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騎士団見学4
しおりを挟むやがて模擬戦開始の合図がラオから出され、まず正騎士たちが三組ほど華麗な剣さばきを披露してくれた。
あくまで客人に見せる剣闘試合なので、血なまぐささが全くなく綺麗なものだった。
飾らない普段の訓練風景も気になるけれど、これはこれで見応えがある。
いつの間にか私は夢中になって見入っており、手に汗まで握っていた。
中でもソードマスター候補と呼ばれる騎士同士の模擬戦は凄かった。
体内の魔力を「オーラ」という力に変え、剣や身体に纏わせて戦うんだけど。
魔法とはまた違った不思議な光景に圧倒されてしまった。
グランツフィル騎士団には、二人のソードマスターがいるらしい。
今は領外に出ているということで私も見たことはないけど、相当の腕を持っているそうだ。
「あ、ゼノだ」
正騎士たちの模擬戦のあと、出てきたのはしっかり胸甲を装備したゼノだった。その手には、 兜を持っている。
同じくゼノの相手と思われる騎士も出てきた。つい先ほど模擬戦を繰り広げた騎士たちよりも、いくらか若いようだ。
「あの者は準騎士です。去年13歳で見習い期間を満了し、今は14歳です」
「14歳? ゼノ、8歳だけど大丈夫?」
「ゼノは見習いの中でも群を抜いて実力が高いと報告を受けています。問題ありませんよ」
ルザークもそうだと言っていたけど、一体どれほどのものなんだろう。
視線を再び戻したとき、ゼノはちょうど兜を被ろうとしているところだった。
見習い騎士は原則、安全措置として剣を交えるときは兜と鎧を装着する義務がある。
通常の騎士は鎧よりも制服が主体という感じの騎士服を着ているんだけど、一応それにも鎧のような役割はあるらしい。魔物の皮などを使って仕立てているので丈夫なんだとか。
(…………ん?)
そして、兜を被ったゼノを遠目から見ていた私は、何となく既視感のようなものを覚えて首をかしげた。
兜の目元から窺える赤い瞳と、はらりと流れた亜麻色の髪。
気を取られている間に剣の打ち合う音が聞こえてくる。私は瞬きをしながらゼノの姿を注視した。
(なんか、あの顔周り見たことあるような……)
先ほどの穏やかな目つきから一変、相手を前にしたときのゼノは、鋭く射るような視線を送っている。
(見覚え……アリアとしての記憶じゃないなら、前世?)
兜の奥の赤色がきらりと輝く。
兜、亜麻色の髪、赤色の瞳。そのシルエットと色合いがどうしても引っかかる。
(あ、あーーっ!!)
やっと既視感の正体を突き止めた私は、堪らず立ち上がってゼノを凝視した。
「アリアちゃん、どうかした? あのゼノって子がなにか気がかり?」
わなわなと震えた私に声をかけたルザークは、ゼノの方向に目をやりながら尋ねてくる。
「え、えっと……」
うまく言葉を繋げられずにいると、ゼノが相手の剣を落としたことで模擬戦の勝敗は呆気なく決した。
なんだか頃合を見て簡単に勝利を取ったように見えなくもないけれど、それよりも私の意識はあることに集中する。
(ゼノ…………って、もしかして、ギルバートと敵対する皇帝の妾子・ゼノクス!?)
模擬戦が終了し、兜を取ったゼノの顔を遠目に見つめながら、私はあるキャラクターのことを思い出した。
***
ゼノクス・デル・ヴァリアス。
ヴァリアス帝国皇帝の妾子である彼は『リデルの歌声』に出てくる敵役だった。
ほぼラスボスに近い立ち位置と言って過言でもないゼノクスは、幼少の頃に皇室を追われて死に物狂いで生きてきたという壮絶な過去がある。
(それで、ゼノクスも悪魔との契約者だった。彼もリデルの歌声で浄化されたとき、過去の背景がいくつかわかったけれど……)
それは皇城にいたときの朧気な記憶と、身を寄せていた場所に居られなくなったゼノクスを敵サイドの公爵家が引き取った頃の記憶ばかりだった。
ここで言う敵サイドの公爵家というのは、皇室の傍系にあたる公爵家で、グランツフィルではない。
『リデルの歌声』には、ヒーローであり皇太子であるギルバートと、そんな彼の地位を引きずり下ろそうとする敵勢力との後継者争いも描かれている。
ゼノクス・デル・ヴァリアスというキャラクターは、その敵勢力が秘密裏に用意した、切り札そのものだったのだ。
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