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3.影の調査報告と母との交渉
しおりを挟むヴェリティ嬢のワーグナー伯爵家は、ユージーン伯爵とテオドラ夫人との間に、嫡男となるハロルドと長女ヴェリティ嬢。
しかし、このユージーン伯爵がとんでもない女好きで、愛人が五人、その者達との間に子どもが六人。
全員が同じ敷地内に住むという、なかなかカオスな環境だ。
しかも、テオドラ夫人は嫡男のハロルドだけを溺愛し、ヴェリティ嬢は無視に近い態度で接していた。
それは、テオドラ夫人が唯一のワーグナー伯爵家の夫人で、嫡男も産んだだからだ。
夫であるユージーン伯爵の愛は得られなくとも、地位だけは確立している。
それ故、ヴェリティ嬢は要らない子のように扱われていた。
影からの報告を聞いて、あの出逢いの日のドレスを思い出し、僕はヴェリティ嬢が可哀想になった。
(何とかしたいな…誰に相談したらいいかな…やっぱり母上か?社交界の重鎮の母を味方に付ければ、きっとヴェリティ嬢を…)
僕は覚悟を決めて、母に話すことにし、執務室を訪れた。
「母上、お話があります。」
「あら、エミリオン、どうしたの?まあ、そこに座りなさい。」
ソファに腰掛け、僕は話を切り出す。
「僕、ヴェリティ・ワーグナー伯爵令嬢と婚約したいです。」
「………やっぱりねぇ……」
母は全く驚かなかったことに、僕が驚いた。
「母上は、何故驚かないのですか?」
「そりゃあ、エミリオンの母親だもの。迷子になった日、あなたがお礼に贈り物をしたいと言った時の顔を見てピンと来たわ。
令嬢嫌いのあなたが、頬を染めて贈り物だなんて、余程気に入ったんでしょう?」
(僕が頬を…染めた…?)
母に観察されていたことが気恥ずかしいが、ここはちゃんと話さねばと思い直す。
「はい、ヴェリティ嬢は、他の令嬢のように色目を使う訳でもなく、ただ困っていた僕に親切にしてくれました。
手を繋いで邸まで案内してくれて…凄く優しい人なんだ。
でも、着ていたドレスは粗末な物で、影に調べてもらったら、やっぱり家で冷たく無視されていた…
母上、僕はヴェリティ嬢を助けたい!
好きなんだ…ヴェリティ嬢が…」
僕は話しながら、どんどん顔が赤くなるのを感じた。
「そうなのね…エミリオンの初恋なのね…
でもね、エミリオン、我が家は公爵家なの。
ワーグナー伯爵家に比べたら、月とスッポンの上位貴族なの。
あなたは、他の貴族の僻みや意地悪からヴェリティ嬢を守れるの?
人間の嫌な部分、あなたも十一歳ながら、いろいろ見てきたでしょう?」
「僕は無駄に頭が良いので、上手く出来ると思います!」
母は、吹き出しそうになる顔をきりりと引き締めた。
「だったら、ヴェリティ嬢を我が家の侍女として奉公させましょう。
なかなか厳しい世界だと思うけど、我が家の派遣事業の経験から、私もお父様も人を見る目は養ってきたわ。
先ずは、ヴェリティ嬢がどんな令嬢なのか、見てみたいわ。」
「ありがとう、母上!」
「感謝の言葉は早くてよ?取り敢えず、侍女が必要だと、ワーグナー伯爵家に打診してみるわ。
でも、変な令嬢なら、扇でぴしゃりと引っ叩くからね?」
「ひいっっっ!!」
母に扇を持たせたら駄目なやつだ。
しかし、第一段階はクリア出来そうで、ぴしゃり予告で漏らしかけた僕は気を取り直した。
(楽しみだなぁ!ヴェリティ嬢がエヴァンス公爵家に来る!!)
それから、母の行動は早かった。
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