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三章
Ⅰ
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「兄さん。なんでこのじゃがいもを選ぶんですか」
「え、なんでって適当だけど」
スーパーで買い物をしていても、気が抜けない。買い物はれみと相談して決まっているけど、俺が選んだものは必ずダメ出し・品定めされている。
「あきらかに状態が悪いですよね? 小さいし。だったらこっちのほうがいいでしょう」
「ええ~?」
ずい、と土だらけの二つを差しだされて見比べてみるけど、違うがあまりわからない。
「こっちは芽が出始めているし、形もボコボコしていて調理しにくいです。それに、張りがなくて柔らかくなっています。状態が悪くなっている証です」
「へぇ~。なるほどなぁ」
「それに人参もゴボウもキャベツもトマトも。ちゃんと教えましたよね? 覚えていないんですか?お肉だって。ちゃんと確認していますか? 値段とか用途とか。何度も言っていますよね?」
「うん・・・・・・・・・ごめん」
「はぁ・・・・・・・・・兄さん本当に年上ですか? それに、さっき御菓子とかおつまみとかお酒買ってましたけど、買いすぎでは?」
「それは・・・・・・・・・だって健とか先輩とか来るかもしれないし」
「それにしてもです。それに、合う度合う度飲み過ぎでは? まだ冷蔵庫に残っていますし。急性アルコール中毒やアルコール依存症は知っていますか? 今は若いから兵器かもしれませんが、将来的な病気にも繋がるんですよ。というわけで今日はだめです」
「ええ・・・・・・・ちょっとくらい」
「今後御菓子とお酒、おつまみは一週間に一度です」
これでも、だいぶ柔らかく、優しくなった。小田先輩と健と一緒に過ごしたからだろうか。それにしても、なんというか、うん。妹じゃなくてすでにおかん感が強い。カートを押しながら眺める商品を選んでいる後ろ姿、横顔は真剣さも相まって所帯じみていて、感慨深さと居心地のよさがある。不意に、胸の高鳴りが加わって自分を戒める。
れみが泊ったときから、れみを一人の異性として意識することが増えてしまった。兄としていたい、兄としていなければ。れみは妹だ。自分に言い聞かせる。そうじゃなければこの時間が終わってしまうかもしれない。真面目でおかたいれみは元義兄だった俺が意識しているとしれば、嫌悪するだろう。もう来なくなってしまう。会えなくなる。
れみが昔を忘れていない。その事実が苛む。だからこそ兄としていなければいけないのに。兄としていたいのに。願いとは裏腹に、自制できない。バスタオル姿のれみをおもいだして熱くなったときは自己嫌悪ともどかしさで死にたくなった。れみと一緒にいればいるほど忘れられない。逆に意識してしまう。このところ、どうしようもなく、自分のだめさ加減を自覚してしまう。
「あ、そうだ。今度またお泊まりに――――」
「絶対だめ!」
「え、兄さん?」
「年頃の娘が男の家にほいほい行くなんてふしだらじゃないか! それも泊るなんていやらしい!」
「それ、ご自分も遠回しに刺していることになりますけど?」
「不健全! 将来的によくない!」
「いつもと言っていること逆ですけど?」
「それに!」
言いかけて、ハッと気づいて言い淀んでしまう。避けたい話題を自分から振ってしまい、墓穴を掘るけど時すでに遅し。れみは早く言えと急かしているかんじで、腕を組んでジト目で見上げてくる。大胆不敵な表情に、なおも躊躇ってしまうけどようやく決意を固めた。
「それになんて言ってるんだ。家の人たちになにか言われてないか」
「・・・・・・・・・それは――――」
今度はれみの番。俺を慮ってか黙りこむ。あからさまな、いかにもなにかありますって反応に、後悔しまくる。けど、それは予想できていたこと。あえて触れないでいたこと。
「あ、やっぱりパイセンとれみじゃないっスか~」
