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三章
Ⅲ
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「なぁなぁ瞬。れみちゃんとどこまで行ったんだ?」
他の研究室とは一線を画している。外からの光と温度を遮断して殺風景な打ち放しのコンクリートの内壁が陰湿さを醸しだしている。天井から煌々と照らされる照明は明るくする手助けには及ばず、馬鹿でかい実験装置の類類と床に散らばっている試験体の破片とセメントの匂いで充満した室内をただありのままの広さと手狭感をひしひしと伝えている。
ここでは実験に使われる試験体の作成作業と保管、そして規模の大きい実験を行っている。一~二年生のときに何度か簡単な実験と講義で使ったけど、本格的に使用したことはない。夏休みが終わったら本格的なテーマを与えられたそれぞれの学生による実験と作業が始まる。それより前に先輩たちの研究と実験を手伝えば、スムーズに実験ができる。
先輩たちと仲がいいという理由だけでなく、研究室に入り浸っているのはそんな邪な考えもある。それに、将来的に研究室に配属されるときの研究テーマの決定や資料作成の役に立てられるし。一石二鳥。しかも先輩たちもそれを受け入れているし。過去の自分たちと同じだったからだろう。
「なぁなぁ、もうベロンチュした?」
そう考えている学生は俺たち以外にもいるけど、今日は残念なことに健と俺だけ。そのせいでここ実験室の掃除と試験体の用意、機材の手入れが大変なのだが。とりあえず、養生スペースから小さいコンクリートを引き上げていく。大小様々な石がむきだしになっている表面を軽く雑巾で拭き取る。前もってインクで描かれているので、実験で使う用途、順番ごとに並べていく。一息ついたところで手伝いの合間に気づいて健と話したことをメモに記入、試験体を写真に収めていく。
「太もも触った? 脇わさわさした? お腹なでなでした?」
それから、先輩の今日の実験の目的を印刷した用紙を眺める。手順を確認し、ビデオカメラもきちんと動作しているし、あとは先輩の到着を待つだけ。今回のデータを記入する準備も整っているし。額の汗を拭って一息ついてここまでのことを振り返る。もし自分だったらどんな研究をするか。先輩の研究・実験を将来的に自分の研究の応用に糧にできるんだから、少しも無駄にはしたくない。
「耳舐めた? 咥えた? 吸った?髪の毛ハムハムした? 肩――――」
「うるせぇいい加減にしやがれ! 段々と気持ちの悪い質問してきやがってさすがに無視できなくなってきたわ!」
「女の子の唾ってどんな味すんの?」
「しかも更に質問を続ける胆力なんなの!?」
「いいじゃねぇか。ちょっとくらい教えてくれよぉ~」
奇麗にした機材に両腕を載せて上体の体重をかけて前のめりに。その顔と体勢は自分が知らない知識についてへの欲求がこれでもかってくらい凝縮されたワクワクと、性への果てしない欲望がこめられたギラギラさがミックスされている。講義でも実験でも手伝いでもこれくらい意欲的になればいいのに。
というか健は別にモテないわけではない。普段は気軽に接せられるし男女問わず友達も多く好感も大勢から持たれている。しかし軽薄さ+下心満載+ガツガツとした恋愛への姿勢がマイナスになっている。なにより恋人いない歴=年齢という経歴が足を引っ張っている。
俺も人のことはいえないけど、人並みに性欲はあるし恋人もほしいとおもう。合コンにもいくし、女子を異性として意識してしまうことも多分にある。無理して恋人を作る気はない。友達と遊んでいるときと先輩・後輩と過ごしている時間は楽しい。だからといってそれが個人への恋愛感情に発展はしないというだけ。まぁ、健が間近にいるから反面教師的存在になって俺の心にブレーキをかけている可能性もあるけど。
「なぁなぁ、女子高生が今はまってるモンってなに? というか女子がいいなっておもう男ってどんなの? れみちゃんと一緒にいたらそれくらい話すだろ?」
あれ? だとしたら・・・・・・・・・。もしかして俺に大学で恋人がいなかったのってもしかしたらこいつのせいなんじゃ? こいつと友達になってたらずっと恋人いないままなんじゃ?
