海ぼうずさんは俺を愛でたいらしい

キルキ

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続 その後の話

41 同僚が酔っ払ったときの話②

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あまり田川と下関係の話をしないから内心動揺したが、普通の顔を装って布団を整える。ほとんど使ってない枕を頭を置く方に投げた。

「……とにかく、お前はその子と別れるつもりは無いんだろ?」
「ウン……」
「だったら、まずは真摯に謝罪するべきだよ。彼女さんが田川を許してくれるかどうかはともかくね」
「わーってるよぉ」
「ちゃんと謝っておけよ。……悪いのはお前だからね」

まさか俺がこんな話をされる側になるとは。浮気事件ってけっこうありえることなんだな。

絵莉さんと付き合っている間、浮気されてるんじゃないかという不安がまったくなかった訳じゃないのだが、それなりに相手の人柄を信じていた。浮気されたのは、俺のじめじめした性格のせいでも有るだろうけど、……それでも相手が悪いと、今ならはっきり言える。

ソファーに座ってる田川の腕を引っ張って、布団に転がす。酒のせいで真っ赤になった顔のまま、田川は俺を胡乱げな目で見上げる。

「でも、あのコだって浮気してるときあるし」
「待って。もしかしてお互い浮気属性持ってんの?どんなカップルなの?」
「んー……セフから始まったなんとやらってやつ?だから、そういう方面になるとちょっと緩くて」
「は?なんて?」

セフってなんだ。セーフティネット?何で急に保証の話をしてんだ。

言い訳をしておきたいのだが、このときの俺はかなり酔っていた。そして、普段あまりにも聞かない単語のせいで、田川が言ってることを理解できなかっただけだ。決して俺が、純粋無垢な少年の心を持っているわけではない。

だから、ちょっと考えたら田川の言っていることを理解できた。だけど、クラゲさんはそう感じなかったらしい。

「だからぁ、セックスフレ───へぶっ」
「うわ!?」

突如田川の左頬に突進してきた影があった。クラゲさんだ。何やってんの!?

慌ててクラゲさんを田川から引き剥がして、腕の中に隠す。明らかに隠しきれてないけど、酔っぱらいの目を信じよう。田川はぶつかった衝撃で布団に倒れていた。今のうちに、クラゲさんを風呂場にでも突っ込みにいこう。

セフってセフレのことか。そっか、セフ……

……田川ってもしかして、割と女遊びしてるんじゃ…………。いやだ。同僚の生々しい話なんて聞きたくない。

すると、腕の中のクラゲさんは触手を伸ばして、俺の両耳を塞いできた。

もしかして、クラゲさんは俺のことを勘違いしてないか?大丈夫だって、流石にセフレの意味くらい知ってるから!大人の単語を聞いてショック受けたりしないから!というか、クラゲさんがそんな単語知ってることがびっくりだよ。

クラゲさんを宥めて慌てて寝室を出る。テーブルの上に、倒れたグラスがあった。あそこから飛んできたんだな。

そのグラスにクラゲさんを戻そうとしたら、手にしがみつかれて俺からなかなか離れようとしなくなってしまった。仕方なく、一緒に寝室に連れていくことを約束すると、大人しくグラスに収まってくれた。

布団を敷いた部屋に戻ると、左頬を手で擦っている田川が目をぱちぱちさせている。目元がしっかりしてきてるから、正気になってきているようだ。

「なんかにぶたれた……」
「ごめん、俺がぶった」
「すんごいベチャってしてたんだけど……え、もしかしてローションでもぶつけた?」

ちげえよ。べちゃってしたのは本当だろうけど。

「田川、酔いすぎだよ」
「だよなぁ。俺の勘違いか……」

なんとか誤魔化せた。酔っ払いって便利だ。

田川は布団に潜り込んで、ため息をついてしまった。酔いが冷めた分、テンションも下がっている。酔っ払いに気を取られていたが、一応こいつは失恋して傷心中なんだった。

……まあ、大人しくしてくれるんだったら、それに越したことはない。ようやく静かになったことをいいことに、俺も隣の布団に寝転んだ。枕元にクラゲさんのグラスを置く。黄色い目が二つ浮かんでいるのが見えるが、田川にはただの水が入ったコップにしか見えないのだろう。

明かりを消して、目を閉じる。こうして家に誰かを招き入れて、あまつさえそのまま泊まらせるなんて、かなり久々のことだった。隣の存在をなるべく気にしないように心を無にしていたら、掠れた声が隣から聞こえた。

「なあ、お前はそういうの無いの?」
「……そういうの、とは」
「安元さんと夜の営みをよろしくやってんの?」
「いいかげんその誤解は解いてもらえない?あの人と付き合ってないってば」
「じゃあ、他は?誰とも付き合ってないの?」
「付き合ってないよ」

即答すると、どうでも良さそうな相槌が返ってきた。

「まあ、何でもいいけどさ。縋れる人がいるっていいもんだよ。あの人がいたら何でもできそうーって感じで」
「今のお前が言っても説得力無いな」
「ははっ、違いない。でも、本当のことだ」

一丁前に心配でもしてるのか。だったら、余計なお世話だと言ってやりたい。

縋れる相手は見つかっている。俺のことが好きで、俺にべったりで甘えたで、たまに言うこと聞かなくなるから困るけど。最近はそれさえも許してしまいそうになる、そんな相手が俺にはいる。

……依存するようなことになりたくないから、なるべく縋らないようにしてるんだけどね。

「俺のことよりお前だろ」
「……うん」
「ちゃんと彼女に謝れよ」
「はい」

きっぱり言ってやると、短い返事をされる。従順な田川の様子に満足していると、小さな笑い声が聞こえた。

なに、と聞きながら田川の方を向くと、穏やかに細められたそれと目があった。

「俺ぇー、鍵田のそういうとこ気に入ってる」
「そっか」
「ふはは」
「もう寝ろこの酔っぱらい」

今度こそ直接この手で頬を叩いてやると、田川は擽ったそうに笑った。




この後田川は彼女に全身全霊で謝り倒し、色々な貢物を送って許してもらえたらしい。許してもらえたことに驚いたが、田川の世渡りの上手さを思い出してちょっと納得した。

……まあ、彼女さんも前科があるなら、田川に強く出れないのかもな………………。世の中いろんな関係の人たちがいるんだね。ねぇ、クラゲさん。




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