アルファ貴公子のあまく意地悪な求婚

伽野せり

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発情してはいけない 7

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 背の高いアルファを外に連れ出そうと、無理矢理に腕を引く。けれどびくともしない。
「高梨さんッ」
 声が悲痛なものになる。光斗に目を移せば、弟もまた彼と同じような顔をしていた。恍惚とした、熱に浮かされたような表情だ。

 ふたりは互いのフェロモンで惹かれあっている。しかも光斗は、もともと高梨の番候補になっていた相手だ。普通のアルファとオメガよりも強力に求めあっても不思議じゃない。
 ――どうしよう、このまま、ふたりが抱きあって、番になってしまったら。

 恐怖に全身が冷える。
 そして気がついた。
 自分が今まで何に怯えていたのかを。

 どうして高梨の番になることを躊躇していたのか。なぜ彼を受け入れられなかったのか。彼は発情がなくても陽斗を番にしたいと言ってくれたのにもかかわらず。
 それは、こんな事態がくることを、予期していたからだ。

 高梨がいつか、フェロモン型のマッチングする相手に出会ってしまったら。その相手が発情して彼を誘惑してきたら。
 発情のない自分は太刀打ちできない。

  きっと彼は自分を捨てて、その相手のもとへといってしまう。そのときこそ、本当の別れがやってくる。
 だから、素直に彼の番になることができなかったのだ。

「イヤだ」
 そんなのはイヤだ。
「高梨さん、しっかりしてっ」

 陽斗は高梨の背広を掴み、全力で揺さぶった。そうして、彼の頬を強くひっぱたいた。
 すると高梨が、ハッと瞬きをする。

「――陽斗君」
「高梨さんっ」
 必死の形相で見あげると、高梨も焦点の戻った瞳で、陽斗を見てきた。

「――ああ、いけない。わかった、ごめん、外に出る」
 正気になった高梨に、陽斗もホッとする。
「この家には遮香室はある?」

「ない。じゃあ君は、光斗君を連れて、二階の自室に籠もってるんだ。僕は正門を施錠して、誰も屋敷に入れないようにしておく。それから念のため警備会社にも連絡しておこう」
「わかりました。それから、高梨さん、アルファ用の抑制剤は持ってます?」
「ああ、持ってる。飲んでおこう」
「けど効かないかもしれない。光斗のフェロモンは特別強いんだ」
「わかった」

 高梨が玄関扉に手をかけようとしたそのとき、なぜか外側から扉があいた。ドアの隙間から、ヌッと見知らぬ男が顔をのぞかす。
「社長。どうしたんですか。この匂いは。私も、中に入れていただけませんか」
 黒い背広姿の中年男性が、不気味な低い声で笑いかけてくる。

「お前は外に出てるんだっ」
 高梨は男を押し戻すと、ドアをしめた。
「僕のボディガードだ。今日は鷺沼がいないからあいつに運転手をさせていた」
「あの人、アルファなんですか」
「そうだ、クソッ」
 玄関扉がドンドンと叩かれる。  
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