白猫の嫁入り

キルキ

文字の大きさ
上 下
7 / 30

7 家猫

しおりを挟む
みきちゃんは夕飯を食べたあと、少しここで寛いだ後自宅に帰っていった。大輝はみきちゃんを家まで送るために一度家を出ていったが、すぐに戻ってきた。できた大学生だなぁ。

その日の夜のことだ。俺はいつもどおり寝床で眠っていたのだが、滅多に見ることのない夢を見たのである。

真っ白な空間で、俺の意識だけが漂っている感覚がした。ふわふわな思考のままぼうっとしていると、どこからか渋い男の声が聞こえてきた。

『我……猫神なり……』
『ふぁ?』

かみ?

声の主はどこにも見えない。耳を澄ませてあたりを伺っていると、再び声が聞こえた。

『我はお前に憑いている神だ。お前に、使命を与えに来た』
『……まさか、みきちゃんがいっていた噂って本当だったの?』

夢の中だからか、普通に人間の言葉が喋れた。久しぶりのお喋りにどきどきしていると、俺の声を聞いた神様が驚いた声色で『お前、言葉を話せるのか?』と言った。俺が元人間であることは知らないようだ。

『ええ、まあ。俺ってば賢い子だからね。ところで俺に何か御用ですか神様』
『……ほお。まあいい。本題に移ろう。お前はあの娘に、恩を感じはしないか?』

まあ、感じているといえば感じていることもなくはない……。かな。

待って、この流れって、使命ってまさか……?

『施しを受けたら、報恩するのが礼儀というもの。あの子の願いを叶えてやりなさい』

あの子の願いといえば、大輝との恋愛成就だろう。俺に恋のキューピットになれと?こちとら恋愛経験皆無だぞ。

『……やっぱりか。って、待ってください。俺はそもそも猫の姿だし、そんなことできるわけ、』
『ああ、そうだな。幸いお前は普通より賢い猫のようだ。人の姿にしてしまっても良いかもしれぬな』
『人の姿!?』

人間になれるの?

人間になれるということは、天敵が居なくなるということ。体質を気にせず食べ物を食べれるということ。言葉を話せるということ。

今の猫の生活でも満足しているけど、やっぱり人間として生きるほうが俺にはあっているのだ。

『やります、恩返し!だから人間の姿にしてください!みきちゃんのためにできることはしたいんだ!』

見事な掌返しをしちゃったけど、とりあえず勢いで押し切れ!

『よかろう。お前に、力を与える』

それが聞こえたと同時に、誰かに喉元を撫でられた感覚がした。そのまま真っ白な世界が歪み、消えていく。だんだん場面が切り替わり、視界に映ってきたのは現実の世界だった。

真っ先に見たのは自分の身体。案の定素っ裸だが、ちゃんと男の人間の身体をしている。猫用ベッドに座っているのは変態臭いけど。

ちらりと視界の端に、真っ白な髪の毛が見えた。猫の姿の毛並みの色が髪の毛に反映されているみたいだ。前世はずっと黒髪で生きてきたから、新鮮である。

と、ここで尻に違和感を覚えた。横目で背後を見れば、真っ白の猫のしっぽがゆらゆら揺れている。ここは人間化できなかったのか。手で頭を触ると、猫特有のふわふわの耳があった。

まあ、これくらいなら及第点かな。あまり文句は言うまい。神様の機嫌を損ねたら、また猫の姿に戻されるかもしれないし。

自分の尻尾を掴んでみると、ふわふわした感触が手に伝わってくる。本物の尻尾だ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

BL / 完結 24h.ポイント:674pt お気に入り:4,686

飛竜誤誕顛末記

BL / 連載中 24h.ポイント:1,178pt お気に入り:4,972

何でも屋始めました!常にお金がないのでどんなご依頼でも引き受けます!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:17,921pt お気に入り:450

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:4,727

淫行教師に全部奪われて恋人関係になっちゃう話

BL / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:435

主人公を犯さないと死ぬ悪役に成り代わりました

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:266

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

BL / 完結 24h.ポイント:426pt お気に入り:307

アナニー大好きな俺が電車の中でとろとろにされる話

BL / 連載中 24h.ポイント:674pt お気に入り:3,315

処理中です...