「この疫病神め」
「急になんだよ!?」
「うるせぇコンクリートに混ぜて固めた海に沈めんぞ」
「こえぇよ! もしそんなことしたら俺だってやり返すぞ!」
「どうやってだ」
「まず頭を殴って気絶させます。そのあと頸動脈を切ります」
「普通に殺人じゃねぇか!」
「大丈夫、安心してください。その後、血抜きをしたあと内臓を全部出して水洗いします。体は焚火で丸焼きにして皮と毛を焼き落とします。そして外側が焼けた後、お腹にお米と野菜を入れて縛って閉じます。そのあと塩、香辛料を振りかけて鍋に入れて内臓と一緒に煮込みます」
「どこの部族の儀式だ! カニバリズムも真っ青な調理法じゃねぇか! しかもちょっとうまそうだし!」
「そのあと、事情を知らない先輩・知人を呼んでパーティーを開いて食べて証拠を隠滅、共犯にします。最後に残った骨を砕いて思い出と一緒に海にばらまきます」
「とんでもない周到な殺人計画になったぁぁ!」
「でもれみちゃんの家に行ったりしないん?」
「しかもこの流れでそこに戻るんかい! へこたれねぇなお前は!」
まぁ面白かったからいいけど。
「なぁいいじゃねぇか。先輩もまだ来なさそうだし。純粋に友達がどんな交際をしてるか興味があるんだよ」
「・・・・・・・・・別に普通だよ。そういうスキンシップとかえろいこととかまったくやってない健全な交際だ」
嘘をついているという後ろめたさがバレないか気が気じゃないけど、なんとかそれらしい話をでっちあげる。
「え? まじでしてないの? なにも?」
「・・・・・・・・・してない」
「手を繋いだり? イチャイチャとか? 食べさせあいっこも?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・してねぇよ」
「こっち見ろこら。しかもすっげぇ間があったぞおい」
うるせぇ。つい最近したけど、すげぇ恥ずかしかったんだよ。しかもそれを妹としたってことで今でもおもいだして死にたくなるんだよ。ドキドキしちまうんだよ。
「そうかぁ。でもまさかお前がまじであの子と付き合うとはなぁ。ナンパとかしない主義だっただろ」
「主義っていうかできなくてしたくないだけだ」
街でよくしている奴をみるけど、良い感情を抱けず眺めていた。俺にはそんな勇気もない。
「そうかぁ。まぁ運命の出会いってあるもんだからなぁ。けどそんな出会い方だったら相手の親はいやがるんじゃね? 自分の娘がナンパしてくる男と付き合うって、俺だったらショックだし認めたくないなぁ」
くそ、健のくせにまともな一般常識をのたまうとは。
「実際どうなん? れみちゃんの両親ってお前のこと」
「・・・・・・・付き合いはじめたのが最近だから、れみは言ってない可能性のほうが高いよ。それにあれくらいの年頃だったら親に色恋沙汰のこと喋らないだろ」
「まぁそうかもしれないけど。挨拶したり会ったりするのも視野に入れないとだめなんじゃねぇの?」
反射的にぞっとした。れみの両親。あの人の顔を思い浮かべてしまい嫌悪感と憎悪、怒りでどうしようもなくなって。
「どうした? 今からナーバスになってんのか?」
「・・・・・・・・・え?」
「ひでぇ顔になってるぞ」
「あ、ああ。そうかもな」
「下痢と腹痛と頭痛が同時に来てるときギャルゲの発売日が延びたのを知ったときの顔してるぞ」
健のボケに、力なく笑って返す。
「一生できる気がしないわ。れみの両親と会うのって」
「まぁ緊張するわなー」
緊張ではない。できれば一生会いたくはない。れみの義母、つまり俺の実母に。
俺の両親は幼い頃離婚している。それで、れみと父親と俺の母親が再婚して、新しい家族になった。れみのことは妹として大好きだった。義父のことは、良い人だってわかってるけどどうしても父親だと呼べなかったし受け入れられなかった。家族とはわかっていても父親ではない。どうしても同居人、よくて親戚のおじさんという認識しかもてなかった。ある程度生活に慣れたけど、どこかお互い距離をとって遠慮をしていた。
実の父親とは定期的に会っていたし、電話や手紙のやりとりはしていた。けど、中学生になったとき、ぷっつりと会えなくなった。母に尋ねると、仕事が忙しくなった、引っ越した。だからまた会えたりするまで時間がかかると言われた。父と会えなくなって寂しかったし違和感があったけど、れみと一緒に過ごす時間に救われていた。