聞き覚えのある声に、二人揃ってぎょっとしてしまう。さっきまでの気まずい空気は吹き飛んで声の主をきょろきょろと探す作業に。
「あれ、君まりあちゃんだっけ」
「どうもご無沙汰してるっス」
親近感がある柔和な笑顔に、シュビッ! と気軽に上げられた手とともにれみの同級生が近づいてくる。
「ど、どうしてここに? なにしているんですか?」
明らかに動揺してる。もう震源地の真上に立ち続けているんじゃないかってくらい微振動。でも、れみの言う通りだ。このスーパーは大学に近い場所にある。まりあちゃんの家がどこにあるのかは不明だけど、れみと一緒の高校なんだからここにいるのは明らかに不自然。
「それはこっちの台詞っス。お二人ともどうしたんスか? なんで一緒に買い物してるんスか?」
ぎくりとした瞬間に冷や汗が生じる。まりあちゃんにとって俺とれみは赤の他人。オープンキャンパスで案内をした大学生の一人でしかない。小田先輩と健たちにはカップルだって説明しているけど、この子にも嘘をつくのはまずい。双方の学校で付き合っているって設定で過ごせば、絶対破綻するし別の問題に繋がりかねない。
「実は――――」
「実は私とこちらの上杉瞬さんは結婚前提としたお付き合いをしているラブラブカップルなんです」
「れみお前ええええええええええ!!」
なにしてくれっちゃんだこいつ本当に・・・・・・・・・! なにしてんだ本当に!
「本当なにしてんの!」
「兄さん静かにしてください。周りのお客さんにご迷惑でしょう」
「それどころじゃねぇよ! お前なにしてんの!?」
人がせっかく・・・・・・・・・せっかくぅ・・・・・・! それに前と違ってない!? ラブラブカップルって前付けてなかっただろ!? せめて統一しろよ!
「へぇ。あ、それよりなに買ったんスか?」
「それで君は君で興味なしかい!」
「今日はカレーっスか?」
「人んちの献立に興味津々かい!」
「残念、肉じゃがです」
「え、なんでれみ知ってるんスか? もしかして家行くんスか? 行ってるんスか? 通ってるんスか?」
「え、ええ。もう通い妻になっています」
「ひゅー! やけちゃうスねぇ!」
「俺を放置しないで! 二人だけで遣り取り続けないで!」
「なんスか? パイセン。うるさいスよ?」
「誰のせいだあああああ!!」
一頻りツッコミ疲れた俺は、落ちつく時間をもらって喉を休めながら疲れを癒やす。というか、最近俺ツッコんでばかりじゃないか。スーパーを三人出たあと、歩きながらアイスを齧り合う。暑さで溶けたアイスが口の端から垂れて、指で掬って舐めるれみにドキッとしてしまう。だからあえてれみから視線を外してまりあちゃんに。
どうして付き合い始めたかという説明に反応しながらだけど、彼女は彼女で白い白線の上をまるで綱渡りゲームの要領で手を伸ばして歩いたり、縁石の上に飛び乗ったりステップを踏みながらアイスを大口で食べている。時折笑い声を挙げるながら話しているからか、女の子っていうか、無邪気で子共っぽくて微笑ましい。
「いやぁ、まさかお二人が付き合っていたとは。でも買い物しているときはなんというか、自然なかんじがしましたねぇ」
「え、そうかな」
「もう傍目から監察していたら夫婦っぽいっス」
「夫婦って――――」
「まぁいいんじゃないですか。受け取り方やどう見えるかなんていうのはひとそれぞれです。主観です」
はは、となんとなく笑いがでてしまった。元義理の兄妹だって真実を教えたら、同じ見え方をするだろうか。
「仲良し夫婦だとかおしどり夫婦とか。新婚さんみたいだとか、もうつれあって三十年以上のベテランラブラブ夫婦だとか私もこんな風になりたいなんて言われてもおもわれてもそれはまりあ自身の素直な感想なので」
「いや、そこまでは言ってないよ?」
なんだろう。れみって俺とのことになると動揺して幻聴が聞こえちゃうのかな。聞き間違えちゃうのかな。心配。
「どっちかっていうと年下の奥さんのお尻に敷かれている夫婦っぽかったっスけど」
