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31.憎しみの矛先
しおりを挟むLangue de serpentを持ち帰ったリンネとリースハルトは、早速環境を整え、栽培に着手し、穏やかな日々を過ごしていた。
そんなある日、シルヴェスタ殿下とジルフリードが温室を訪れ、 隣国であるグレシャム国の国王と第一王女が来訪するので、その期間はリースハルトに近衛騎士団長に復帰するよう要請した。
「俺が居なくても、ジルフリード殿下と、近衛騎士団にはアルバートが居るじゃないですか。辞めた訳ではありませんが、リンネの護衛の方が重要です。」
「そう言わずに頼むよ。あの糞意地悪なフェルディナンド公爵夫人と顔を合わせるのも苦痛だと思うが、リースハルトが居れば安心だからさ。」
リースハルトの母に嫉妬し、幼き日のリースハルトを虐め抜いたフェルディナンド公爵夫人のキーサも、歓迎式典に出席するのだ。
「どうせあの馬鹿息子も来るんでしょう。益々行く気がしない。殺ってもいいなら行きますけど?」
「流石に殺すのはまずい。しかし、何か企んでいるのならば、これは好機だ。」
リースハルトは、突然思い出したようにリンネに問い掛けた。
「リンネ、発作や咳を引き起こす毒薬はあるか?」
「んー…マチンやドクゼリ、ジギタリスなどが考えられます。一度に大量摂取すれば即死に至りますが、少量ずつだと風邪と勘違いするかもしれませんし、発作を引き起こします。長期に渡り服用されたのであれば、お体は徐々に弱っていくと思います。」
「おい、まさかジュリアお祖母様は…」
ジルフリード殿下は心当たりがあるのか、愕然としている。
「もしかしたら、アスライト侯爵家にキーサ夫人の手の者が紛れ込んでいたかもしれないな…」
リンネは会話から、リースハルトの継母キーサが祖母のジュリアに毒を盛っていた可能性を感じ取っていた。
「リースハルト様、お祖母様は私の薬を飲んで発作が治まったと仰いましたよね?
お亡くなりになるまで、他のお薬は飲んでいましたか?」
「いや、体調が落ち着いていたから、特に…ただ、いつも同じ薬を服用していたが、俺は薬についてはさっぱり…」
リースハルトは、徐々に怒りで拳を握りしめた。
「あの女、お祖母様に!?そこまで俺や母上が憎いのか?」
「リースハルト、落ち着け!
キーサはグレシャム国の第三王女だったし、ここ数年の皇族の毒殺未遂や、貴族の不可解な死に関わっている可能性も否めない。」
「兄上の言う通りだ。リースハルト、今は堪えてくれ。気取られたら証拠が掴めなくなる。
グレシャム国は、以前から虎視眈々とこのエルネスト帝国に成り代わろうと狙っている。
我々が思っていたよりも事態は深刻かもしれない。しかし、そうであるなら必ず尻尾を掴んでやる。」
「だったら尚更、グレシャム国の訪問の際、リースハルトに傍に居てもらいたい。」
「承知しました。しかし、リンネの同行も許可してください。新しい解毒剤も出来上がる筈ですから。」
「リンネ、今から四ヶ月で解毒剤は完成させられるか?」
「やります!やらせてください!!皇室の凡ゆる文献に目を通すことも許可していただきたいです。」
「もちろん許可しよう。」
「リンネ夫人の護衛も強化する。」
シルヴェスタ殿下とジルフリード殿下は即答した。
リンネは、今更ながらとんでもない世界に紛れ込んでしまった気がしていた。
しかし、薬とは人を救うべき物であり、人の命を奪う物ではない。
リンネの信条に反する者を許す訳にはいかない。
(やれるか否かではなく、やるしかないんだ。)
祖母を失ったリースハルトの気持ちを考えると、リンネも後には引けないものを感じていた。
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