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雷鳴轟く四日目
黙祷
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「随分と、白々しい発言ですね。二人を殺したのはあなたでしょう?」
聞く者の心を震えさせるような低い声で、神楽耶が言う。
鬼道院は最初その言葉が誰に向けられているものなのか分からなかったようで背後を振り返った。しかし、後ろに誰もいないのを見てようやく自分が言われていることに気づき、微かに首を傾げた。
「はて、なぜ私が疑われているのでしょうか? 突然そんな敵意を向けられても、私としては困ってしまうのですが」
この凄惨な現場においても、鬼道院の異様な雰囲気は損なわれない。その一言一言が、相手の心を揺さぶるパワーを持っている。
しかし今の神楽耶には通じない。同性二人の悲惨な死に柄を見て、彼女の頭のねじは何本か抜けてしまっていた。それゆえ、鬼道院の威圧に一切臆することなく、はっきりと言葉を返した。
「状況が、あなたが犯人であることを指し示しています。あなたを除く全員が、ついさっきまで娯楽室にいました。娯楽室を出てから私と東郷さん以外は別行動を始めましたが、それでも時間にしてみればたった十分程度です。秋華さんと姫宮さんを殺し、こんな……こんなひどいことをする時間の余裕はありませんでした。ですから、あなたしか二人を殺せる人間はいないんです」
鬼道院は細い目を更に細め、首元の琥珀石の数珠をなで始める。
娯楽室にいた明たちからすれば、神楽耶の言っていることは至極当然のもの。スペルの効果範囲から考えても、娯楽室にいた明たちでは別館にいた二人を殺すことができない。ましてただ殺すだけでなく、死体に装飾を施すような時間はなかった。それゆえ神楽耶の推理にはこれ以上ない正当性が感じられた。
しかし一方で。もし鬼道院が彼女たちを殺していなかったのだとすれば。今の状況はかなり奇妙で、神楽耶の言葉こそが信用に値しないものに違いない。
どう言葉を返せばいいか考えているのか、鬼道院は中々口を開かない。
一分以上黙した後口を開くも、それはやはり、彼女の言葉の正しさを尋ねるものだった。
「東郷さん。娯楽室を離れ、一人で行動していた私には分からないのですが、神楽耶さんの言っていることは事実なのでしょうか? 私以外には、誰一人として彼女たちを殺す時間がある者はいなかったと」
明は一瞬佐久間へと視線を向けかけたが、ギリギリで堪え、小さく頷いた。
「そうだな。基本的にはお前しか犯行が可能だったものはいない。時を止めるスペルが存在している、なんてことでもあれば別だろうがな」
「……そうですか。となると現状、私の無実を証明することは非常に困難ですね。皆さんのキラースペルが全て判明すれば、私以外の者が犯人であることを示すのも可能だと思われますが――」
「虚言致死」
鬼道院の言葉を遮るようにして、神楽耶がキラースペルを唱える。
あまりに唐突なスペルの行使に明と鬼道院が反応しきれずにいる中、神楽耶は冷え切った声で告げた。
「無実を証明したいのでしたら、以前大広間で橋爪さん殺しを否定したように、今この場で宣言してください。私はキラースペルゲームに参加していた秋華千尋と、姫宮真貴を殺していないと」
「……おい、神楽耶。お前は自分が何をやっているのか分かっているのか? その力を使った以上、お前も人殺しになる可能性があるんだぞ。それにもし――」
「大丈夫ですよ東郷さん。私も覚悟を決めましたし、ちゃんと考えて唱えましたから」
明の呼びかけに対しても、平坦な、感情を押し殺した声ですぐさま言葉を返す。そして荒んだ目を真っすぐ鬼道院に向けたまま、神楽耶は淡々と考えを述べた。
