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239.【寄り添う心】
しおりを挟む桂樹先輩の言葉にはいつも三木先輩と自分を比べるような響きが混じっている。
合宿中、その含みのある言い回しがずっと気になって
しょうがなかった。
俺から見て桂樹先輩はとても凄い人なのに、もしかしたら三木先輩に何かコンプレックスみたいなものでもあるのだろうか?
先輩の口元の自嘲的な笑みを見て言い知れぬ違和感が
広がる。
雅臣「……じ、実は俺、大学とか結構悩んでて」
桂樹「へー?そうなん?」
〝三木と一緒にしてくれるな〟と言わんばかりの、尊敬とも憧れとも違うもっと複雑な感情が桂樹先輩の言葉の端々に漂っている。
でもそれをどう言葉にすればいいのか分からず、俺は咄嗟に自分の悩みを口にしていた。
桂樹「……そんなん今から考えなくてよくね?」
雅臣「えっ?」
桂樹「大体の奴が付属行けるし?何の問題もなくね?
それに他行きたけりゃどっか私大の推薦でも貰えば
大丈夫だって!」
………。
……あ、あれ?
桂樹先輩のあまりに軽い返答に、拍子抜けしてしまう。
期待していた深い共感や寄り添うような言葉はどこにもなく、桂樹先輩はただ明るい笑顔を見せるだけだ。
雅臣「そ、そうなんですけど…その、費用とか色々心配で……」
もう少し踏み込んだ話をしたくて俺は思い切って口を
開いた。
蓮池や柊、一条先輩と話してきた上で桂樹先輩の意見も聞いてみたい。
そんな思いでいっぱいになるが、桂樹先輩の目は一瞬にして疑わしげに変わり鋭く俺を見据えた。
桂樹「えっと……何しに?だってお前今BALENTIAGAのシャツ着てんじゃん?」
雅臣「えっ……あ、これは皆で買って……その、」
俺は焦りながら言葉を紡ぐが、声は次第に小さくなり
桂樹先輩の鋭い視線に耐えきれず視線を落とした。
BALENTIAGAのシャツが、まるで自分の軽率さを嘲笑うかのように胸元で揺れている。
桂樹「その金は親が出してくれたんだろ?」
軽い口調の裏にどこか冷ややかな響きを感じて俺の胸はざわついた。
当たり前だが桂樹先輩には俺の全貌が見えていない。
親父との折り合いが悪いこと、確かに金は出してくれているけどそれを頼らずに何とか自分の力で頑張ろうと模索していることなんて何も知らない。
桂樹先輩の意見を聞きたかっただけなのに、その目にはただ親の金で遊び回りながら大学費用を心配する意味不明な奴にしか映っていないのだ。
桂樹「それ買ってくれるなら大学費用なんか余裕で出すだろ!何が心配なん?どうでもよくね?」
雅臣「あ、ハハ……え、えっと……」
軽く笑う先輩に、つい俺も合わせて笑ってしまう。
確かに、桂樹先輩は一応話を聞いてくれている。
相槌を打ちながら時折その大きな瞳で俺を見てくれるが、俺が本当に求めているのはそういった軽いやりとりじゃない。
俺は胸の奥で渦巻く不安や葛藤をもっと真剣に受け止めて欲しい。
もっと踏み込んで聞いて欲しいし、ちゃんと向き合ってく欲しい。
自分からもっと深い話を切り出せばいいのだろうか?
そうすれば俺の話を聞いて……いや、でもこんなことをわざわざ1から全て先輩に話す必要があるのか?
そんな自問自答のループに囚われていると、ふと我に返った。
俺は桂樹先輩に何を求めてるんだ?
桂樹「よし!掃除終わり!!」
雅臣「あ、」
桂樹「じゃ、俺帰るな、また何かあったら言えよ!」
そう言って桂樹先輩は荷物を手に取ると何も無かった
ように部室を出ていってしまった。
桂樹先輩が荷物を手に取り、颯爽と部室を後にする。
バタンと扉が閉まる音が静かな響き、1人残された俺は何も言えずに立ち尽くす。
……何を期待していたのだろう。
ただ話を聞いて、意見が欲しいだけだと言いながら何を求めていたのだろう。
桂樹先輩は俺にいつも通りの優しさで接してくれている。
それなのに4月に感じたあの心を震わせるような温かさは、胸を締め付けるほどの感動は、今はもうどこか遠くへ霞んでしまっている気がした。
どうしてだろう。
この数ヶ月、柊や蓮池、先輩たちと笑い合いぶつかり
合ってきた経験が俺の心を少しずつ変えたのだろうか。
それとも知らず知らずの内にただ先輩の優しさに慣れてしまっただけなのか。
どれだけ考えても自分の心が霧のようにぼやけて掴めない。
ため息をついた瞬間、扉が再び開く音が響いて顔を上げた。
三木「おう、お疲れ」
雅臣「三木先輩……!」
三木「掃除してくれてたのか?ありがとうな」
その言葉と微笑みに心が少し解れた気がした。
外の暑さが残るのか三木先輩の額にはうっすら汗が浮かび、「暑いな」と呟きながらエアコンのリモコンを手に温度を下げる。
雅臣「何か飲みます?」
三木「悪いな、アイスコーヒーいいか?」
雅臣「もちろんです!!」
頭をぐるぐる巡る雑念を振り払うように、俺はキッチンのコーヒーマシンを動かした。
マシンが低く唸り濃い琥珀色の液体がカップに注がれると、豆の香りが鼻をくすぐり氷がガラスに触れる涼やかな音が響く。
雅臣「そうだ、布団返却の用紙!出してくれたんですよね」
三木「あぁ、俺もちょうど生徒会に用があったからいいよ」
雅臣「本当に何から何まですみません……」
三木「そういう時はありがとうでいいんだよ」
雅臣「あ、えっと……ありがとうございました」
三木先輩の声は柔らかくていつも通りどこか余裕を感じさせるものだった。
不思議と安心感に包まれ、さっきまでの心の霧が晴れていく気がする。
アイスコーヒーを置くとストローに口付ける先輩は何か思い出したように顔を上げた。
三木「そうだ雅臣、進路の相談乗るって言って日にちを決めてなかったな」
雅臣「……え!?」
アイスコーヒーを1口飲みながらスマホのスケジュール帳を開く三木先輩の自然な動作に、俺は思わず目を瞬かせた。
三木「いつがいい?」
穏やかな笑みを浮かべる三木先輩の眼差しは丁寧に寄り添おうとする温かさに満ちている。
俺の悩みを軽く跳ね除けるだけだった桂樹先輩の軽やかな態度と三木先輩の真剣な姿勢はあまりにも対照的だった。
雅臣「そ、その俺まだ本当に何にも考えてなくて___」
三木「だから相談してくれるんだろ?」
三木先輩の真摯な態度と静かな熱意が、俺の心を掴んで離さない。
その言葉は俺の不安も真正面から受け止め、共に考えることを約束してくれる。
心にじんわりと温かいものが広がり、胸のざわめきは
あっという間に払拭された。
雅臣「俺はいつでも空いてて……」
三木「それなら今日これから時間あるか?少し待たせることになるが俺の事務所で話を聞こう」
雅臣「あ、ありがとうございます……!!」
桂樹先輩の軽やかな笑顔は、確かに温かい。
でも、三木先輩の真剣さは俺に未来への一歩を踏み出す勇気をくれた。
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