【完結】 表情筋が死んでるあなたが私を溺愛する

紬あおい

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29.救出

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私は、あたたかな光を体に感じて目を覚ました。

「フィリア!大丈夫か?」

「あ… ディート…うん、大丈夫…」

弱々しい声だが、受け答えの出来る私に、ディートは少し安心したようだ。

「ディート、魔獣征伐は終わった?ケガはない?」

「フィリア、君は俺の心配など…君の方が大変だったんだ!」

心配する私をディートは、泣きながら抱き締めた。
ディートの体はぶるぶる震え、押し殺した泣き声は、悲しみに溢れていた。

「ディート、泣かないで…私は大丈夫だから。」

やっと顔を上げたディートに笑い掛ける。

「君って人は!こんな時に、俺の心配をするなんて…君こそ、本当に大丈夫なのか?頭に傷があるようだが…」

「本当に大丈夫みたい。どこも痛くないわ。」

不思議なことに、頭の傷は塞がり、蹴られた背中や腰の痛みも治まっていた。

「ディートが出掛けて、何日経つの?」

「六日だ。フィリアはいつからここに?」

「うーん…ディートが出掛けて三日目かな…?メイド達に閉じ込められて…」

ディートから、真紅の炎にも似た怒りに満ちたオーラを感じた。
怒っているところを見たことはあるが、これはかなりの怒りだ。

「それについては、別邸に着いてから、ゆっくり聞くよ。傷が塞がっているのなら、まずは湯浴みだ。」

私には優しい笑顔を向け、横抱きにして別邸に歩き出した。
別邸に着くと、すぐに湯浴みの準備をしてくれて、私の髪を洗ってくれた。

「フィリア、本当に傷口は痛くないか?血が固まってしまったから、解しながら洗うぞ。」

「ディート、傷は大丈夫。痛みもない。とても気持ち良いわ。ありがとう。」

「体も全部洗ってやるから。のぼせそうなら、早目に言ってくれ。」

疲れている筈のディートに、何から何までやらせてしまって申し訳ないと思いつつ、またディートに会えて良かったと、しみじみ思う。

ディートに全身きれいにしてもらい、私もディートを洗ってあげた。
二人でのんびりお湯に浸かり、事の経緯を説明した。

「メイド達がそんなことを考えていたとはな…」

「決して、ディートのせいではありませんからね?女の嫉妬は、元々理不尽なものですから。」

「しかし…処罰は免れない。俺に全て任せてくれるか?」

「殺さないなら。」

「君は殺されかけたのに?」

「はい。殺すことまでは望みません。結局は、ディートが助けに来てくれて、私は死ななかったし…彼女達を許せるかというと難しいけど、もう顔を合わせることがないなら、忘れることは出来ると思う。その代わり、公爵家から、侍女やメイドを引き取っていいかしら?この地でのんびりしたい子がいると思うから。」

「分かった。メイドは領地から追放し、ここから最も遠い南部の地に引き取らせる。義父上には手紙を書いて、相応の人材を何人か送ってもらおう。」

ディートは、自分の感情に流されることなく、私が納得出来る手を打ってくれる。
この人を信じて、私はここで生きていくと改めて心に誓った。
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