けど、そこから一変した。俺たちの生活は。中学生はまだ子供だけど、自分なりの価値観とか考え方が固まりつつある時期。それに加えて親に対して嫌悪感を強く抱いたり反抗したりする。ぞくにいう反抗期というものだった。俺はその反抗期が特に激しかったのかもしれない。母が煩わしかった。
『子供』に対してする親の態度や口撃が不愉快で、否定されていて、自分のやることなすことを拒絶している。母親は、あの頃の俺にとってはそんな存在だった。成績、部活、友達付き合い、学校生活、なんでも把握したがったしなんでも管理したがった。複雑な家庭で俺が義父を受け入れていないっていうのもあったんだろう。神経質で過干渉な母が嫌で、毎日口論になった。喧嘩していないときはなかった。
毎日れみを心配させて、れみを泣かせていた。それが申し訳なくて、けどそれを発散させる場所がなくて余計母とのやりとりが増えて強くなった。
そして、中学二年生になってある日真実を知った。父は事故に入院していると父方の親戚から連絡を受けて、お見舞いにいった。父と会えなくなったのは母が嘘をついていたからだったと知った。中学に入ったのを機に、母は父と俺が関わるのをやめさせようとした。もうあの子と会うのをやめてくれ、連絡もしないでくれ、あなたと会うのがあの子は嫌になっている、新しい家族に慣れて皆親しんでいる、義父をお父さんと呼んでいる、あなたと会いたくない。でたらめな嘘を父に言い続けた。
許せなかった。自分の都合で、自分勝手な考えで父との関わりを終わらせた母が。すぐに家に帰って母にぶち切れた。今までの不満、ストレス、とにかくぶちまけ続けた。母は言い訳をしていたけど、覚えていない。余計怒りが強くなっただけという記憶しかない。れみがとめに入っていなかったら殺していたかもしれない。明確な殺意と憎悪があった。
もうここにいたくない。ここにいたらだめだ。自分の部屋の物を手当たり次第に鞄に詰め込んで、家を出ようとした。玄関を出ようとしたとき、れみが現われた。俺が出て行くのを察したのか。俺の動向が不安だったのか。とにかく驚いているとれみが泣きながら縋りついてきた。
『おにいちゃん、いかないで』
迷った。母とはもう一緒にいたくはなかった。けど、れみは好きだった。大切な義妹で、俺に甘えてばっかりで俺に頼って俺がいないとなにもできない。この家では母より義父より、誰より俺の家族だった。この子がいたから俺は救われていた。この子を置いていっていいのだろうか。この子は今後この家で俺がいなくてやっていけるのか。
『れみ、いいこになります。まいあさ、ひとりでおきれるようになります。おりょうりもします。おかあさんにもいっしょにあやまります。おかあさんがおにいちゃんにあやまるなられみもいっしょにごめんなさいします。なかよしさんになれるようにがんばります。だからいかないでください』
泣きじゃくって鼻水を垂らしまくって、必死でつなぎとめてくるれみ。誰より優しくて、良い子なれみ。俺を、自分の家族を必死で繋ぎとめようとしている。そんなれみより俺は自分のことを優先した。れみのお願いを聞く兄ではなく、母親と一緒に住むのを肯んじない他人になることを選んだ。
『ごめんな』
最後に背中と頭を一撫でして、引き剥がした。それから全速力で走って外に出て目的地まで走り続けた。れみは裸足で追いかけてきたけど途中で転んだのか、おにいちゃんと呼ぶ声はいつしか聞こえなくなっていた。父の入院している病院にそのまま行って、そのまま事情を説明した。勝手だったけど、父は俺の言い分を受け入れてくれた。そのまま父の住んでいる場所に居候。それから様々な手続きとやりとりを経て、俺は父の扶養に入った。名字も戻ってれみたちとの一切が消えてしまった。
あれかられみたちがどうやって暮らしてきたのか。俺の存在があの人たちの間でどうなっているのか。今の母とれみの関係や親密性はどうなのか。気にならないといえば嘘になる。けど、俺はまだ母を許せないでいる。きっと一生許せないだろう。もう信じられないし会いたくもない。