「秋華さんたちの状態を見るに、これがトラップを用いた殺害でないのは明らかです。なので鬼道院が私の唱えた『虚言致死』を誤魔化すことは不可能なはずです。それに今回、私は彼のみを対象にスペルを唱えました。ですから佐久間さんがカウンタースペルをいまだ所持しており、ここでその力を使ったとしても私が死ぬことはありません。そしてまた、鬼道院がカウンタースペルを持っている可能性も限りなく低いはずです。もし彼もカウンタースペルを持っていたなら、大広間に私たちを閉じ込める作戦を六道さんや姫宮さんが決行するはずないですから」
「それは確かにその通りだが、もしこいつが姫宮たちを殺した犯人なら、姫宮を殺す直前にカウンタースペルを聞いている可能性だって――」
「万が一そうだった場合は、死ぬ前に東郷さんの持っている包丁を借りて鬼道院を刺殺します。私のイメージした死に方であれば、効果が発動してから数十秒は何とか動けるでしょうから」
紡がれる言葉の一つ一つから、神楽耶が本気で鬼道院を問い詰めに――殺しにかかっていることが窺われる。
明としてはこの状況、神楽耶を止めるべきかどうか悩んでいた。
彼女とチームを組むにあたって人殺しは全て自身が引き受けると約束した手前、このまま神楽耶の自由にさせることには躊躇いがある。もし神楽耶の望み通り鬼道院が二人を殺していると認めた場合、それで神楽耶が満足して引き下がるとは思えない。鬼道院が認めた時点で、どうにかして彼を殺そうと次なる行動に移ることが予想されるからだ。
そして鬼道院がそのことを察していないはずもない。殺される前に殺そうと、スペルを唱えてくる可能性も十分にある。そうなれば今の明たちに抗う術は残されていなかった。
それゆえここは神楽耶を止めるべきなのだろうが、どんな言葉をかければいいのかが分からない。明の脳裏には二人を殺害した犯人として――妄想の域は出ないが――鬼道院以外の人物も既に思い描かれていた。なのでそれについて話せば神楽耶の気を引くことは可能かもしれないが――万が一その人物が本当に犯人であった場合のことを考えると、ここでそれを告げることも躊躇われた。
何か他に神楽耶の意識を逸らせるものはないかと思案する。しかしそんな明の考えは、あっさりと打ち切られることになった。
「私は、キラースペルゲームに参加していた秋華千尋さんも姫宮真貴さんも、殺してはいませんよ」
いとも容易く。
何の気負いも見せずに、鬼道院はそう宣言した。
神楽耶は一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐに強張った表情に戻り、じっと鬼道院を見つめた。
十秒、二十秒、三十秒――
ゆっくりと時間が過ぎていくが、鬼道院にスペルが発動した様子は見られない。かすかに開いた瞼を時折瞬かせながら、悠然と神楽耶を見据えている。
一分が経過し、それでも鬼道院に異変が見られなったことから、神楽耶もこれ以上待つのは諦めたようだ。
目を閉じて小さく深呼吸をし、状況を正しく理解しようと努める。そして、新たな可能性を導いたのか、ぱちりと目を開け、言った。
「分かりました。二人を殺したスペルの力は、人を操る能力ですね。それなら今の答えでスペルが発動しなかったことに説明がつきます。あなたは直接二人を殺したわけではないから、今の問いでは『虚言致死』が発動しなかった。……なら質問の仕方を変えます。あなたはスペルの力で人を操って――」
「一旦そこまでにしておけ」
鬼道院を問い詰めるというスタンスを崩そうとしない神楽耶に、明が制止の声をかける。せっかくの問いかけに水を差され、神楽耶はきつい視線を明に向けてきた。
明はその視線を軽くいなすと、落ち着くよう説得を開始した。
「鬼道院が心の底から疑わしいのは分かる。だが先の問いかけに対する答えが虚偽でなかった以上、ここは一旦引いておけ」
「そんな! 状況からして鬼道院が二人を殺した犯人であることに間違いはないはずです! ここで引く理由なんて――」
「いや、俺たちと鬼道院の疑わしさはイーブンだ。今お前が考えたような他者を操るスペルが存在しているなら、娯楽室にいながら二人を殺すことも可能だからな。その時点で鬼道院を犯人だと決めつける根拠は消滅する」
