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4.ヴェリティ嬢がやって来た
しおりを挟む母のファビオラ夫人との話から十日後、質素なトランク一つでヴェリティ嬢がエヴァンス公爵家を訪れた。
ドレスは、あの日に着ていた物と同じだった。
(くそぉ、ワーグナー伯爵家め!ヴェリティ嬢にドレスも誂えないなんて!!呪ってやる!)
僕は、一人怒りに震えつつ、母の執務室に行った。
そこには、緊張したヴェリティ嬢がソファに腰掛けていた。
そして、僕を見ると立ち上がった。
「エヴァンス公子様、ご機嫌麗しゅう存じます。
あの時は、通りすがりの私に、薔薇の髪飾り、ありがとうございました。」
「あの日は助かりました。でも、迷子になるなんてと、母上や父上には叱られました…あははは…」
ヴェリティ嬢がくすりと笑い、僕は怒りも忘れて、テンションが上がりまくりだ。
「ヴェリティ嬢、お座りなさい。私は、ファビオラ・エヴァンス、隣はグラナード・エヴァンスよ。」
「初めまして、公爵様、公爵夫人様。」
ヴェリティ嬢は、美しいお辞儀をしてからソファに座り直した。
「ワーグナー伯爵から、我が家の侍女として働いてもらうことは聞いているわね?」
「はい。よろしくお願いいたします。」
「それでね、あなたにはエミリオン付きの侍女を頼みたいの。
あなたも察しているとは思うけど、迷子になるようなおっちょこちょいなところがあってね。
だから、しっかりエミリオンを見て欲しいの。」
「畏まりました。精一杯、公子様にお仕えいたします。よろしくお願い申し上げます。」
「こちらこそ、お願いね。」
その場の雰囲気から、母がヴェリティを気に入ったような気がして、僕は嬉しかった。
「母上、ヴェリティ嬢に邸を案内してもいいですか?」
「そうね、初日だし、そうしてちょうだい。」
「はい!ヴェリティ嬢、参りましょう!!」
「公子様、よろしくお願いいたします。」
僕は、ヴェリティ嬢を連れて執務室を出た。
「あっ、あの、公子様…」
「ん?なぁに?」
「私のことはヴェリティとお呼びください。」
「じゃあ、僕のことはエミリオンて呼んで?」
「エ、エミリオンさ、ま…」
「うん、それでいい。ヴェリティ、行こうか!」
僕はヴェリティの手を握って、公爵邸内を隈なく案内した。
広い邸内で、ヴェリティとデートをしているようで、僕は浮かれていた。
ヴェリティの立場など何も考えずに。
翌日、僕は自分の愚かさを悔やむ羽目になるとは思いもしなかった。
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