「変わっていないな俺は」
あのときみたいに、また自分本位で考えて優先してしまっている。結局俺はれみの義兄ぶる資格もあの子に兄さんと呼ばれる権利もない。だめなやつだ。
「お? チキンすぎる男だなぁ。じゃあ俺が代わりに挨拶行っちゃうぞ? 娘さんを俺にくださいって」
「うるせぇ。お前にはやらねぇよ」
「お前のもんじゃねぇだろうに」
考えてみれば、いいのかもしれない。期限付きのれみとの関係は。れみが満足するか俺の生活態度が直れば俺たちの関係はまた終わりを迎える。その間、あの人 ――母―― と関わらなければいけない理由もない。むしろ俺がちゃんと真人間に戻れば、少なくともれみがそうだと判断してくれるのが早いほど、母と関わるかもしれない危険性が減る。
逆に今の関係性はやばい。なんらかの形であの家の人たちに知られたら。れみに付き合っている人がいるとか男の家に通い妻になっている状態とかその相手が元義兄で、自分と仲違いした息子だってことを知ったら。確実になんらかのアクションをおこしてくる。
「頑張らないとな」
れみを納得させるだけの行動への熱意が今更芽生えた。れみが嘘をついていることの負担を無くせるし、めんどくさい通い妻状態で元義兄を矯正する生活から解放してやれる。けど、それでいいのか? 自問がどこからわずかに生じて、自答に困る。れみとまた会えなくなっても。それは俺の個人的感傷で、わがままのはずなのに。
「ん? なんか準備してないものあったっけ?」
「お前臭ぇよ」
「いきなりなんだよ脈絡なさすぎる罵倒だろ!」
健に適当にごまかしている間に先輩がやってきて、実験をはじめる。けど、集中できなかった。いいのか? と何度も自問する。自答がいつまでたってもできなかった。
他の研究室とは一線を画している。外からの光と温度を遮断して殺風景な打ち放しのコンクリートの内壁が陰湿さを醸しだしている。天井から煌々と照らされる照明は明るくする手助けには及ばず、馬鹿でかい実験装置の類類と床に散らばっている試験体の破片とセメントの匂いで充満した室内をただありのままの広さと手狭感をひしひしと伝えている。
ここでは実験に使われる試験体の作成作業と保管、そして規模の大きい実験を行っている。一~二年生のときに何度か簡単な実験と講義で使ったけど、本格的に使用したことはない。夏休みが終わったら本格的なテーマを与えられたそれぞれの学生による実験と作業が始まる。それより前に先輩たちの研究と実験を手伝えば、スムーズに実験ができる。
先輩たちと仲がいいという理由だけでなく、研究室に入り浸っているのはそんな邪な考えもある。それに、将来的に研究室に配属されるときの研究テーマの決定や資料作成の役に立てられるし。一石二鳥。しかも先輩たちもそれを受け入れているし。過去の自分たちと同じだったからだろう。
「なぁなぁ、もうベロンチュした?」
そう考えている学生は俺たち以外にもいるけど、今日は残念なことに健と俺だけ。そのせいでここ実験室の掃除と試験体の用意、機材の手入れが大変なのだが。とりあえず、養生スペースから小さいコンクリートを引き上げていく。大小様々な石がむきだしになっている表面を軽く雑巾で拭き取る。前もってインクで描かれているので、実験で使う用途、順番ごとに並べていく。一息ついたところで手伝いの合間に気づいて健と話したことをメモに記入、試験体を写真に収めていく。
「太もも触った? 脇わさわさした? お腹なでなでした?」
それから、先輩の今日の実験の目的を印刷した用紙を眺める。手順を確認し、ビデオカメラもきちんと動作しているし、あとは先輩の到着を待つだけ。今回のデータを記入する準備も整っているし。額の汗を拭って一息ついてここまでのことを振り返る。もし自分だったらどんな研究をするか。先輩の研究・実験を将来的に自分の研究の応用に糧にできるんだから、少しも無駄にはしたくない。
「耳舐めた? 咥えた? 吸った?髪の毛ハムハムした? 肩――――」
「うるせぇいい加減にしやがれ! 段々と気持ちの悪い質問してきやがってさすがに無視できなくなってきたわ!」
「女の子の唾ってどんな味すんの?」
「しかも更に質問を続ける胆力なんなの!?」
