。ただしこちらは、山間部の谷間に建物が並んでいる。立地的に高層ビルの類は無い。どれも最高でも四階建てくらいの建物だ。
イズナはしばらくその場で待ってみた。
誰も来ない。
「ふむ、残念じゃが、サーヤ殿も、ディック・パイソン殿も、怖じ気づいたか」
呑気にそんなことを言いながら、谷間の街を散策し始める。
海天の洗練された雰囲気と違って、山天はどこか地方都市を思わせる、ゆったりした空気感が漂っている。どこか日本の観光名所に、こんな感じの街があったような気がしながら、イズナは周囲を観察した。
左を見れば、ひなびた雑居ビルの中から、ゾロゾロと、明らかに堅気の者ではない連中が出てきている。見るからにヤクザだ。
右を見れば、これまたオンボロのビルの中で、レオタード姿でエアロビに興じている女性達の姿が見える。あれはコンピューターが操るNPCなのか、それともプレイヤーなのか。
しばらく道を進んでいくと、谷間の奥に、中華風の城塞のような建造物が現れた。
城塞の門に、「山天城」と掲げられている。
「仰々しいのう」
そんなことを呟いたところで、イズナは後ろを振り返った。
「で、さっきからわしの後をつけてきておる、お主ら。何者じゃ」
それまで建物の陰に隠れていた連中が、ゾロゾロと姿を現す。全員、十代くらいの少年少女達。
みんな破れたジーンズや、ダボついた服などを着ており、見るからに不良グループといった風情だ。
ジャラリ、と鎖の音が聞こえた。
ひときわ背の高い少年が、不良達の間から抜け出てきた。
革ジャンに、ビンテージのジーンズという格好。それなりにオシャレにしているが、なぜか体に巻き付けている鎖が、センスの良さを台無しにしている。細身に見えるが、よく観察するとしっかりと筋肉がついている。シャープな筋肉だ。
「よう、バニーの姉ちゃん。この山天に何の用だ? 戦争でも仕掛けに来たか」
「少し手合わせを願いたい」
「ハッ! 本当に戦争をしに来たみてーだな!」
鎖の少年は楽しそうに笑みを浮かべた。
「そういうことなら、受けてやってもいいぜ。ただし、俺が勝ったら、俺の女になれ。いいな」
「なんじゃ、なんじゃ。飛狼といい、お主といい、わしがそんなに欲しいのか」
「当たり前だろうが。そんなエロい格好して、これ見よがしに胸の谷間とケツを強調させられたら、一発ヤらねーと気が済まねーだろ」
「品がないのう」
イズナは肩をすくめる。
「ゲームの世界でわしを抱いても、気持ち良くはなかろうて」
「おいおい、わかってねーなあ。体の快楽の問題じゃねーんだよ。俺は単に、お前のエロい姿が見られればそれでいーんだよ」
「ほーう」
そこで、イズナは蠱惑的な表情を浮かべた。別に、挑発や誘惑をするつもりはなかったが、宝条院レイカの外見では、ニヤリと笑ったつもりでも、色っぽい笑顔になってしまうのである。
「ならば、やってみようかの。お主、名前はなんという」
「俺は伊勢谷カズマ。この山天のストリートギャング『ナインヘッズ・ドラゴン』を仕切っている」
カズマは、空中でコマンド操作を始めた。それに伴い、目の前にウィンドウが現れ、メッセージが流れてくる。
【伊勢谷カズマより戦闘の申し込みがありました。受けますか?】
当然、イズナとしては「はい」を選ぶ。
【戦闘の申し込みを受けました。これより、伊勢谷カズマと戦闘終了条件及び勝利報酬と敗北ペナルティの交渉を行ってください】
さて、どんな条件で戦うか、とイズナが考えていると、
「ちょっと待ったーーー!」
「えええ、受けちゃったの、レイカっち⁉」
ディック・パイソンとサーヤが駆けつけてきた。
「おー、お主ら。来てくれたのか」
「来てくれたのか、じゃないって! あんた、あいつとの勝負を受けちゃったの⁉」
「うむ。何か、問題あったかのう」
「伊勢谷カズマ! 超卑怯でヤバい、ってことで有名なんだから! どんな手を使ってくるかわかんないよ!」
そんなサーヤに対して、カズマは舌を突き出して挑発してきた。
「もうおせーよ。勝負は受諾された。あとは、条件を設定するだけだ」
「いいじゃろう。お主が勝てば、わしを好きにするがよい。ただし、わしが勝ったら――」
と、イズナはディック・パイソンの腕を掴み、グイッと自分の前へと突き出した。
「このディック・パイソンと、誰でもいい、一戦交えてもらうぞ」
「わしは細かいことはよくわからん。なので……」
ポン、とイズナは、ディック・パイソンの肩を叩いた。
「山天へと行くぞ」
「な、なんだとおお⁉」
「はいいいい⁉」
サーヤとディック・パイソンは、揃って声を上げた。
「な、何か策でもあるわけ、レイカっち⁉」
「いや、ない」
「じゃあ、どうしてそんな無茶苦茶を!」
「単純じゃ。山天なら敵対勢力じゃから、勝負を申し込む者も、勝負を引き受けてくれる者も、すぐに見つかるじゃろう。それだけのこと」
「いやいやいや……このオジサン、すぐ瞬殺されちゃうよ」
そんなサーヤの言葉を無視して、イズナはコマンド画面を開くと、ファストトラベルのアイコンをタップした。