「それ褒めてないからな? 遠回しに俺のこと情けないって言ってるのと同義だからな?」
ある意味正解だから強く否定できない。
「ちょっとまりあ。それはちょっと言い過ぎです。私たちはまだ夫婦ではありません。そうです。ま だ 」
変に強調しているれみに、まりあは近づいて肘で突いたり肩を叩いたり。仲がよくて好き合っている友達同士だっていう二人の姿に、自然と笑みが。
「あ、じゃあお二人さん。この後予定あるっスか?」
「家に帰ったあとは別にないけど」
今は午後二時で夕食まで少し時間がある。けど、きっとれみに矯正される時間となるだろう。料理とか家事のレクチャーとか。最近はそれが貴重で大切で、楽しい時間になっているけど。
「あ、そうスか。じゃあその後でいいんスけど遊べないスか? ショッピングとかカラオケとか。私も帰る時間まで暇なんスよ」
正直それは・・・・・・・・・・・・。三人で行動していると俺たちの関係性を怪しまれる可能性が高い。見栄か焦りか。まだ判別できないけど。うそをついてしまったれみの今後に影響する。ひいてはれみとまりあちゃんの関係だって。
「あ、それともお邪魔っスか? お二人で愛を深めあったりイチャついたりしたいっスか?」
「ずばりそのとおりです。この人は私のことが好きすぎるので常に二人っきりでい続けたいと耳元で囁き続ける困った人なので。あとでいじけて離してくれなくなるので」
喰い気味に答えたれみは、違和感をいだいた俺の追求の視線から逃れ続ける。頑なに顔を合わせない。けど、それはいい理由かもしれない。
「いいじゃないスか。最近れみ遊んでくれないし。夏休みなのに一回も遊んでくれないじゃないスか。今日だって家に行ったら出掛けてるって言われて落ちこんだんスよ?」
「けど、私この人と」
「女の友情が儚いっていうのは本当なんスねぇ。男ができたらポイ捨てスかそうスか」
唇を尖らせて不満げなのがすねているってわかりやすい。れみはどう説得しようか戸惑っている。そんな二人を眺めて、これはまずいと思い直した。小さいことだけど、これがきっかけで二人の間柄が気まずくなってしまう。学校生活でも支障をきたすだろう。友情と恋人関係の両立がどれだけ大変か。小田先輩から聞かされたことがある。恋人を優先したがために疎遠になって、不満を抱いて仲間の輪から外れる人がいたなんてなんてざらにあるそうだ。
「なぁ、れみ。いいんじゃないか?」
「え、兄さん!?」
「ちょっとした時間だし。予定もないし。友達と過ごす時間も大切だろ?」
嘘をついていることと嘘がばれるかもしれない。れみの中では二つがせめぎ合っている。口を開いて、どうすればいいかわからないってかんじでふにゃって形に変えて閉じる。何回か繰り返しているのを見ているのが場にふさわしくないとわかっていても面白い。
「・・・・・・・・・いいんですか?」
「ああ」
妹のためになにかする。それが兄なんだから。せめてこらくらいはしたい。
「じゃあ遠慮しませんからね」
遠慮ってなに? すごく不穏だけど。
「まりあ。わかりました。それじゃあ遊びましょう」
「マジっスか!? やったぁ!」
「ええ。まりあに私たちがどれだけ愛し合っていて互いを必要としてるか知ってもらおうと言われたので。過激すぎるので普段の百分の一程度に抑えるつもりだそうですけど」
誰もそこまで言っていない。
「私たちの高校で噂になって今後の伝説に残るくらいのビッグカップルとしての姿を、目に焼きつけて記録して同級生たちに報告してほしいそうです」
だから誰もそこまで言っていない。
「私はそんなことしたくないですけど。まぁ今後こういう仕方ないところも矯正していきますけど。本当に仕方のない人です」
徹底し、俺に全責任を負わせようとしているのはわざとか。わざとだろうきっと。けど、大変なことになった。ただ三人で遊ぶだけのつもりだったのにカップルとして振る舞わなければいけない。れみを意識しつつある俺には重圧すぎる。早まったかもしれない。まりあと盛り上がっているれみを見て、少し後悔した。