「いいじゃねぇか。ちょっとくらい教えてくれよぉ~」
奇麗にした機材に両腕を載せて上体の体重をかけて前のめりに。その顔と体勢は自分が知らない知識についてへの欲求がこれでもかってくらい凝縮されたワクワクと、性への果てしない欲望がこめられたギラギラさがミックスされている。講義でも実験でも手伝いでもこれくらい意欲的になればいいのに。
というか健は別にモテないわけではない。普段は気軽に接せられるし男女問わず友達も多く好感も大勢から持たれている。しかし軽薄さ+下心満載+ガツガツとした恋愛への姿勢がマイナスになっている。なにより恋人いない歴=年齢という経歴が足を引っ張っている。
俺も人のことはいえないけど、人並みに性欲はあるし恋人もほしいとおもう。合コンにもいくし、女子を異性として意識してしまうことも多分にある。無理して恋人を作る気はない。友達と遊んでいるときと先輩・後輩と過ごしている時間は楽しい。だからといってそれが個人への恋愛感情に発展はしないというだけ。まぁ、健が間近にいるから反面教師的存在になって俺の心にブレーキをかけている可能性もあるけど。
「なぁなぁ、女子高生が今はまってるモンってなに? というか女子がいいなっておもう男ってどんなの? れみちゃんと一緒にいたらそれくらい話すだろ?」
あれ? だとしたら・・・・・・・・・。もしかして俺に大学で恋人がいなかったのってもしかしたらこいつのせいなんじゃ? こいつと友達になってたらずっと恋人いないままなんじゃ?
「この疫病神め」
「急になんだよ!?」
「うるせぇコンクリートに混ぜて固めた海に沈めんぞ」
「こえぇよ! もしそんなことしたら俺だってやり返すぞ!」
「どうやってだ」
「まず頭を殴って気絶させます。そのあと頸動脈を切ります」
「普通に殺人じゃねぇか!」
「大丈夫、安心してください。その後、血抜きをしたあと内臓を全部出して水洗いします。体は焚火で丸焼きにして皮と毛を焼き落とします。そして外側が焼けた後、お腹にお米と野菜を入れて縛って閉じます。そのあと塩、香辛料を振りかけて鍋に入れて内臓と一緒に煮込みます」
「どこの部族の儀式だ! カニバリズムも真っ青な調理法じゃねぇか! しかもちょっとうまそうだし!」
「そのあと、事情を知らない先輩・知人を呼んでパーティーを開いて食べて証拠を隠滅、共犯にします。最後に残った骨を砕いて思い出と一緒に海にばらまきます」
「とんでもない周到な殺人計画になったぁぁ!」
「でもれみちゃんの家に行ったりしないん?」
「しかもこの流れでそこに戻るんかい! へこたれねぇなお前は!」
まぁ面白かったからいいけど。
「なぁいいじゃねぇか。先輩もまだ来なさそうだし。純粋に友達がどんな交際をしてるか興味があるんだよ」
「・・・・・・・・・別に普通だよ。そういうスキンシップとかえろいこととかまったくやってない健全な交際だ」
嘘をついているという後ろめたさがバレないか気が気じゃないけど、なんとかそれらしい話をでっちあげる。
「え? まじでしてないの? なにも?」
「・・・・・・・・・してない」
「手を繋いだり? イチャイチャとか? 食べさせあいっこも?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・してねぇよ」
「こっち見ろこら。しかもすっげぇ間があったぞおい」
うるせぇ。つい最近したけど、すげぇ恥ずかしかったんだよ。しかもそれを妹としたってことで今でもおもいだして死にたくなるんだよ。ドキドキしちまうんだよ。
「そうかぁ。でもまさかお前がまじであの子と付き合うとはなぁ。ナンパとかしない主義だっただろ」
「主義っていうかできなくてしたくないだけだ」
街でよくしている奴をみるけど、良い感情を抱けず眺めていた。俺にはそんな勇気もない。
「そうかぁ。まぁ運命の出会いってあるもんだからなぁ。けどそんな出会い方だったら相手の親はいやがるんじゃね? 自分の娘がナンパしてくる男と付き合うって、俺だったらショックだし認めたくないなぁ」
くそ、健のくせにまともな一般常識をのたまうとは。
「実際どうなん? れみちゃんの両親ってお前のこと」