「で、でも、二人には暴行された跡があったんですよね。いくら何でも娯楽室から出て数分の間にそんなことは……」
「人を操れるなら暴行したように見せかけるのは簡単だ。先に精子をコップか何かに集めておき、それを殺した後に詰めさせればいい。ゆえにスペル使用者本人が死体に近づける時間は、この際問題にならない」
「それは……、そうかも、しれませんけど……」
明の言い分に正しさを感じていながらも、一度間違いないと考えた推理をあっさり否定するのは難しいようだ。「なら、人を操作する以外のスペルで――」と、鬼道院でしか犯人となりえないようなスペルを模索し始めた。
明は小さくため息をつき、「残念だが、スペルについての予測は無意味だぞ。そこから導き出せる可能性は無数にある」と、無駄な考えを放棄するよう諭した。
神楽耶が悄然と肩を落とし、やりきれない表情で秋華と姫宮の死体に目を向ける。
一方、取り敢えず自身への疑いは晴れたとみた鬼道院は、静々と二つの死体のそばへ足を進めた。
凄惨な二つの死体を前に、鬼道院は琥珀石の数珠を軽く握りしめ、黙祷を捧げる。
哀悼と厳粛さをはっきりと擁する、まさしく教祖然とした後ろ姿。明と神楽耶、さらには泣き崩れていた佐久間も感化され、皆教祖に追従して黙祷を捧げた。
一分を超える長い黙祷の後、教祖は目を開いた。明たちもそれを敏感に察知して、目を開けていく。
ここが殺し合いを強制される館であることを忘れてしまいそうな静謐さが、彼らを包む。
その空気を壊さないよう、教祖は宙を滑るが如く静かに動き出す。そして明の隣に移動すると小声で、
「一昨日の件、お受けいたします。ただし私は自身のスペル『屍体操作』と『記憶改竄』、を使用したいと思います。それでは」
そう告げ、何事もなかったかのように通路を歩いていった。
予想外のことに明は完全に反応し遅れ、数秒してから慌てて鬼道院を振り返る。しかしそれと同時に、緊張の糸が切れたのか、神楽耶がふらりと体をよろめかせた。
素早く手を伸ばし神楽耶を抱きとめるも、その間に鬼道院の姿は視界から完全に消えてしまった。
聞く者の心を震えさせるような低い声で、神楽耶が言う。
鬼道院は最初その言葉が誰に向けられているものなのか分からなかったようで背後を振り返った。しかし、後ろに誰もいないのを見てようやく自分が言われていることに気づき、微かに首を傾げた。
「はて、なぜ私が疑われているのでしょうか? 突然そんな敵意を向けられても、私としては困ってしまうのですが」
この凄惨な現場においても、鬼道院の異様な雰囲気は損なわれない。その一言一言が、相手の心を揺さぶるパワーを持っている。
しかし今の神楽耶には通じない。同性二人の悲惨な死に柄を見て、彼女の頭のねじは何本か抜けてしまっていた。それゆえ、鬼道院の威圧に一切臆することなく、はっきりと言葉を返した。
「状況が、あなたが犯人であることを指し示しています。あなたを除く全員が、ついさっきまで娯楽室にいました。娯楽室を出てから私と東郷さん以外は別行動を始めましたが、それでも時間にしてみればたった十分程度です。秋華さんと姫宮さんを殺し、こんな……こんなひどいことをする時間の余裕はありませんでした。ですから、あなたしか二人を殺せる人間はいないんです」
鬼道院は細い目を更に細め、首元の琥珀石の数珠をなで始める。
娯楽室にいた明たちからすれば、神楽耶の言っていることは至極当然のもの。スペルの効果範囲から考えても、娯楽室にいた明たちでは別館にいた二人を殺すことができない。ましてただ殺すだけでなく、死体に装飾を施すような時間はなかった。それゆえ神楽耶の推理にはこれ以上ない正当性が感じられた。
しかし一方で。もし鬼道院が彼女たちを殺していなかったのだとすれば。今の状況はかなり奇妙で、神楽耶の言葉こそが信用に値しないものに違いない。
どう言葉を返せばいいか考えているのか、鬼道院は中々口を開かない。
