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騎士団見学1

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 事前連絡もなく突然やってきたと思っていたロザリン兄弟は、実はしっかり封書を送っていたらしい。

 ただ、いつ頃来るかの日時は明確に記載されていなかったようである。

 貴族としての立場では、公爵と侯爵という位の中でも特に格式高い家柄同士なわけだけど。

 少なくとも執務室で共にいる二人からは、堅苦しい雰囲気は感じなかった。これも友人同士がなせることなんだろうな。


「以前便りで話したと思うが、うちの弟にお前のところの騎士団を見せてやってほしいんだ」

 マイスターの話題が一息ついた頃、不意にリューカスさんがそう言った。

「構わない」

 なんて返すのだろうと思っていれば、クリストファーはあっさり承諾したので驚いた。

(あれ、わ、私もまだ見たことないんですが!?)

 騎士団どころか、この本館すら自由に見学したことはない。
 最近ようやくクリストファーとの面会が増えたといっても、好きに散策できるはずもなかった。

「ルザーク、この兄がいなくても行けるな?」
「兄上は俺をいくつだと思っているんだよ」

 やれやれと肩を竦めるルザーク。でもあなた、さっき9歳って聞いたけど。見知らぬ土地で出歩くにはまだまだ心細い年齢じゃないだろうか。

「俺は他にも話があるからな、案内してもらえ」

 どうやらリューカスさんは他にも要件があるらしく、その間にルザークは騎士団見学をするそうだ。

 この流れだと、私は別邸にトンボ帰りする感じだろうか。
 来客なのだから仕方ないと思いつつも、このまま何もせずに戻るのはもったいない気がする。

「お父様、アリアも騎士団見学したいなぁ」  

 早朝挨拶でもクリストファーの訓練姿を見てみたいと言ったことがある。
 その時はばっさり断られたけれど、今は状況も違うしいけるのではとダメ元で聞いてみた。

 ちょっとばかしおねだりポーズも添える。この前、シェリーとは違う見張りのメイドにやったときには通じた技である。

「……ジェイド」
「かしこまりました」

 クリストファーは何拍か置いて口を開き、ジェイドはというと馴れた様子で執務室の扉付近に飾られた青い水晶玉に触れた。

「ただいま騎士団の者がこちらに向かっていますので、少々お待ちください」

 青い水晶から手を離したジェイドがにこやかに告げた。

(うんともすんとも言わないからダメかと思ったけど、行ってもいいんだ……!)

 クリストファーから許可を得られたことが嬉しくて、にんまりと口が笑ってしまう。

 そして前々から不思議な装飾だなぁと感じていた水晶玉は、通信機器のような役割があったみたい。もしやあれは、魔力を糧に様々な用途を担う魔導具というやつじゃないの?

("リデルの唄声"でも結構色々な種類の魔導具が出てきてたよね、きっとそうだ)

 とはいえ会話は一切なく、水晶玉が何度か光を帯びて点滅しただけだった。

(騎士団にも同じ水晶玉があって、こっちが触ると向こうにある水晶玉がチカチカ光るのかな?)

 それからほどなくして騎士団から副団長が執務室にやってくる。
 使い方としては予想通りだったようだ。

 これで会話もできるようになったら便利なのになと考えながら、私は部屋を出る前にクリストファーとリューカスさんに振り返った。

「いってきます、お父様、リューカスさん」
「……」
「ああ、行ってらっしゃい。うちの弟をよろしくな」

 腕を組んで無言を貫くクリストファーは、前髪が軽く揺れる程度に首を動かした。そしてひらひらと片手を振るリューカスさん。

 対称的な二人に見送られ、私は騎士団へ向かった。


 ***


 執務室を出た私は、ルザークとジェイド、そして副団長ラオを含めた四人で騎士団に向かっていた。
 ラオが先頭、次に私とルザークが横並びで歩き、その後ろにジェイドが見守るようにしている。
 そして両手にはサルヴァドールを抱えていた。

 ちなみに副団長ラオさんは、クリストファーへの早朝挨拶のときに顔だけは何度も見ていた。こうして一緒に行動するのは初めてである。

「アリアちゃん、寒くない?」
「うん、平気だよ」
「そっか。寒くなったらいつでも上着を貸すよ。レディを凍えさせるわけにはいかないからね」

 紳士的なルザークは、私が寒くないか、歩きづらくはないかを常に気にしている。9歳にして色々と出来上がっているのは誰の影響なのだろう。

 ちらっと渡り廊下から見えたメイドたちにも愛想笑いを浮かべていたし、気のせいでなければウィンクもしていたような……。

「こんなに可愛い子と騎士団を回れるなんて、日頃の行いに感謝しないといけないね」

 ルザークはキラキラと背中に花でも背負っているのかと言いたくなるオーラを醸し出している。
 執務室にいたときはまだ大人しかったほうだけど、これがおそらく完全なる素の姿なんだろう。

 まだ慣れないタイプではあるものの、気さくに話してくれてありがたくもある。

「ルザークは、騎士になりたいの?」
「興味はとてもあるね。それにグランツフィル騎士団は帝国内でも精鋭が揃っているから、一度訓練風景を見てみたいと思っていたんだ」
「へえ……すごいんだね」

 私の他人事すぎる感想に、ルザークは不思議そうに見返した。

「あれ、知らない?」
「うん、あんまり」

 けれどルザークはへえっと軽く相槌を打つだけだった。

「騎士団もそうだけど、アリアちゃんのお父様……グランツフィル公爵は帝都でも有名だよ。何せ帝国に一人しかいないマイスターだから」

 ぼんやり世界規模ではどれほどのものなんだろう考えながら、ルザークの話に耳を傾ける。

 マジックマスターとソードマスター。どちらか一つの称号を授かるだけでも名誉なことで、マイスターであるクリストファーは帝都にいなくても常に注目されているそうだ。

「帝都かあ……いつか行ってみたいな」

 何気なく口にした言葉だけど、後ろにいるジェイドの表情が曇ったことに私は気づいていた。

(そういえば、私のお母様が嫁いだ侯爵家って、今はどうなってるんだろう)

 シナリオ通りならば、クリストファーは侯爵家の人たちを皆殺しにしたことになっている。

(あまり気にしないようにしていたけど……)

 私が生まれたその日。
 お母様が亡くなって多くの人が死んだのかと思うとゾッとしてしまう。

「アリアちゃんが帝都に来ることがあれば、いつでも案内するよ。景色の良い場所も、オススメのカフェも詳しい方だから」
「うん、楽しみにしてる。美味しいお菓子屋さん、たくさん教えてね」
「アリアちゃんはスイーツが好きなのか。了解、任せて」

 行けるかどうかは置いておき、ルザークの申し出にこくりと頷く。
 やっぱりこの男、9歳にして女の子の扱いに長けているようだ。

「実は今回、兄上がグランツフィル公爵領に来たのは、公爵様に帝都に出向いてもらうようお願いをしに来たのも一つの理由だったんだけどね」
「え、お父様を帝都に?」
「そう。来年の春に行われるマスター試験と、魔闘祭典へ出席してほしいんだって、兄上が言っていたから」
「マスター試験、魔闘祭典……!」

 続けて聞いたことがあるイベント名に、私の瞳はぱぁっと見開いた。

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