「・・・・・・・付き合いはじめたのが最近だから、れみは言ってない可能性のほうが高いよ。それにあれくらいの年頃だったら親に色恋沙汰のこと喋らないだろ」
「まぁそうかもしれないけど。挨拶したり会ったりするのも視野に入れないとだめなんじゃねぇの?」
反射的にぞっとした。れみの両親。あの人の顔を思い浮かべてしまい嫌悪感と憎悪、怒りでどうしようもなくなって。
「どうした? 今からナーバスになってんのか?」
「・・・・・・・・・え?」
「ひでぇ顔になってるぞ」
「あ、ああ。そうかもな」
「下痢と腹痛と頭痛が同時に来てるときギャルゲの発売日が延びたのを知ったときの顔してるぞ」
健のボケに、力なく笑って返す。
「一生できる気がしないわ。れみの両親と会うのって」
「まぁ緊張するわなー」
緊張ではない。できれば一生会いたくはない。れみの義母、つまり俺の実母に。
俺の両親は幼い頃離婚している。それで、れみと父親と俺の母親が再婚して、新しい家族になった。れみのことは妹として大好きだった。義父のことは、良い人だってわかってるけどどうしても父親だと呼べなかったし受け入れられなかった。家族とはわかっていても父親ではない。どうしても同居人、よくて親戚のおじさんという認識しかもてなかった。ある程度生活に慣れたけど、どこかお互い距離をとって遠慮をしていた。
実の父親とは定期的に会っていたし、電話や手紙のやりとりはしていた。けど、中学生になったとき、ぷっつりと会えなくなった。母に尋ねると、仕事が忙しくなった、引っ越した。だからまた会えたりするまで時間がかかると言われた。父と会えなくなって寂しかったし違和感があったけど、れみと一緒に過ごす時間に救われていた。
けど、そこから一変した。俺たちの生活は。中学生はまだ子供だけど、自分なりの価値観とか考え方が固まりつつある時期。それに加えて親に対して嫌悪感を強く抱いたり反抗したりする。ぞくにいう反抗期というものだった。俺はその反抗期が特に激しかったのかもしれない。母が煩わしかった。
『子供』に対してする親の態度や口撃が不愉快で、否定されていて、自分のやることなすことを拒絶している。母親は、あの頃の俺にとってはそんな存在だった。成績、部活、友達付き合い、学校生活、なんでも把握したがったしなんでも管理したがった。複雑な家庭で俺が義父を受け入れていないっていうのもあったんだろう。神経質で過干渉な母が嫌で、毎日口論になった。喧嘩していないときはなかった。
毎日れみを心配させて、れみを泣かせていた。それが申し訳なくて、けどそれを発散させる場所がなくて余計母とのやりとりが増えて強くなった。
そして、中学二年生になってある日真実を知った。父は事故に入院していると父方の親戚から連絡を受けて、お見舞いにいった。父と会えなくなったのは母が嘘をついていたからだったと知った。中学に入ったのを機に、母は父と俺が関わるのをやめさせようとした。もうあの子と会うのをやめてくれ、連絡もしないでくれ、あなたと会うのがあの子は嫌になっている、新しい家族に慣れて皆親しんでいる、義父をお父さんと呼んでいる、あなたと会いたくない。でたらめな嘘を父に言い続けた。
許せなかった。自分の都合で、自分勝手な考えで父との関わりを終わらせた母が。すぐに家に帰って母にぶち切れた。今までの不満、ストレス、とにかくぶちまけ続けた。母は言い訳をしていたけど、覚えていない。余計怒りが強くなっただけという記憶しかない。れみがとめに入っていなかったら殺していたかもしれない。明確な殺意と憎悪があった。
もうここにいたくない。ここにいたらだめだ。自分の部屋の物を手当たり次第に鞄に詰め込んで、家を出ようとした。玄関を出ようとしたとき、れみが現われた。俺が出て行くのを察したのか。俺の動向が不安だったのか。とにかく驚いているとれみが泣きながら縋りついてきた。
『おにいちゃん、いかないで』
迷った。母とはもう一緒にいたくはなかった。けど、れみは好きだった。大切な義妹で、俺に甘えてばっかりで俺に頼って俺がいないとなにもできない。この家では母より義父より、誰より俺の家族だった。この子がいたから俺は救われていた。この子を置いていっていいのだろうか。この子は今後この家で俺がいなくてやっていけるのか。
