【完結】 兄上にヒトカケラの想いも残さぬよう俺が愛してやると言われて溺愛されています

紬あおい

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10.旅行 ⑧

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想いが通じ合った私とレオリスは、朝方まで体を繋げ、出発だというのに寝坊した。
レオリスは痛みをなるべく感じないように気遣ってくれたが、とんでもない体力だった。
途中から意識が朦朧とし、体を預けてしまったのがダメだった。
少し控えてもらわないと、体が保たない気がしてきた。

その上、御者のマーティンも騎士のサミュエルもバトラーも、寝坊したことには文句一つ言わないが、私の首元の吸い痕をチラ見して、レオリスにウィンクした。
穴があったら入りたいという言葉を、まさか実体験する日が来るとは、考えたこともなかった。

「レオリス…あまり吸わないでよ…恥ずかしい…」

「だって嬉しいんだもん。とてもじゃないけど抑え切れなかった…」

「もう…見えない所ならいいから。ねっ?」

「気を付ける…」

反省しきりのレオリスと私は、馬車で次の目的地へ向かった。
いつまでも妙な雰囲気を引きずるのは嫌なので、馬車ではレオリスの膝に座って、景色を楽しんだ。

「海とも、さよならね。いい思い出が出来たわ。」

「また来ような。意外と冬の海もいいんだぞ?夏より透明度が高い気がするしな。」

「見てみたい!是非、連れて来てね。」

「ああ、もちろんだ。さあ、宿の女将さんがお弁当を作ってくれたから食べようか。次の山の別荘までは、半日位で着くから楽しみにしてて?」

「女将さんのお料理も美味しかったわね。いただきましょう!そして、次は山かぁ。何があるか、よく分からないけど、レオリスと一緒なら楽しそうね。」

「サミュエルやバトラーは狩りも得意だから、今度は肉料理だぞ!」

「あら!それは楽しみだわ!」

「やっぱり食いしん坊だな。」

結局、食いしん坊と揶揄われる展開。
デジャヴかと思いつつ、馬車は目的地へ向かった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


お腹いっぱいになると寝てしまう癖でもついたのか、山の別荘に行く間、うとうとしてしまった。
気付けば、馬車は緑に囲まれた山道を走っていた。

「起きたか?よく寝るお嬢様だ。くくっ。」

ずっと私を抱っこしているレオリス。
疲れないのだろうか。

「ごめんね、レオリス。疲れちゃうね。」

「いや、大丈夫だ。リアンナなら一日中抱っこしてても平気だ。夢みたいだよ。」

愛おしそうに頬擦りするレオリスは、どこまでも甘い。

「どうしてそんなに優しいの?」

「好きだから。ずっと、こうしたかったから。それだけじゃダメ?」

「ダメじゃないけど、そんなに優しくしてもらえる程、好かれている理由が分からない…私、何かしたっけ?」

ずっと幼馴染だっただけで、無条件に愛される訳がない。
過去に何かあったのだろうか。
自分のことしか考えていなかった私は、レオリスの想いに気付かなかった。

「リアンナはね、幼い頃の俺に本気で向き合ってくれる唯一の人だったんだ。公爵家の後継ぎは兄上で決まっていたし、二男の俺は何をしても親達の関心を引くこともなく、捻くれたガキだった。兄上に嫉妬して、大切にしている物を壊したり隠したり、嫌なガキだったと思う。でも、関心がないから、誰も叱らないんだよ。そんな俺をリアンナだけは叱ってくれたんだ。」

私に頬擦りしたまま、目を閉じて話すレオリス。
その表情は、寂しさなのか懐かしさなのか、読み取れない。

「私、レオリスのこと、怒ったの?」

「怒ると叱るは違うんだ。怒るは感情に任せて強く言う。叱るは相手のことを考えて正す。リアンナは、俺の身になって叱ってくれたんだよ。」

「そんなこと、あったっけ…?」

「兄上の誕生パーティで、ケーキをぐちゃぐちゃにした時。」

「あ………やったね、レオリス…」

私は思い出した。
ジュリウスの十歳の誕生日。
盛大なパーティが開かれ、時期尚早とも思えるような、ジュリウスの次期公爵の発表があった日だ。

その三日前のレオリスの九歳の誕生日は、質素なパーティで、お茶会レベルだった記憶がある。
私は、幼い頃から『姉上』と慕ってくるレオリスが可愛らしくて、ハンカチに刺繍をしてプレゼントしたんだった。

「姉上、嬉しいです!こんな素敵なプレゼント、初めてもらいました!!」

下手くそな刺繍入りのハンカチを、大事そうに手のひらに乗せ、真っ赤な顔で息を荒げたレオリスを抱き締めて、頭を撫でた記憶が蘇る。

そんなレオリスが、ジュリウスの誕生パーティをめちゃくちゃにした時、確かに私は注意した。

「レオリス!小さくても公爵家の人間なのだから、ちゃんとしなさい。あなたの行いが、何れ自分に返ってくるのよ?ジュリウスが公爵になれば、レオリスはいつか公爵家を出なければならない日が来るの。その時、今みたいなことばかりしていたら、レオリスの居場所が無くなっちゃう!だから、ちゃんとしなさい。正しいことを続けていれば、味方になってくれる人は必ずいるから。私はレオリスが良い子だと知ってる。あなたの最初の味方は私よ?」

十歳の私が九歳のレオリスに言った言葉は、私が自分自身に言っている言葉だった。

「うわっ…私、幼いレオリスに随分なこと言ったわね…ごめんね?」

レオリスは目を開いて、くすっと笑った。

「本当に、ませたガキだったよな、リアンナも。でもさ、自分の立場を幼いなりに理解してるリアンナをすげぇと思ったんだよ、九歳の俺は。何をしても兄上より出来るのに、二男だから全て無意味で…それなら一層の事、馬鹿の振りをしようと思っていた俺に、リアンナは喝を入れてくれたんだ。」

「確かにレオリスは何でも出来たよね…今もそうだけど…」

「兄上は表立って意地悪はしなかったけど、長男として生まれた特権は全て手にしていたし。何よりリアンナを簡単に手に入れて、粗末に扱い出した時は、本気で怒りを感じたよ…リアンナを無視して他の女と遊ぶなら、俺にくれ!って思ってた…リアンナはモノじゃないんだけどね…」

「いろいろあって、結局こうなったのね…レオリスは、私が思うよりずっと私を大切にしてくれてたのね?」

レオリスは額に口付けて微笑んだ。

「ああ、大切だ。あの頃からリアンナだけを愛してきた。」

レオリスの本心を知り、私はここまでの想いをレオリスに与えられるだろうかと思った。
今、確かにレオリスを愛してると思う。
ずっとレオリスの一番の味方でいたい。
でも、きっと、もっともっとレオリスが好きになる予感がした。
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