一分以上黙した後口を開くも、それはやはり、彼女の言葉の正しさを尋ねるものだった。
「東郷さん。娯楽室を離れ、一人で行動していた私には分からないのですが、神楽耶さんの言っていることは事実なのでしょうか? 私以外には、誰一人として彼女たちを殺す時間がある者はいなかったと」
明は一瞬佐久間へと視線を向けかけたが、ギリギリで堪え、小さく頷いた。
「そうだな。基本的にはお前しか犯行が可能だったものはいない。時を止めるスペルが存在している、なんてことでもあれば別だろうがな」
「……そうですか。となると現状、私の無実を証明することは非常に困難ですね。皆さんのキラースペルが全て判明すれば、私以外の者が犯人であることを示すのも可能だと思われますが――」
「虚言致死」
鬼道院の言葉を遮るようにして、神楽耶がキラースペルを唱える。
あまりに唐突なスペルの行使に明と鬼道院が反応しきれずにいる中、神楽耶は冷え切った声で告げた。
「無実を証明したいのでしたら、以前大広間で橋爪さん殺しを否定したように、今この場で宣言してください。私はキラースペルゲームに参加していた秋華千尋と、姫宮真貴を殺していないと」
「……おい、神楽耶。お前は自分が何をやっているのか分かっているのか? その力を使った以上、お前も人殺しになる可能性があるんだぞ。それにもし――」
「大丈夫ですよ東郷さん。私も覚悟を決めましたし、ちゃんと考えて唱えましたから」
明の呼びかけに対しても、平坦な、感情を押し殺した声ですぐさま言葉を返す。そして荒んだ目を真っすぐ鬼道院に向けたまま、神楽耶は淡々と考えを述べた。
「秋華さんたちの状態を見るに、これがトラップを用いた殺害でないのは明らかです。なので鬼道院が私の唱えた『虚言致死』を誤魔化すことは不可能なはずです。それに今回、私は彼のみを対象にスペルを唱えました。ですから佐久間さんがカウンタースペルをいまだ所持しており、ここでその力を使ったとしても私が死ぬことはありません。そしてまた、鬼道院がカウンタースペルを持っている可能性も限りなく低いはずです。もし彼もカウンタースペルを持っていたなら、大広間に私たちを閉じ込める作戦を六道さんや姫宮さんが決行するはずないですから」
「それは確かにその通りだが、もしこいつが姫宮たちを殺した犯人なら、姫宮を殺す直前にカウンタースペルを聞いている可能性だって――」
「万が一そうだった場合は、死ぬ前に東郷さんの持っている包丁を借りて鬼道院を刺殺します。私のイメージした死に方であれば、効果が発動してから数十秒は何とか動けるでしょうから」
紡がれる言葉の一つ一つから、神楽耶が本気で鬼道院を問い詰めに――殺しにかかっていることが窺われる。
明としてはこの状況、神楽耶を止めるべきかどうか悩んでいた。
彼女とチームを組むにあたって人殺しは全て自身が引き受けると約束した手前、このまま神楽耶の自由にさせることには躊躇いがある。もし神楽耶の望み通り鬼道院が二人を殺していると認めた場合、それで神楽耶が満足して引き下がるとは思えない。鬼道院が認めた時点で、どうにかして彼を殺そうと次なる行動に移ることが予想されるからだ。
そして鬼道院がそのことを察していないはずもない。殺される前に殺そうと、スペルを唱えてくる可能性も十分にある。そうなれば今の明たちに抗う術は残されていなかった。
それゆえここは神楽耶を止めるべきなのだろうが、どんな言葉をかければいいのかが分からない。明の脳裏には二人を殺害した犯人として――妄想の域は出ないが――鬼道院以外の人物も既に思い描かれていた。なのでそれについて話せば神楽耶の気を引くことは可能かもしれないが――万が一その人物が本当に犯人であった場合のことを考えると、ここでそれを告げることも躊躇われた。
何か他に神楽耶の意識を逸らせるものはないかと思案する。しかしそんな明の考えは、あっさりと打ち切られることになった。
「私は、キラースペルゲームに参加していた秋華千尋さんも姫宮真貴さんも、殺してはいませんよ」