「え、なんでって適当だけど」
スーパーで買い物をしていても、気が抜けない。買い物はれみと相談して決まっているけど、俺が選んだものは必ずダメ出し・品定めされている。
「あきらかに状態が悪いですよね? 小さいし。だったらこっちのほうがいいでしょう」
「ええ~?」
ずい、と土だらけの二つを差しだされて見比べてみるけど、違うがあまりわからない。
「こっちは芽が出始めているし、形もボコボコしていて調理しにくいです。それに、張りがなくて柔らかくなっています。状態が悪くなっている証です」
「へぇ~。なるほどなぁ」
「それに人参もゴボウもキャベツもトマトも。ちゃんと教えましたよね? 覚えていないんですか?お肉だって。ちゃんと確認していますか? 値段とか用途とか。何度も言っていますよね?」
「うん・・・・・・・・・ごめん」
「はぁ・・・・・・・・・兄さん本当に年上ですか? それに、さっき御菓子とかおつまみとかお酒買ってましたけど、買いすぎでは?」
「それは・・・・・・・・・だって健とか先輩とか来るかもしれないし」
「それにしてもです。それに、合う度合う度飲み過ぎでは? まだ冷蔵庫に残っていますし。急性アルコール中毒やアルコール依存症は知っていますか? 今は若いから兵器かもしれませんが、将来的な病気にも繋がるんですよ。というわけで今日はだめです」
「ええ・・・・・・・ちょっとくらい」
「今後御菓子とお酒、おつまみは一週間に一度です」
これでも、だいぶ柔らかく、優しくなった。小田先輩と健と一緒に過ごしたからだろうか。それにしても、なんというか、うん。妹じゃなくてすでにおかん感が強い。カートを押しながら眺める商品を選んでいる後ろ姿、横顔は真剣さも相まって所帯じみていて、感慨深さと居心地のよさがある。不意に、胸の高鳴りが加わって自分を戒める。
れみが泊ったときから、れみを一人の異性として意識することが増えてしまった。兄としていたい、兄としていなければ。れみは妹だ。自分に言い聞かせる。そうじゃなければこの時間が終わってしまうかもしれない。真面目でおかたいれみは元義兄だった俺が意識しているとしれば、嫌悪するだろう。もう来なくなってしまう。会えなくなる。
れみが昔を忘れていない。その事実が苛む。だからこそ兄としていなければいけないのに。兄としていたいのに。願いとは裏腹に、自制できない。バスタオル姿のれみをおもいだして熱くなったときは自己嫌悪ともどかしさで死にたくなった。れみと一緒にいればいるほど忘れられない。逆に意識してしまう。このところ、どうしようもなく、自分のだめさ加減を自覚してしまう。
「あ、そうだ。今度またお泊まりに――――」
「絶対だめ!」
「え、兄さん?」
「年頃の娘が男の家にほいほい行くなんてふしだらじゃないか! それも泊るなんていやらしい!」
「それ、ご自分も遠回しに刺していることになりますけど?」
「不健全! 将来的によくない!」
「いつもと言っていること逆ですけど?」
「それに!」
言いかけて、ハッと気づいて言い淀んでしまう。避けたい話題を自分から振ってしまい、墓穴を掘るけど時すでに遅し。れみは早く言えと急かしているかんじで、腕を組んでジト目で見上げてくる。大胆不敵な表情に、なおも躊躇ってしまうけどようやく決意を固めた。
「それになんて言ってるんだ。家の人たちになにか言われてないか」
「・・・・・・・・・それは――――」
今度はれみの番。俺を慮ってか黙りこむ。あからさまな、いかにもなにかありますって反応に、後悔しまくる。けど、それは予想できていたこと。あえて触れないでいたこと。
「あ、やっぱりパイセンとれみじゃないっスか~」
聞き覚えのある声に、二人揃ってぎょっとしてしまう。さっきまでの気まずい空気は吹き飛んで声の主をきょろきょろと探す作業に。
「あれ、君まりあちゃんだっけ」
「どうもご無沙汰してるっス」
