海ぼうずさんは俺を愛でたいらしい

キルキ

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本編

22 海ぼうずさんと上司 異形編

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あいつがとうとう、ずっと付き合っていた彼女と別れた。それを知ったとき、俺は走り出したいくらい喜んだ

あいつには悪いけど。






入社当時から俺の後をちょこちょこついてくるあいつが、可愛くてたまらなかった。顔色が悪くて細っこくて体力ないくせに、人一倍仕事に励むその姿は今まで見たどの人間よりもきれいだった。

傷は人を綺麗にすると聞いたことがあるが、あいつに会ってようやくその意味がわかった。見た目ではわからない、心の傷があいつにはたくさんついている。通常の人は見ただけでは気付けないような傷が、俺にははっきりと見えた。

少し会うだけでは満足できなくて、とある伝手を使っていろいろあいつのことを調べた。幼少期の家庭環境から、今の交友関係まで全部。友人に好かれる質だったようで、高校卒業後も度々会っているらしかった。

彼のことを調べ上げる過程で恋人がいることを知ってしまい、しばらくへこんだ。そもそも俺とあいつは男同士、望みはないことなんてわかりきっていた。なのにこうしていざあいつが女と一緒になっているところを見ると、嫉妬で気が狂いそうだった。


そのうち、どうやって二人を別れさそうかという思考になってきた。仕事をしながらこそこそ計画を練っていると、そのうち女の方が別の男に浮気をし始めた。

それを知ったときは腸が煮えくり返って、別の意味で狂いそうになった。別れてほしいと思っていたが、あいつを傷つける形で別れさそうとは微塵も思っていなかったのだ。

今すぐ女を問い詰めたい気持ちを抑えて、俺は機会を待つことにした。きっといずれ二人は別れるだろう。女が先に別れを告げるはずだ。そう予想をつけていたのだが、予想に反して二人の仲は続いた。



女は別れの言葉をなかなか言わないし、あいつはあいつで鈍感だから浮気されていることにも気がつかない。第三者の俺がどうしてこんなにハラハラしないといけないんだ。

前にも後ろにも進まない二人にイライラしながら、月日が経っていく。だんだん女が本性を出していくのをひしひしと感じた。裏であいつの悪口を言っていたり、馬鹿にしたりと散々だ。この女はあいつと付き合えているのに、どうしてあいつを大切にしないのか。

なぜ二人は別れないのか。もういっそのことあいつを寝取ってやろうか。いや、流されやすいとはいえ恋人持ちのあいつが安々体を許すはずはない。危険思考に入りそうな脳を必死に押さえつけていると、ようやく機会はやってきた。

あいつが昔の友人とビーチに行くために有給を取った。これはチャンスだと思った。

急いであいつが行くビーチを調べて、そこにある店を調べ上げた。そして、とある旅館の宿泊券を2枚手に入れて、あいつの彼女に渡したのだ。

「宿泊券を貰ったんだけど、旅行は興味がなくてな。よかったら貰ってくれないか?友人とでも一緒に行ってみたらどうだ。あ、この旅館の近くにあるビーチ、お前の好きなミルクあずきのかき氷が売ってるみたいだから言ってみろよ。海もきれいらしいぞ」

海は一番のデートスポットだ。すぐにこの話に食いついた女は、俺の目論見通り、浮気相手の男と旅行に行った。かなり無理やりに引き合わせることになるが、これで二人は別れてくれるだろう。結果的にあいつを傷つけることになるが、俺がたくさん慰めてやればいいという話だ。

だが、あいつが海から帰ってきて以来、なかなかあいつの情報を得ることができなくなった。あいつの調査に出している奴らが、尽く情報を得られずに帰ってくるようになったのだ。

ただ、あの後の二人が無事に別れたという情報は入ってきた。あいつがあのくそ女から離れることができたなら、それでいいと喜んだ。






最近、あいつの顔色が少し良くなった。昼も以前よりたくさん食べるようになっていた。あのくそ女と別れられたからだろうか。

帰り際も少しおかしい。前は残業三昧だったのに、最近は定時で帰ることが多くなった。そして帰るとき、あいつは早足になるのだ。まるで、家に待ってる誰かをなるべく待たせたくないと言うように、あいつは早く帰るようになった。