『れみ、いいこになります。まいあさ、ひとりでおきれるようになります。おりょうりもします。おかあさんにもいっしょにあやまります。おかあさんがおにいちゃんにあやまるなられみもいっしょにごめんなさいします。なかよしさんになれるようにがんばります。だからいかないでください』
泣きじゃくって鼻水を垂らしまくって、必死でつなぎとめてくるれみ。誰より優しくて、良い子なれみ。俺を、自分の家族を必死で繋ぎとめようとしている。そんなれみより俺は自分のことを優先した。れみのお願いを聞く兄ではなく、母親と一緒に住むのを肯んじない他人になることを選んだ。
『ごめんな』
最後に背中と頭を一撫でして、引き剥がした。それから全速力で走って外に出て目的地まで走り続けた。れみは裸足で追いかけてきたけど途中で転んだのか、おにいちゃんと呼ぶ声はいつしか聞こえなくなっていた。父の入院している病院にそのまま行って、そのまま事情を説明した。勝手だったけど、父は俺の言い分を受け入れてくれた。そのまま父の住んでいる場所に居候。それから様々な手続きとやりとりを経て、俺は父の扶養に入った。名字も戻ってれみたちとの一切が消えてしまった。
あれかられみたちがどうやって暮らしてきたのか。俺の存在があの人たちの間でどうなっているのか。今の母とれみの関係や親密性はどうなのか。気にならないといえば嘘になる。けど、俺はまだ母を許せないでいる。きっと一生許せないだろう。もう信じられないし会いたくもない。
「変わっていないな俺は」
あのときみたいに、また自分本位で考えて優先してしまっている。結局俺はれみの義兄ぶる資格もあの子に兄さんと呼ばれる権利もない。だめなやつだ。
「お? チキンすぎる男だなぁ。じゃあ俺が代わりに挨拶行っちゃうぞ? 娘さんを俺にくださいって」
「うるせぇ。お前にはやらねぇよ」
「お前のもんじゃねぇだろうに」
考えてみれば、いいのかもしれない。期限付きのれみとの関係は。れみが満足するか俺の生活態度が直れば俺たちの関係はまた終わりを迎える。その間、あの人 ――母―― と関わらなければいけない理由もない。むしろ俺がちゃんと真人間に戻れば、少なくともれみがそうだと判断してくれるのが早いほど、母と関わるかもしれない危険性が減る。
逆に今の関係性はやばい。なんらかの形であの家の人たちに知られたら。れみに付き合っている人がいるとか男の家に通い妻になっている状態とかその相手が元義兄で、自分と仲違いした息子だってことを知ったら。確実になんらかのアクションをおこしてくる。
「頑張らないとな」
れみを納得させるだけの行動への熱意が今更芽生えた。れみが嘘をついていることの負担を無くせるし、めんどくさい通い妻状態で元義兄を矯正する生活から解放してやれる。けど、それでいいのか? 自問がどこからわずかに生じて、自答に困る。れみとまた会えなくなっても。それは俺の個人的感傷で、わがままのはずなのに。
「ん? なんか準備してないものあったっけ?」
「お前臭ぇよ」
「いきなりなんだよ脈絡なさすぎる罵倒だろ!」
健に適当にごまかしている間に先輩がやってきて、実験をはじめる。けど、集中できなかった。いいのか? と何度も自問する。自答がいつまでたってもできなかった。
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それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。
願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。
スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。
ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。
※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
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