親近感がある柔和な笑顔に、シュビッ! と気軽に上げられた手とともにれみの同級生が近づいてくる。
「ど、どうしてここに? なにしているんですか?」
明らかに動揺してる。もう震源地の真上に立ち続けているんじゃないかってくらい微振動。でも、れみの言う通りだ。このスーパーは大学に近い場所にある。まりあちゃんの家がどこにあるのかは不明だけど、れみと一緒の高校なんだからここにいるのは明らかに不自然。
「それはこっちの台詞っス。お二人ともどうしたんスか? なんで一緒に買い物してるんスか?」
ぎくりとした瞬間に冷や汗が生じる。まりあちゃんにとって俺とれみは赤の他人。オープンキャンパスで案内をした大学生の一人でしかない。小田先輩と健たちにはカップルだって説明しているけど、この子にも嘘をつくのはまずい。双方の学校で付き合っているって設定で過ごせば、絶対破綻するし別の問題に繋がりかねない。
「実は――――」
「実は私とこちらの上杉瞬さんは結婚前提としたお付き合いをしているラブラブカップルなんです」
「れみお前ええええええええええ!!」
なにしてくれっちゃんだこいつ本当に・・・・・・・・・! なにしてんだ本当に!
「本当なにしてんの!」
「兄さん静かにしてください。周りのお客さんにご迷惑でしょう」
「それどころじゃねぇよ! お前なにしてんの!?」
人がせっかく・・・・・・・・・せっかくぅ・・・・・・! それに前と違ってない!? ラブラブカップルって前付けてなかっただろ!? せめて統一しろよ!
「へぇ。あ、それよりなに買ったんスか?」
「それで君は君で興味なしかい!」
「今日はカレーっスか?」
「人んちの献立に興味津々かい!」
「残念、肉じゃがです」
「え、なんでれみ知ってるんスか? もしかして家行くんスか? 行ってるんスか? 通ってるんスか?」
「え、ええ。もう通い妻になっています」
「ひゅー! やけちゃうスねぇ!」
「俺を放置しないで! 二人だけで遣り取り続けないで!」
「なんスか? パイセン。うるさいスよ?」
「誰のせいだあああああ!!」
一頻りツッコミ疲れた俺は、落ちつく時間をもらって喉を休めながら疲れを癒やす。というか、最近俺ツッコんでばかりじゃないか。スーパーを三人出たあと、歩きながらアイスを齧り合う。暑さで溶けたアイスが口の端から垂れて、指で掬って舐めるれみにドキッとしてしまう。だからあえてれみから視線を外してまりあちゃんに。
どうして付き合い始めたかという説明に反応しながらだけど、彼女は彼女で白い白線の上をまるで綱渡りゲームの要領で手を伸ばして歩いたり、縁石の上に飛び乗ったりステップを踏みながらアイスを大口で食べている。時折笑い声を挙げるながら話しているからか、女の子っていうか、無邪気で子共っぽくて微笑ましい。
「いやぁ、まさかお二人が付き合っていたとは。でも買い物しているときはなんというか、自然なかんじがしましたねぇ」
「え、そうかな」
「もう傍目から監察していたら夫婦っぽいっス」
「夫婦って――――」
「まぁいいんじゃないですか。受け取り方やどう見えるかなんていうのはひとそれぞれです。主観です」
はは、となんとなく笑いがでてしまった。元義理の兄妹だって真実を教えたら、同じ見え方をするだろうか。
「仲良し夫婦だとかおしどり夫婦とか。新婚さんみたいだとか、もうつれあって三十年以上のベテランラブラブ夫婦だとか私もこんな風になりたいなんて言われてもおもわれてもそれはまりあ自身の素直な感想なので」
「いや、そこまでは言ってないよ?」
なんだろう。れみって俺とのことになると動揺して幻聴が聞こえちゃうのかな。聞き間違えちゃうのかな。心配。
「どっちかっていうと年下の奥さんのお尻に敷かれている夫婦っぽかったっスけど」
「それ褒めてないからな? 遠回しに俺のこと情けないって言ってるのと同義だからな?」
ある意味正解だから強く否定できない。