あいつに何があったのかを探るために酔い潰してホテルで泊まったこともあるが、その時も朝起きて早々部屋を出て行ってしまった。……あの時は、あいつの反応が可愛くて、身体を迫ってしまった。そう悪くない反応だと思ったんだが、逃げられちまったな。残念。押せばいけると思ったんだが。


……この頃、あいつから妙なにおいがする。俺と同じ───人ならざるもののにおいだ。

俺があいつの情報を掴めなくなったのも、そいつのせいなのだろう。くそ。ここまであいつの情報を隠してくるやつなんだ、きっと碌でもないやつに違いない。今度はどこで引っ掛けてきたんだ。

あいつの一番近くに居るのは、俺でいたいのに。






「よお、坊主。お前、何であの子と一緒にいるんだ?」

鍵田が自販機に向かったのを見送ったあと、狭い人工物の中で自由気ままに泳いでいるそいつに話しかける。

返事は返ってこない。目も合わせてこない。俺と会話をする気を感じない。無視かよ。

「おいクソ坊主。何でだって聞いてんだよ。おい、あんまり調子に乗ってんじゃねえぞ」

ペットボトルごとそいつを揺らすと、ようやく黄色の双眼がこちらを向いた。

はるか昔に見たときとかなりサイズが違うが、一目でこいつの正体がわかった。こいつは、海坊主だ。最近鍵田から妖のニオイがしたのはこいつのせいだった。

どこでどうやって知り合ったのかは知らないが、抜け駆けをされたものだ。鍵田は随分と坊主のことを心の頼りにしているようだった。俺に対しては、内心びくびくしてばかりのくせに。それがまた、腹立たしい。ようやくあの女が鍵田から離れてくれたと思ったのに、今度は化け物をくっつけてきやがった。人間の女よりも厄介だ。

「お前、鍵田に変なことしてねえだろうな」
「……」
「おい、まじかよ。もしや、無理やり迫ったりしてねえだろうな」

坊主は沈黙している。答える気はないようだが、この反応を見ればなんとなく予想はつく。つまりは既にお手つきだってことだ。

眼の前が真っ赤になるほど、腸が煮えくり返る。こいつが人形をしていたら
今すぐ胸ぐらを掴んで殴っていただろう。ペットボトルをがっしとつかんで、顔に引き寄せる。

「貴様、まさか最後まで……!」

坊主がゆるりと首を振った。そうか、最後までは……。
そのことに僅かに安堵した自分が、滑稽に感じてならない。くそ、海坊主と話しているといつもそうだ。こちらばかりが必死になって、気分が悪い。

「チッ……。そこ以上あの子に手を出すなよ。いいな」
「ヤー」
「なんでこれにも首を振るんだよ!」

体は完全に俺の手中にあるというのに、坊主は生意気にも従おうとしない。今のこいつの大きさであれば、有利なのは俺の方だ。自分の状況がわかっていないのか。

「貴様、このままここで痛めつけて殺してやろうか」
「……」
「……いや、痛めつけるよりももっといい方法があるな。……っふ、楽しみにしておけよ、一晩使ってでもお前からあの子を奪ってやらァ、あだっ」

バチッと言う音とともに、手に激痛が走る。反射で手を離したペットボトルは、地面に落ちていった。金の目は、俺を威嚇するように鋭くなっている。

……はは。やっぱりな。
嫉妬深いのは、俺もこいつも同じだってことだ。

それにしても、その小さな体で反撃してくると思わなかった。これは、俺の密偵も破られるわけだ。

「……とんだ番犬だ」

ペットボトルを蹴り潰したい衝動を抑えてそいつを拾うと、土を払ってやった。

鍵田に、俺が勝手に人のものを汚すやつだと思われたくないからな。




「だが、このまま引き下がるのは気に食わねぇ。お前にここらで恥をかかせてやるよ」

坊主の目は、案外柔らかい。水に浮かぶ油のように、衝撃を当てるとすぐ分裂する。もとに戻るスピードも早いのだが、数秒はそのままだ。……ホラーが苦手な鍵田に、坊主の情けない姿を見せてやる。そして鍵田にドン引きされればいいのだ。はっはっは。

反撃される前にペットボトルごと坊主を振れば、中でバシャバシャ音がした。今頃、目が分裂してることだろう。好きな子にドン引きされてしまえ。

恨みつらみ重なった結果、変なテンションになっていたが、案の定鍵田が海坊主に怯えていたのでやったことに後悔はしていない。
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