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1 放課後
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昔から読書が好きだった。だから学園入学後、学期の最初の委員決めでは図書委員に真っ先に立候補した。
図書委員の仕事は、朝と昼と放課後に図書館で、本の貸し出しや本棚の管理をすること。そして、2、3ヶ月に1回ある図書委員主催のイベントを運営することである。正直言って、他の委員よりも時間が取られやすいし地味である。
図書委員は面倒な委員の一つだったから、当然人気もない。そのまま俺に決定になって、それから図書委員の仕事を始めて半年がたった。
夏休みはとうに過ぎ、今は10月の頭だ。図書委員の俺は今日も、放課後の学校に残って仕事をしている。図書館に訪れてきている生徒はおらず、部屋には俺しかいない。
校庭で活動中の運動部の掛け声や、下校中の生徒の話し声が窓の外から聞こえるだけだ。静かな教室の中、俺は今日も一人で委員の仕事をしている。委員には俺以外にもいたはずなのだけど、いつの間にか仕事は俺だけでするようになっていた。
まあ、さほど仲良くもない相手だったし、居ないほうが気楽でいい。図書室の静かな空間に居ることは苦じゃなかったし、特に彼らについて悪い感情は持っていなかった。
それに、こんな面倒な委員のしごとをするくらいなら友達と遊びに出たほうが良いと、普通の生徒は思うだろうから。
……俺だって友達がいないわけじゃないけど。でも、やっぱり本が好きなんだよなぁ。
返却された本を順に棚に並べていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「今日の当番は宮田か。いつも遅くまでありがとうな」
声の主は、いつも俺が世話になっている原口先生だ。先生は数学教師で、明るい性格をした若い男性だ。生徒間の中でも人気のある先生で、度々男子生徒と悪ふざけをしているところを見たところがある。
ただへらへら笑っているだけの陽キャに見える原口先生だが、理知的な大人な思考を持っていることに、俺は気づいていた。
彼という人間を観察できるのは、授業中と図書委員の仕事中のみ。それだけの時間でも、彼からは頭脳明晰さが滲み出ていた。明るい性格は本人のものであるみたいだけど、あのキャラには多少打算が入っていると見る。何度か彼の本気の笑顔を見たことがあるから、普段生徒とおちゃらけているときの表情の軽薄さがよくわかるのだ。
先生なのにノリが良いという評判を、友人から聞いたことがある。若いから元気ハツラツだし、数年教師をしているみたいだけどまだまだ新米の初々しさも残っていて、教師間の中でも可愛がられているそうだ。
……そういった上手な立ち回りができるのは、少し羨ましい。
原口先生は図書委員会の担当員で、放課後こうして図書館で姿を見ることは珍しくない。先生は入り口から仕事中の俺を見ながら、ゆるりと口角を上げていた。
「いえ……仕事ですし」
「宮田は優秀だから、いつも助かっているよ。丁寧に本を扱ってくれるし。うちのやつは乱暴なのが多いから、お前みたいな子は貴重だよ」
そんな褒められるようなことはしてないのにな。
先生はよく俺のことをこうやって褒めてくれる。この学校は男子校なだけあって、生徒のやることも雑だしトラブルが多いのだ。そんな中で、俺のような存在は貴重であるらしい。
俺は昔から性格がおとなしい方だから、そんな騒がしい男子校の中でも異様な生徒なのかもしれない。だから、原口先生もこうして俺ばかり気にかけてくれるのだと思う。
「お、これは……ポスターか?宮田って絵がうまいんだな」
いつの間にかカウンターに移動していた先生が、台を覗き込みながらそう言った。先生が見ているところには、書きかけのポスターを置いていたはずだ。
俺は本棚を整理しながら、先生の声に答える。
「ありがとうございます…」
「このおばけのイラストかわいいな。ハロウィンのポスターか」
「はい。今月末のハロウィンイベントのために書いているポスターです。今年は図書委員で、本を借りに来た生徒たちにお菓子を配るので。その宣伝用に描いているんです」
「へぇ……そうだったんだ」
先生、イベントのこと知らなかったんだな。図書委員の担当員なのに、
……まあ、委員会の会議ではいつも眠そうにしているから、ついこの前話し合ったことも覚えていないのだろう。会議は毎回出席しているけど、監督仕事としてでしか来てないようだし、委員がそれなりに仕事をしていたら満足なのかもしれない。
