海ぼうずさんは俺を愛でたいらしい

キルキ

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本編

21 海ぼうずさんと上司④

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悲しくなってきて、弁当のシューマイに箸を刺す。黙々と弁当を食べる沈黙が続き、暫くして安元さんが口を開く。さっきと打って変わって真剣な声色が聞こえてきた。声量も少し落としている。

「それよりだな。お前、元カノと揉めてんのか?」
「いえ、話自体はもう終わったことです」
「お前がそう思ってるだけで、向こうはそう思ってないんじゃないか?友人がお前に突っかかってくるくらいだし。お前が女に酷いことするとは思っていないが、話し合いが必要な時もあるだろ。何か困ってることがあるなら、俺がフォローしてやれるけど」

どうやらこれが本題のようだ。先に食事を終えたらしい安元さんは、俺の顔を伺うように見ている。

安元さんは俺を手助けしようとしてるみたいだ。フォローしてやれる、と断言までしている。

凛とした眼差しに、俺もしっかり目を合わせた。

「別れた理由が周りに知られると絵莉さんにとって都合の悪いことなので……だから、友人さんには詳しく話さなかったのでしょう。ご友人と絵莉さんの間ですれ違いが起きたのだと思います。だから、大丈夫です」
「……何か悩んでいることは無いのか」
「無いです。……ありがとうございます」
「いーえ。ま、俺としては全て洗いざらい喋ってほしいんだけどな」

安元さんは息を吐いて肩の力を抜いた。そこで、安元さんの身体が今まで強張っていた事に気づいた。ガラにもなく、緊張していたのだろうか。全部話してほしいという言葉には、苦笑いしかできなかった。

まあ、確かに気になるよな。ここまで色々してくれたんだし全部話してやりたいという気持ちもあるが、こればかりは俺だけの話じゃないからそれは無理だ。

それにしても、ここまで言ってくれるなんて優しい人だ。部下の揉め事なんて普通、関わりたくないと思うだろうに。こういった人が人徳を集めて、どんどん高みに出世していくんだろう。

……お礼は言えたけど、これだけじゃお礼にならないな。

俺はシューマイ弁当を食べ終えると、ゴミ捨てついでに飲み物を二人分買うことにした。

「安元さん、ゴミ捨ててくるので弁当のゴミください」
「おお、悪いな」
「……コーヒー、ブラックでいいですか」
「気が利くな。ブラックでいいよ」

安元さんはにかりと笑った。陽キャの笑顔は眩しい。本当はブラックがどうとか聞かずに黙ってスマートにかっこよく買ってきたかったのだが、上司の好みを知らないため本人に聞かざるを得なかった。リサーチ力が足りてなかった。

俺はゴミと財布だけ持って、公園の隅にある自販機に向かった。






ゴミを捨てて、無事缶コーヒーを買って無事帰還したら、ベンチで座って待っているはずの安元さんがペットボトルをシェイクしてた。いや、あのペットボトルって、クラゲさんじゃね?シェイクされててよく見えないが、あの黄色い目が一瞬見えて、俺は駆け出した。

「な、何してるんですか!」
「おー、戻ってきたか鍵田。お前、こんな今どきの飲み物が好きなんだな。これって振ったらゼリーになるやつだろ?」
「いや違いますって!とにかく、振るのはやめてください!」

慌ててクラゲさんを取り返す。ペットボトルを腕に隠しながら、こっそりクラゲさんの顔を伺って、そこにあった光景に意識が遠くなった。

目が四つになってる…!

なんか見ちゃいけないものを見た気分だ。思わず目を逸らすと、クラゲさんが悲しそうに「キュー」と鳴いた。罪悪感がすごくて、目線を外すのをやめて頭を撫でた。

よく見たら、さっきよりも一つ一つの目が小さくなっている。もしかしてシェイクされた衝撃で目が分裂したのだろうか。ホラーだ。俺はホラーがあんまり得意じゃない。少しくらいなら見れるけど、ここまであからさまな人外っぽいところを直に見るのは流石に背筋が冷えた。ショッキングなものを見て、腕がブルブル震えた。

クラゲさんは四つの目を全て俺に向けていた。心なしか、目がわなわなしてる気がする。おい、クラゲさんが泣いちゃってるじゃないか。

「違うのか。水の中に黄色いゼリーみたいなのが二つ浮かんでいたから、そうなのかと思っていたんだが」
「違いますって!というか、人のペットボトル勝手に振らないでください!」
「すまんすまん。いやあ、こういった若い子に流行してるものってこの年になると買いづらくってな。ついつい手が伸びちまった」
「急におじさん臭いこと言わないでください。そんなに年食ってないでしょ。それに、これは振ってもゼリーになりませんってば!」

クラゲさんを安元さんから庇うように胸に抱きしめた。クラゲさんをここに置いたままにしたのは失敗だった。少しの間だからと慢心せずに、一緒に連れて行くべきだったのだ。俺以上に、クラゲさんは怖い思いをしたに違いない。可哀想に。

もしかして、安元さんって、天然なのか?うわ、全然キャラに似合わない。

陽キャではあるけど、そんな子供っぽい飲み物に興味を抱く人じゃないはずだ。しかも、他人の飲み物を勝手に触るような自分本意な人でもない。

薄っすら違和感を感じながら、これ以上クラゲさんをこの場に置いておきたく無い。コーヒーを渡し終えると、俺は急いで鞄にクラゲさんを詰め、会社に戻ることにした。


クラゲさんの目は鞄に入れて歩いている間に、もとに戻っていた。いつも通りの二つの黄金を見て、俺は心底ホッとした。
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