いとも容易く。
何の気負いも見せずに、鬼道院はそう宣言した。
神楽耶は一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐに強張った表情に戻り、じっと鬼道院を見つめた。
十秒、二十秒、三十秒――
ゆっくりと時間が過ぎていくが、鬼道院にスペルが発動した様子は見られない。かすかに開いた瞼を時折瞬かせながら、悠然と神楽耶を見据えている。
一分が経過し、それでも鬼道院に異変が見られなったことから、神楽耶もこれ以上待つのは諦めたようだ。
目を閉じて小さく深呼吸をし、状況を正しく理解しようと努める。そして、新たな可能性を導いたのか、ぱちりと目を開け、言った。
「分かりました。二人を殺したスペルの力は、人を操る能力ですね。それなら今の答えでスペルが発動しなかったことに説明がつきます。あなたは直接二人を殺したわけではないから、今の問いでは『虚言致死』が発動しなかった。……なら質問の仕方を変えます。あなたはスペルの力で人を操って――」
「一旦そこまでにしておけ」
鬼道院を問い詰めるというスタンスを崩そうとしない神楽耶に、明が制止の声をかける。せっかくの問いかけに水を差され、神楽耶はきつい視線を明に向けてきた。
明はその視線を軽くいなすと、落ち着くよう説得を開始した。
「鬼道院が心の底から疑わしいのは分かる。だが先の問いかけに対する答えが虚偽でなかった以上、ここは一旦引いておけ」
「そんな! 状況からして鬼道院が二人を殺した犯人であることに間違いはないはずです! ここで引く理由なんて――」
「いや、俺たちと鬼道院の疑わしさはイーブンだ。今お前が考えたような他者を操るスペルが存在しているなら、娯楽室にいながら二人を殺すことも可能だからな。その時点で鬼道院を犯人だと決めつける根拠は消滅する」
「で、でも、二人には暴行された跡があったんですよね。いくら何でも娯楽室から出て数分の間にそんなことは……」
「人を操れるなら暴行したように見せかけるのは簡単だ。先に精子をコップか何かに集めておき、それを殺した後に詰めさせればいい。ゆえにスペル使用者本人が死体に近づける時間は、この際問題にならない」
「それは……、そうかも、しれませんけど……」
明の言い分に正しさを感じていながらも、一度間違いないと考えた推理をあっさり否定するのは難しいようだ。「なら、人を操作する以外のスペルで――」と、鬼道院でしか犯人となりえないようなスペルを模索し始めた。
明は小さくため息をつき、「残念だが、スペルについての予測は無意味だぞ。そこから導き出せる可能性は無数にある」と、無駄な考えを放棄するよう諭した。
神楽耶が悄然と肩を落とし、やりきれない表情で秋華と姫宮の死体に目を向ける。
一方、取り敢えず自身への疑いは晴れたとみた鬼道院は、静々と二つの死体のそばへ足を進めた。
凄惨な二つの死体を前に、鬼道院は琥珀石の数珠を軽く握りしめ、黙祷を捧げる。
哀悼と厳粛さをはっきりと擁する、まさしく教祖然とした後ろ姿。明と神楽耶、さらには泣き崩れていた佐久間も感化され、皆教祖に追従して黙祷を捧げた。
一分を超える長い黙祷の後、教祖は目を開いた。明たちもそれを敏感に察知して、目を開けていく。
ここが殺し合いを強制される館であることを忘れてしまいそうな静謐さが、彼らを包む。
その空気を壊さないよう、教祖は宙を滑るが如く静かに動き出す。そして明の隣に移動すると小声で、
「一昨日の件、お受けいたします。ただし私は自身のスペル『屍体操作』と『記憶改竄』、を使用したいと思います。それでは」
そう告げ、何事もなかったかのように通路を歩いていった。
予想外のことに明は完全に反応し遅れ、数秒してから慌てて鬼道院を振り返る。しかしそれと同時に、緊張の糸が切れたのか、神楽耶がふらりと体をよろめかせた。
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