図書委員の仕事は、朝と昼と放課後に図書館で、本の貸し出しや本棚の管理をすること。そして、2、3ヶ月に1回ある図書委員主催のイベントを運営することである。正直言って、他の委員よりも時間が取られやすいし地味である。
図書委員は面倒な委員の一つだったから、当然人気もない。そのまま俺に決定になって、それから図書委員の仕事を始めて半年がたった。
夏休みはとうに過ぎ、今は10月の頭だ。図書委員の俺は今日も、放課後の学校に残って仕事をしている。図書館に訪れてきている生徒はおらず、部屋には俺しかいない。
校庭で活動中の運動部の掛け声や、下校中の生徒の話し声が窓の外から聞こえるだけだ。静かな教室の中、俺は今日も一人で委員の仕事をしている。委員には俺以外にもいたはずなのだけど、いつの間にか仕事は俺だけでするようになっていた。
まあ、さほど仲良くもない相手だったし、居ないほうが気楽でいい。図書室の静かな空間に居ることは苦じゃなかったし、特に彼らについて悪い感情は持っていなかった。
それに、こんな面倒な委員のしごとをするくらいなら友達と遊びに出たほうが良いと、普通の生徒は思うだろうから。
……俺だって友達がいないわけじゃないけど。でも、やっぱり本が好きなんだよなぁ。
返却された本を順に棚に並べていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「今日の当番は宮田か。いつも遅くまでありがとうな」
声の主は、いつも俺が世話になっている原口先生だ。先生は数学教師で、明るい性格をした若い男性だ。生徒間の中でも人気のある先生で、度々男子生徒と悪ふざけをしているところを見たところがある。
ただへらへら笑っているだけの陽キャに見える原口先生だが、理知的な大人な思考を持っていることに、俺は気づいていた。
彼という人間を観察できるのは、授業中と図書委員の仕事中のみ。それだけの時間でも、彼からは頭脳明晰さが滲み出ていた。明るい性格は本人のものであるみたいだけど、あのキャラには多少打算が入っていると見る。何度か彼の本気の笑顔を見たことがあるから、普段生徒とおちゃらけているときの表情の軽薄さがよくわかるのだ。
先生なのにノリが良いという評判を、友人から聞いたことがある。若いから元気ハツラツだし、数年教師をしているみたいだけどまだまだ新米の初々しさも残っていて、教師間の中でも可愛がられているそうだ。
……そういった上手な立ち回りができるのは、少し羨ましい。
原口先生は図書委員会の担当員で、放課後こうして図書館で姿を見ることは珍しくない。先生は入り口から仕事中の俺を見ながら、ゆるりと口角を上げていた。
「いえ……仕事ですし」
「宮田は優秀だから、いつも助かっているよ。丁寧に本を扱ってくれるし。うちのやつは乱暴なのが多いから、お前みたいな子は貴重だよ」
そんな褒められるようなことはしてないのにな。
先生はよく俺のことをこうやって褒めてくれる。この学校は男子校なだけあって、生徒のやることも雑だしトラブルが多いのだ。そんな中で、俺のような存在は貴重であるらしい。
俺は昔から性格がおとなしい方だから、そんな騒がしい男子校の中でも異様な生徒なのかもしれない。だから、原口先生もこうして俺ばかり気にかけてくれるのだと思う。
「お、これは……ポスターか?宮田って絵がうまいんだな」
いつの間にかカウンターに移動していた先生が、台を覗き込みながらそう言った。先生が見ているところには、書きかけのポスターを置いていたはずだ。
俺は本棚を整理しながら、先生の声に答える。
「ありがとうございます…」
「このおばけのイラストかわいいな。ハロウィンのポスターか」
「はい。今月末のハロウィンイベントのために書いているポスターです。今年は図書委員で、本を借りに来た生徒たちにお菓子を配るので。その宣伝用に描いているんです」
「へぇ……そうだったんだ」
先生、イベントのこと知らなかったんだな。図書委員の担当員なのに、
……まあ、委員会の会議ではいつも眠そうにしているから、ついこの前話し合ったことも覚えていないのだろう。会議は毎回出席しているけど、監督仕事としてでしか来てないようだし、委員がそれなりに仕事をしていたら満足なのかもしれない。
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