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ダンスの相手
日も沈んだころ、私たちの乗った馬車が王城に到着しました。
「さぁ、久しぶりのパーティーだ。楽しもう」
私はクレイグ様にエスコートされながら、5年ぶりのパーティー会場に足を踏み入れます。
久しぶりのパーティー会場ではシャンデリアがまばゆく輝いています。しかし、その輝きに負けていないのが隣にいるクレイグ様です。入場した瞬間、会場内の男性からは羨望の眼差しを、女性からは恍惚の眼差しを集めたのがわかります。もちろん、クレイグ様にエスコートされている私の存在にも気づいていたようで、何名かの方がひそひそと私について値踏みをしていらっしゃるようです。
やはり、私はそういう目を向けられてしまうのですね。でも、だからといって怖気づくことはありません。今日の私は仕事で来ているのですから。それにクレイグ様がエスコートをしてくださると決まった時点でこうなることは予想できておりましたので。クレイグ様にも恥をかかせないためにも、堂々とした態度で臨みましょう。
クレイグ様は他の貴族の方々に挨拶をしに行く際も片時として私から離れようとはしませんでした。クレイグ様目当てと思われるどこぞの令嬢が私との間に割り込んでこようとしても、スマートにかわし、むしろ前よりもぴったりと私にくっついて来ます。それで何度舌打ちを聞いたことか。ほとんどの方はそれで立ち去って行くのですが、それでもしつこくされる方には、氷のように冷たい眼差しを向け、その方たちを震え上がらせていました。
こちらを向くときはいつものクレイグ様に戻っていましたが。
急に華やかな演奏が始まりました。ダンスタイムが始まったようです。
「セシル、俺とダンスを踊っていただけませんか」
私の正面に立ち、丁寧に礼をしながらダンスを申し込まれました。
ダンスは伯爵令嬢としての嗜みとしてレッスンは受けていましたが、それも随分前のこと。しばらくダンスをする機会がなかったのできちんと踊れる自信はありません。
少し戸惑っていると、
「大丈夫、多少失敗しても俺がカバーするから。パーティーを楽しもう」
そう言って私をフロアの中央に連れて行ったのでした。
さすが、クレイグ様は見事なリードをしてくださり、久々とは思えないほど楽しくステップを踏めました。目を合わせれば「セシルとのダンスは本当に楽しい」とにこやかに笑ってくださいました。
ただでさえ人気者のクレイグ様が華麗にダンスを踊っているのです。人々の注目を集めないわけがありません。次は我こそがと令嬢たちが虎視眈々とこちらを伺っています。
あっという間に曲が終わってしまいました。
こんなに楽しいダンスは初めてでした。名残惜しいですが、私は礼をして、壁際に移動しようとしました。しかしクレイグ様は手を離してくれません。
2回連続は婚約者の証。まさか、本気で……?
そう思った時です。
「クレイグ隊長、ちょっとお話が……」
騎士服を着た男性がクレイグ様に声をかけ、少し言葉を交わすと、
「すまない、急用が出来てしまったようだ。必ず迎えに来るから、絶対にこの場から離れないでくれ」
そう言ってクレイグ様は先ほどの騎士様と一緒にどこかへ行ってしまわれました。
会場に残された私は壁の花となるべくそっと移動しました。すると、
「素敵なダンスを見せてくれてありがとう。お疲れだろう、これを」
そう言って二十代半ばくらいの男性がグラスワインを差し出しながら声をかけてきました。喉も乾いていたのでワインもありがたく受け取ります。
「素敵な夜に、乾杯」
ワインは口当たりがよく、さっぱりとした味わいで、ダンスで疲れた体に染み渡るようです。
「初めまして、ですよね? こんなに美しい方がいたらすぐに気が付いていたはずなので」
「……」
どうしましょう。もしかしなくても、これは口説かれているのよね? キョロキョロと思わずクレイグ様を探してしまいます。
「あはは、こういうのって慣れていないのかな? かわいいね」
「……」
「もし、疲れているなら休憩する?」
困りました。喋れないので、何も返事ができません。それならばできることは一つのみ。
逃げるしかありませんわね。
私は丁寧にお辞儀をして、急いでその場から立ち去ります。
人ごみを避け、たどり着いたのはバルコニー。ここならしばらくの間休憩ができそうです。バルコニーの手すりにもたれかかり、思い出すのは先ほどのクレイグ様とのダンス。
もし、あの時に騎士様が声をかけなければ、私はあのまま続けてダンスを踊っていたのでしょうか。
もし、次に踊る相手が私ではなく、他の令嬢だったら、私は冷静にクレイグ様を見ることができたのでしょうか。
もし、の話なんて考えても仕方のないことですわね。クレイグ様とダンスができたという事実に感謝いたしましょう。もう、こんな幸運など訪れないでしょうから。本当に、一生の良い思い出になりましたわ。
そういえば、このバルコニーはクレイグ様と初めて会話した場所ね。懐かしいわ。婚約破棄があったからこそ、私はクレイグ様と知り合えたのですよね……今となってはあの事件に感謝したいくらいだわ。
ふっと笑って外の景色を眺めると、夜風がとても心地いい。
「やっと見つけた」
急に手首を捕まれ、振り向いたその先にいたのは。
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