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16.リースハルトの過去
しおりを挟む「俺がフェルディナンド公爵家の二男だということは話たよな。でも、母上のローズマリーは、アスライト侯爵家の五女で、侍女としてフェルディナンド公爵家に仕えていたんだ。」
リンネは侯爵家の二女、リースハルトの母は五女。
嫡子には為り得ない子どもだ。
リンネは、リースハルトが語る話の先が見えてきた気がした。
「そして、美しい母上に目を付けた父のグレゴリーは、母上を無理矢理妊娠させて、産まれたのが俺だ。
母は出産まで碌に医者にかかることもなく、俺が産まれた日に亡くなった。
しかも、正妻のキーサも妊娠させ、俺が産まれた三日後に、ロナウドが産まれた。
たった三日違いで三男とされたロナウドと、俺の母上に夫を誑かされたと憎むキーサに、俺は幼い頃から随分と虐待されていた。」
「ーーっ!?リースハルト様もお母様にも、何の罪はありません!
お医者様にも碌にかからず亡くなったって……
フェルディナンド公爵様や夫人は、一体何を!」
「しかし、そう考える者が居たとしても、フェルディナンド公爵夫人に歯向かえる者がいると思うか?
父上であるグレゴリーが口を挟まなければ、誰も手は出せないし、父上は隣国グレシャム国の第三王女だったキーサに強い態度は取れない。
逆らえないのに母上に手を付ける勇気があるなんて、馬鹿な奴だよな。」
リンネは、リースハルトの境遇に酷く心が痛んだ。
小さなリースハルトを護る者が誰も居ないフェルディナンド公爵家。
悪意を打つける者だけでなく、傍観者も同じ罪だ。
「俺の体の傷は、その時のものだ。騎士になってからのものではない。」
「っ!!!」
リンネは、淡々と語るリースハルトが切なくて、目からは涙が溢れ出す。
「……リースハルト様を護ってくださる方はいらっしゃらなかったのですか…?」
リースハルトは、ふっと微笑んだ。
「居たよ?お祖母様と、このエルネスト帝国のシルヴェスタ第一皇子とジルフリード第二皇子が。
お祖母様は、母方のアスライト侯爵夫人だったから、俺をとても可愛がってくれたが、俺が隠していたから、虐待されていることに気付いてなかったんだ。
そして、お祖母様がザカリー皇帝陛下の家庭教師をしていたことがあって親しかったので、皇子達も懐いていたんだ。
ある時、皇宮のお茶会に招待されて、庭園でロナウドに殴られていたところを皇子達に助けられたのだ。
その時すぐ、皇子達が陛下やお祖母様に伝えてくれて、それからの付き合いだ。」
「陛下がお祖母様の教え子で、皇子殿下ともお知り合い!?」
「ああ、そうだ。リンネはまとめるのが上手いな。」
「今はそこじゃない!!」
ふにゃりと微笑むリースハルトを見つめながら、リンネは猛烈に怒っていた。
勝手にリースハルトの母に手を付け、正妻と三男の虐めを放置し、体に傷まで負わせる糞公爵と、糞婆と糞餓鬼に。
「あはは、リンネは俺の代わりに怒ってくれるのか。」
「当たり前じゃないですか!!」
「でも、お祖母様と皇子達が居てくれたから、環境はんだぞ?
皇子達が陛下に進言してくれたから、アスライト侯爵家で暮らせるようになったし、騎士になったのも皇子達の影響だ。」
「それは、おいくつの時?」
「十歳の時かな…」
それまでの十年間のリースハルトを思うと、リンネは胸が潰れる思いがした。
口数が極端に少ないのも、表情がいつも固いのも、きっとこの時の心の傷の所為だ。
「リースハルト様が喋り出すと止まらないのは、お話を聞いてくれる人が居なかったからなのですね…
私には、たくさんお話してくださいね?」
「うん。」
頷いたリースハルトは、まるで子どものように微笑んだ。
ーーーーーーー
しばらく毎日6時と20時に2話更新します
よろしくお願い申し上げます
( ´ ▽ ` )
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