「ちょっとまりあ。それはちょっと言い過ぎです。私たちはまだ夫婦ではありません。そうです。ま だ 」
変に強調しているれみに、まりあは近づいて肘で突いたり肩を叩いたり。仲がよくて好き合っている友達同士だっていう二人の姿に、自然と笑みが。
「あ、じゃあお二人さん。この後予定あるっスか?」
「家に帰ったあとは別にないけど」
今は午後二時で夕食まで少し時間がある。けど、きっとれみに矯正される時間となるだろう。料理とか家事のレクチャーとか。最近はそれが貴重で大切で、楽しい時間になっているけど。
「あ、そうスか。じゃあその後でいいんスけど遊べないスか? ショッピングとかカラオケとか。私も帰る時間まで暇なんスよ」
正直それは・・・・・・・・・・・・。三人で行動していると俺たちの関係性を怪しまれる可能性が高い。見栄か焦りか。まだ判別できないけど。うそをついてしまったれみの今後に影響する。ひいてはれみとまりあちゃんの関係だって。
「あ、それともお邪魔っスか? お二人で愛を深めあったりイチャついたりしたいっスか?」
「ずばりそのとおりです。この人は私のことが好きすぎるので常に二人っきりでい続けたいと耳元で囁き続ける困った人なので。あとでいじけて離してくれなくなるので」
喰い気味に答えたれみは、違和感をいだいた俺の追求の視線から逃れ続ける。頑なに顔を合わせない。けど、それはいい理由かもしれない。
「いいじゃないスか。最近れみ遊んでくれないし。夏休みなのに一回も遊んでくれないじゃないスか。今日だって家に行ったら出掛けてるって言われて落ちこんだんスよ?」
「けど、私この人と」
「女の友情が儚いっていうのは本当なんスねぇ。男ができたらポイ捨てスかそうスか」
唇を尖らせて不満げなのがすねているってわかりやすい。れみはどう説得しようか戸惑っている。そんな二人を眺めて、これはまずいと思い直した。小さいことだけど、これがきっかけで二人の間柄が気まずくなってしまう。学校生活でも支障をきたすだろう。友情と恋人関係の両立がどれだけ大変か。小田先輩から聞かされたことがある。恋人を優先したがために疎遠になって、不満を抱いて仲間の輪から外れる人がいたなんてなんてざらにあるそうだ。
「なぁ、れみ。いいんじゃないか?」
「え、兄さん!?」
「ちょっとした時間だし。予定もないし。友達と過ごす時間も大切だろ?」
嘘をついていることと嘘がばれるかもしれない。れみの中では二つがせめぎ合っている。口を開いて、どうすればいいかわからないってかんじでふにゃって形に変えて閉じる。何回か繰り返しているのを見ているのが場にふさわしくないとわかっていても面白い。
「・・・・・・・・・いいんですか?」
「ああ」
妹のためになにかする。それが兄なんだから。せめてこらくらいはしたい。
「じゃあ遠慮しませんからね」
遠慮ってなに? すごく不穏だけど。
「まりあ。わかりました。それじゃあ遊びましょう」
「マジっスか!? やったぁ!」
「ええ。まりあに私たちがどれだけ愛し合っていて互いを必要としてるか知ってもらおうと言われたので。過激すぎるので普段の百分の一程度に抑えるつもりだそうですけど」
誰もそこまで言っていない。
「私たちの高校で噂になって今後の伝説に残るくらいのビッグカップルとしての姿を、目に焼きつけて記録して同級生たちに報告してほしいそうです」
だから誰もそこまで言っていない。
「私はそんなことしたくないですけど。まぁ今後こういう仕方ないところも矯正していきますけど。本当に仕方のない人です」
徹底し、俺に全責任を負わせようとしているのはわざとか。わざとだろうきっと。けど、大変なことになった。ただ三人で遊ぶだけのつもりだったのにカップルとして振る舞わなければいけない。れみを意識しつつある俺には重圧すぎる。早まったかもしれない。まりあと盛り上がっているれみを見て、少し後悔した。
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