山天、の表示があるのを確認してから、あらためてサーヤとディック・パイソンへと目を向ける。
「ほれ、どうした。二人も準備をせんか」
「俺には無理だ! 勝ち目が無い!」
「お主は、現実世界ではプロレスラーなのじゃろう?」
「ああ、そうだが……」
「プロレスラーとは、確実に勝てる試合しか受けないのか? 違うじゃろ」
「……!」
「お主にレスラーとしての矜持がまだ残っておるのなら、共に来るのじゃ」
そう一方的に言って、イズナは「山天」の文字をタップした。
ギュンッ! と風景が一瞬で流れて、あっという間にその身は深山幽谷へと辿り着いていた。
海天と同じく、都市がある。ただしこちらは、山間部の谷間に建物が並んでいる。立地的に高層ビルの類は無い。どれも最高でも四階建てくらいの建物だ。
イズナはしばらくその場で待ってみた。
誰も来ない。
「ふむ、残念じゃが、サーヤ殿も、ディック・パイソン殿も、怖じ気づいたか」
呑気にそんなことを言いながら、谷間の街を散策し始める。
海天の洗練された雰囲気と違って、山天はどこか地方都市を思わせる、ゆったりした空気感が漂っている。どこか日本の観光名所に、こんな感じの街があったような気がしながら、イズナは周囲を観察した。
左を見れば、ひなびた雑居ビルの中から、ゾロゾロと、明らかに堅気の者ではない連中が出てきている。見るからにヤクザだ。
右を見れば、これまたオンボロのビルの中で、レオタード姿でエアロビに興じている女性達の姿が見える。あれはコンピューターが操るNPCなのか、それともプレイヤーなのか。
しばらく道を進んでいくと、谷間の奥に、中華風の城塞のような建造物が現れた。
城塞の門に、「山天城」と掲げられている。
「仰々しいのう」
そんなことを呟いたところで、イズナは後ろを振り返った。
「で、さっきからわしの後をつけてきておる、お主ら。何者じゃ」
それまで建物の陰に隠れていた連中が、ゾロゾロと姿を現す。全員、十代くらいの少年少女達。
みんな破れたジーンズや、ダボついた服などを着ており、見るからに不良グループといった風情だ。
ジャラリ、と鎖の音が聞こえた。
ひときわ背の高い少年が、不良達の間から抜け出てきた。
革ジャンに、ビンテージのジーンズという格好。それなりにオシャレにしているが、なぜか体に巻き付けている鎖が、センスの良さを台無しにしている。細身に見えるが、よく観察するとしっかりと筋肉がついている。シャープな筋肉だ。
「よう、バニーの姉ちゃん。この山天に何の用だ? 戦争でも仕掛けに来たか」
「少し手合わせを願いたい」
「ハッ! 本当に戦争をしに来たみてーだな!」
鎖の少年は楽しそうに笑みを浮かべた。
「そういうことなら、受けてやってもいいぜ。ただし、俺が勝ったら、俺の女になれ。いいな」
「なんじゃ、なんじゃ。飛狼といい、お主といい、わしがそんなに欲しいのか」
「当たり前だろうが。そんなエロい格好して、これ見よがしに胸の谷間とケツを強調させられたら、一発ヤらねーと気が済まねーだろ」
「品がないのう」
イズナは肩をすくめる。
「ゲームの世界でわしを抱いても、気持ち良くはなかろうて」
「おいおい、わかってねーなあ。体の快楽の問題じゃねーんだよ。俺は単に、お前のエロい姿が見られればそれでいーんだよ」
「ほーう」
そこで、イズナは蠱惑的な表情を浮かべた。別に、挑発や誘惑をするつもりはなかったが、宝条院レイカの外見では、ニヤリと笑ったつもりでも、色っぽい笑顔になってしまうのである。
「ならば、やってみようかの。お主、名前はなんという」
「俺は伊勢谷カズマ。この山天のストリートギャング『ナインヘッズ・ドラゴン』を仕切っている」
カズマは、空中でコマンド操作を始めた。それに伴い、目の前にウィンドウが現れ、メッセージが流れてくる。
【伊勢谷カズマより戦闘の申し込みがありました。受けますか?】
当然、イズナとしては「はい」を選ぶ。
【戦闘の申し込みを受けました。これより、伊勢谷カズマと戦闘終了条件及び勝利報酬と敗北ペナルティの交渉を行ってください】
さて、どんな条件で戦うか、とイズナが考えていると、
「ちょっと待ったーーー!」
「えええ、受けちゃったの、レイカっち⁉」
ディック・パイソンとサーヤが駆けつけてきた。
「おー、お主ら。来てくれたのか」
「来てくれたのか、じゃないって! あんた、あいつとの勝負を受けちゃったの⁉」
「うむ。何か、問題あったかのう」
「伊勢谷カズマ! 超卑怯でヤバい、ってことで有名なんだから! どんな手を使ってくるかわかんないよ!」
そんなサーヤに対して、カズマは舌を突き出して挑発してきた。
「もうおせーよ。勝負は受諾された。あとは、条件を設定するだけだ」
「いいじゃろう。お主が勝てば、わしを好きにするがよい。ただし、わしが勝ったら――」
と、イズナはディック・パイソンの腕を掴み、グイッと自分の前へと突き出した。
「このディック・パイソンと、誰でもいい、一戦交えてもらうぞ」
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