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2.恋に目覚めた公爵令息
しおりを挟むその夜、帰宅した両親に、僕はしこたま叱られた。
「全く!一人で外出するなと、ベンジャミンにも言われただろう!?何でそんな無茶をする?」
「エミリオン!あなたには公子という自覚が足りませんっ!」
父のグラナードは、こめかみに青筋を立て、母のファビオラは扇をギリギリと握り締めていた。
「絵の題材を探したくて…ごめんなさい…」
しゅんとする僕を見て、反省していることは分かったようで、母は声色が優しくなった。
「どこかのご令嬢に送っていただいたようだけど、お礼は伝えたの?」
「はい、絵に描こうと、花屋で買った一輪の薔薇を持っていたので、それを差し上げました。
でも、ちゃんとお礼がしたいです。」
「どちらのご令嬢か分かる?」
「ワーグナー伯爵家のヴェリティ嬢と名乗っておられました。薔薇の花をとても喜んでくれましたが、髪飾りか何か身に付ける物をプレゼントしてもいいですか?」
「ワーグナー伯爵家…身に付ける物…?ふふふ。
そうね、イヴを呼んであげるから、素敵な髪飾りを選びなさい。送り届けるように、ベンジャミンに言っておくわ。」
「はい!」
僕は、ヴェリティ嬢には薔薇の髪飾りがきっと似合うと思い、母が可愛がっているイヴ・カルーレに作らせた。
そして、ベンジャミンはヴェリティ嬢の元へ届けてくれるように手配してくれた。
「必ず、ヴェリティ嬢の手に渡るようにしてね?
何だかあまり裕福な家には見えなかったから…」
「では、直接手渡しするようにしましょう。私が責任を持って行って参ります。」
「忙しいのに、ごめんね?」
「いえいえ、公子様の恩人ですから、お任せください。」
「ありがとう、ベンジャミン!」
こうして、無事にヴェリティ嬢の手に渡ることになった薔薇の髪飾り。
大層喜んでくれたそうだ。
この日から、僕は専属の影にヴェリティ嬢を見張らせた。
(ヴェリティ嬢、僕のお嫁さんになってくれないかなぁ…あんな令嬢、見たことない。きっとこれが恋なんだ。)
僕は、エヴァンス公爵家の権力に媚び諂う人間が大嫌いだった。
親の命令で政略結婚を狙う者や見た目で近付いて来る能天気令嬢達に、ほとほと嫌気がさしていた。
もちろん、婚約者も居ない。
しかし、ヴェリティ嬢は、これまでで初めて、俺が自ら身分を名乗ることを躊躇わなかった人だった。
それは、優しい笑顔と、俺を心配して手助けしようという気持ちが見て取れたからだ。
(きっとヴェリティ嬢は、見た目だけじゃなくて、心も綺麗な人なんだ!あんなドレスだったから、きっと家では優しくされていない。だったら僕が守らなきゃ!)
生まれと見た目と頭だけは良いと自覚がある僕は、家格の差など完全無視のヴェリティ嬢奪取計画を練り始めたのだった。
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