12 / 15
ダンスの相手
しおりを挟む日も沈んだころ、私たちの乗った馬車が王城に到着しました。
「さぁ、久しぶりのパーティーだ。楽しもう」
私はクレイグ様にエスコートされながら、5年ぶりのパーティー会場に足を踏み入れます。
久しぶりのパーティー会場ではシャンデリアがまばゆく輝いています。しかし、その輝きに負けていないのが隣にいるクレイグ様です。入場した瞬間、会場内の男性からは羨望の眼差しを、女性からは恍惚の眼差しを集めたのがわかります。もちろん、クレイグ様にエスコートされている私の存在にも気づいていたようで、何名かの方がひそひそと私について値踏みをしていらっしゃるようです。
やはり、私はそういう目を向けられてしまうのですね。でも、だからといって怖気づくことはありません。今日の私は仕事で来ているのですから。それにクレイグ様がエスコートをしてくださると決まった時点でこうなることは予想できておりましたので。クレイグ様にも恥をかかせないためにも、堂々とした態度で臨みましょう。
クレイグ様は他の貴族の方々に挨拶をしに行く際も片時として私から離れようとはしませんでした。クレイグ様目当てと思われるどこぞの令嬢が私との間に割り込んでこようとしても、スマートにかわし、むしろ前よりもぴったりと私にくっついて来ます。それで何度舌打ちを聞いたことか。ほとんどの方はそれで立ち去って行くのですが、それでもしつこくされる方には、氷のように冷たい眼差しを向け、その方たちを震え上がらせていました。
こちらを向くときはいつものクレイグ様に戻っていましたが。
急に華やかな演奏が始まりました。ダンスタイムが始まったようです。
「セシル、俺とダンスを踊っていただけませんか」
私の正面に立ち、丁寧に礼をしながらダンスを申し込まれました。
ダンスは伯爵令嬢としての嗜みとしてレッスンは受けていましたが、それも随分前のこと。しばらくダンスをする機会がなかったのできちんと踊れる自信はありません。
少し戸惑っていると、
「大丈夫、多少失敗しても俺がカバーするから。パーティーを楽しもう」
そう言って私をフロアの中央に連れて行ったのでした。
さすが、クレイグ様は見事なリードをしてくださり、久々とは思えないほど楽しくステップを踏めました。目を合わせれば「セシルとのダンスは本当に楽しい」とにこやかに笑ってくださいました。
ただでさえ人気者のクレイグ様が華麗にダンスを踊っているのです。人々の注目を集めないわけがありません。次は我こそがと令嬢たちが虎視眈々とこちらを伺っています。
あっという間に曲が終わってしまいました。
こんなに楽しいダンスは初めてでした。名残惜しいですが、私は礼をして、壁際に移動しようとしました。しかしクレイグ様は手を離してくれません。
2回連続は婚約者の証。まさか、本気で……?
そう思った時です。
「クレイグ隊長、ちょっとお話が……」
騎士服を着た男性がクレイグ様に声をかけ、少し言葉を交わすと、
「すまない、急用が出来てしまったようだ。必ず迎えに来るから、絶対にこの場から離れないでくれ」
そう言ってクレイグ様は先ほどの騎士様と一緒にどこかへ行ってしまわれました。
会場に残された私は壁の花となるべくそっと移動しました。すると、
「素敵なダンスを見せてくれてありがとう。お疲れだろう、これを」
そう言って二十代半ばくらいの男性がグラスワインを差し出しながら声をかけてきました。喉も乾いていたのでワインもありがたく受け取ります。
「素敵な夜に、乾杯」
ワインは口当たりがよく、さっぱりとした味わいで、ダンスで疲れた体に染み渡るようです。
「初めまして、ですよね? こんなに美しい方がいたらすぐに気が付いていたはずなので」
「……」
どうしましょう。もしかしなくても、これは口説かれているのよね? キョロキョロと思わずクレイグ様を探してしまいます。
「あはは、こういうのって慣れていないのかな? かわいいね」
「……」
「もし、疲れているなら休憩する?」
困りました。喋れないので、何も返事ができません。それならばできることは一つのみ。
逃げるしかありませんわね。
私は丁寧にお辞儀をして、急いでその場から立ち去ります。
人ごみを避け、たどり着いたのはバルコニー。ここならしばらくの間休憩ができそうです。バルコニーの手すりにもたれかかり、思い出すのは先ほどのクレイグ様とのダンス。
もし、あの時に騎士様が声をかけなければ、私はあのまま続けてダンスを踊っていたのでしょうか。
もし、次に踊る相手が私ではなく、他の令嬢だったら、私は冷静にクレイグ様を見ることができたのでしょうか。
もし、の話なんて考えても仕方のないことですわね。クレイグ様とダンスができたという事実に感謝いたしましょう。もう、こんな幸運など訪れないでしょうから。本当に、一生の良い思い出になりましたわ。
そういえば、このバルコニーはクレイグ様と初めて会話した場所ね。懐かしいわ。婚約破棄があったからこそ、私はクレイグ様と知り合えたのですよね……今となってはあの事件に感謝したいくらいだわ。
ふっと笑って外の景色を眺めると、夜風がとても心地いい。
「やっと見つけた」
急に手首を捕まれ、振り向いたその先にいたのは。
165
あなたにおすすめの小説
殿下をくださいな、お姉さま~欲しがり過ぎた妹に、姉が最後に贈ったのは死の呪いだった~
和泉鷹央
恋愛
忌み子と呼ばれ、幼い頃から実家のなかに閉じ込められたいた少女――コンラッド伯爵の長女オリビア。
彼女は生まれながらにして、ある呪いを受け継いだ魔女だった。
本当ならば死ぬまで屋敷から出ることを許されないオリビアだったが、欲深い国王はその呪いを利用して更に国を豊かにしようと考え、第四王子との婚約を命じる。
