限りなく傲慢なキス

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限りなく傲慢なキス 10

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「というと?」
「今回、佐々木さんも関わってますよね、植山一馬とアスカさんの携帯の仕事」
 藤堂は少し真面目な顔になって良太を見つめた。
「植山一馬の噂は藤堂さんもご存知かと思うんですけど、俺もアスカさんと打ち合わせ同席したので、アスカさんに忠告されたんですが……」
「植山一馬、男女構わず気に入るとモノにしたがるから気をつけろって?」
 簡潔明瞭な藤堂の発言に、良太は思わず頷く。
「実は、佐々木さんが被害にあってて」
 途端に藤堂は眉をひそめる。
「なるほど、朴念仁の河崎、それに全然気づいていないと、だから俺に直訴というわけか」
 すぐに良太の言いたいことを察知して、藤堂は腕組みをする。
「いや、それが先日直ちゃんから俺のとこにSOSが入って……」
 良太はその時の顛末をかいつまんで説明した。
「とにかく、その時は事なきを得たって感じですけど、アスカさんの話だと、植山って、自分の思い通りにならなければよけいに目の色変えるヤツみたいで。工藤にも一応話してはみたんですが、何分こっちにいないし、俺も佐々木さんに、何かあったらいつでも言ってくださいとは言ったんですが、俺、明後日の朝からフランクフルトで、数日は向こうなんです。その間に何かあったらどうしようかと……」
「わかったよ、大船に乗ったつもりで、任せなさい! と言いたいところだが、佐々木さんはああ見えて男としてのプライドもあるし、何かあってもおいそれと助けて、なんて言う人じゃないからな……」
 それを聞くと良太は大きくため息を吐いた。
「そうなんですよね………いくら直ちゃんが頼もしいって言っても、オフィスの前で待ち伏せとか、そう来られた日には……」
「確かに」
 腕組みしたまま藤堂も頷く。
「加えて心配なのは………」
 言いかけて良太ははたと口を噤む。
 そうだ、ここのところが問題だったんだ。
「なのは?」
 促されてしばし逡巡した良太は、藤堂の目を逸らすように言葉を選んで話す。
「ええと、その、例えばですよ? 佐々木さんの、その恋人とか、植山と鉢合わせしたりして、ことがマスコミに知られたりとか、そんなことになったら不味いし……CMの仕事にも差し障りがあるし、植山はスキャンダルの宝庫だから、またか、で済むかもしれないけど、佐々木さんにも変なイメージが、その………」
「この際ぶっちゃけようか、良太ちゃん」
 良太の言葉を途中で遮って、藤堂が良太を見た。
「え………」
 息をのんで良太は藤堂をまともに見つめた。
「良太ちゃんは知っているんだろ? 佐々木さんの恋人のこと? ってより、逆か。あとは俺と直ちゃんと浩輔ちゃんだけだな、今のところ、知ってるのは」
 まったくこの人には何でもお見通しらしい。
 確かにここはぶっちゃけた方が話は早いかもしれないが。
「良太ちゃんが心配しているのは、佐々木さんのことだけじゃないんだろ? むしろ、そっちが下手に知られたら非常にまずいことになるだろうと。彼から佐々木さんのこと聞いたんだね?」
 この際、良太にはもう隠すような理由もなかった。
「去年のクリスマスのあと、あいつから好きな人がいるって聞いて。でも佐々木さんってまさかって思ったけど、もうだめだみたいに荒れまくってたのに、それが数日後には何かうまくいったみたいで、年明けのイベントとかも、あいつわかりやす過ぎで、とにかくお互いにマスコミとかに知られないようにしろよとは念を押したんだけど……」
 何やらしどろもどろになり、一呼吸おいて、良太は続けた。
「佐々木さんと仕事をすることもあるし、もし俺が知ってるってわかったら、佐々木さん、仕事しづらいんじゃないかと思って、俺が知ってることは言うなってあいつにも言ってあって、それで、今回もちょっと困ったんです」
「佐々木さんも、相手が仕事関係者だから面倒だと思って、我慢しているんだろ」
「そうなんです。で、とにかくあいつ、マスコミにはクールで通ってるみたいだけど、実は結構カッときやすい性質で、リトルリーグの頃から俺とはしょちゅうとっくみあいの喧嘩してたとかで、もし、植山と鉢合わせなんかした日には、とんでもないことになるんじゃないかと。そろそろキャンプインするし、取り越し苦労になればいいんだけど」
 なるほど、と藤堂は腕組みをしたまましばし考え込んだ。
 良太は話してしまって、少しばかり気が楽になったものの、さしあたってどうしたらいいか、さっぱり思いつかなかった。
「わかった。良太ちゃんの留守中だけでなく、問題だな。ちょっと策を弄する必要がありそうだ」
 藤堂は心配そうな良太の顔を見ながらにっこりほほ笑んだ。
「彼にも言えず、佐々木さんにも言えず、悶々と悩んでたんだね、良太ちゃん。ま、そう気負わなくても、俺を頼ってくれたことは非常に嬉しいよ」
 はあ、と良太は苦笑いを浮かべる。
 そっちは任せて、心置きなくフランクフルトに飛びなさい、と、藤堂は別れ際、茶目っ気たっぷりに手を振った。
 
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