この頃からだ。
姉のオリビアに婚約者が出来た頃から、妹のサンドラの様子がおかしくなった。
あれが欲しい、これが欲しいとわがままを言い出したのだ。
それまではとても物わかりのよい子だったのに。
半年後――。
オリビアと婚約者、王太子ジョシュアの結婚式が間近に迫ったある日。
サンドラは呆れたことに、王太子が欲しいと言い出した。
オリビアの我慢はとうとう限界に達してしまい……
最後はハッピーエンドです。
別の投稿サイトでも掲載しています。
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
殿下は、幼馴染で許嫁の没落令嬢と婚約破棄したいようです。
和泉鷹央
恋愛
ナーブリー王国の第三王位継承者である王子ラスティンは、幼馴染で親同士が決めた許嫁である、男爵令嬢フェイとの婚約を破棄したくて仕方がなかった。
フェイは王国が建国するより前からの家柄、たいして王家はたかだか四百年程度の家柄。
国王と臣下という立場の違いはあるけど、フェイのグラブル男爵家は王国内では名家として知られていたのだ。
……例え、先祖が事業に失敗してしまい、元部下の子爵家の農家を改築した一軒家に住んでいるとしてもだ。
こんな見栄えも体裁も悪いフェイを王子ラスティンはなんとかして縁を切ろうと画策する。
理由は「貧乏くさいからっ!」
そんなある日、フェイは国王陛下のお招きにより、別件で王宮へと上がることになる。
たまたま見かけたラスティンを追いかけて彼の後を探すと、王子は別の淑女と甘いキスを交わしていて……。
他の投稿サイトでも掲載しています。
幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい
和泉鷹央
恋愛
王国でも指折りの名家の跡取り息子にして、高名な剣士がコンスタンスの幼馴染であり許嫁。
そんな彼は数代前に没落した実家にはなかなか戻らず、地元では遊び人として名高くてコンスタンスを困らせていた。
「クレイ様はまたお戻りにならないのですか……」
「ごめんなさいね、コンスタンス。クレイが結婚の時期を遅くさせてしまって」
「いいえおば様。でも、クレイ様……他に好きな方がおられるようですが?」
「えっ……!?」
「どうやら、色町で有名な踊り子と恋をしているようなんです」
しかし、彼はそんな噂はあり得ないと叫び、相手の男勝りな踊り子も否定する。
でも、コンスタンスは見てしまった。
朝方、二人が仲睦まじくホテルから出てくる姿を……
他の投稿サイトにも掲載しています。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
【完結済み】妹の婚約者に、恋をした
鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。
刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。
可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。
無事完結しました。
婚姻破棄された私は第一王子にめとられる。
さくしゃ
恋愛
「エルナ・シュバイツ! 貴様との婚姻を破棄する!」
突然言い渡された夫ーーヴァス・シュバイツ侯爵からの離縁要求。
彼との間にもうけた息子ーーウィリアムは2歳を迎えたばかり。
そんな私とウィリアムを嘲笑うヴァスと彼の側室であるヒメル。
しかし、いつかこんな日が来るであろう事を予感していたエルナはウィリアムに別れを告げて屋敷を出て行こうとするが、そんなエルナに向かって「行かないで」と泣き叫ぶウィリアム。
(私と一緒に連れて行ったら絶対にしなくて良い苦労をさせてしまう)
ドレスの裾を握りしめ、歩みを進めるエルナだったが……
「その耳障りな物も一緒に摘み出せ。耳障りで仕方ない」
我が子に対しても容赦のないヴァス。
その後もウィリアムについて罵詈雑言を浴びせ続ける。
悔しい……言い返そうとするが、言葉が喉で詰まりうまく発せられず涙を流すエルナ。そんな彼女を心配してなくウィリアム。
ヴァスに長年付き従う家老も見ていられず顔を逸らす。
誰も止めるものはおらず、ただただ罵詈雑言に耐えるエルナ達のもとに救いの手が差し伸べられる。
「もう大丈夫」
その人物は幼馴染で6年ぶりの再会となるオーフェン王国第一王子ーーゼルリス・オーフェンその人だった。
婚姻破棄をきっかけに始まるエルナとゼルリスによるラブストーリー。
妹に幼馴染の彼をとられて父に家を追放された「この家の真の当主は私です!」
佐藤 美奈
恋愛
母の温もりを失った冬の日、アリシア・フォン・ルクセンブルクは、まだ幼い心に深い悲しみを刻み付けていた。公爵家の嫡女として何不自由なく育ってきた彼女の日常は、母の死を境に音を立てて崩れ始めた。
父は、まるで悲しみを振り払うかのように、すぐに新しい妻を迎え入れた。その女性とその娘ローラが、ルクセンブルク公爵邸に足を踏み入れた日から、アリシアの運命は暗転する。
再婚相手とその娘ローラが公爵邸に住むようになり、父は実の娘であるアリシアに対して冷淡になった。継母とその娘ローラは、アリシアに対して日常的にそっけない態度をとっていた。さらに、ローラの策略によって、アリシアは婚約者である幼馴染のオリバーに婚約破棄されてしまう。
そして最終的に、父からも怒られ家を追い出されてしまうという非常に辛い状況に置かれてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる