【R18】気になるカレの白いアレ

遙くるみ

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めでたしめでたし

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「おはようございまーうぇ、ええ!?」

「ちょ、先輩こちらへ」

「急げ!」

 次の日出社するやいなや、私のことを待ち構えていただろう藤本と山崎に両腕をがっちり抑えられ、部屋の外へズルズルと連れ出されてしまった。

「先輩!大丈夫ですか!?どこも怪我とかありませんか!?」

「川村!まさかお前が生きて帰ってこれるとは思ってなかったぞ」

「は、はあ?」

 私の無事を確かめるかのように山崎にぺたぺたと全身を触わられ、同じく伸びてきた藤本の手を全力で叩き落とす。必殺ハエ叩きだ、触んじゃねえ。

「で、一体なんなの?」

 いつも就業時刻ギリギリにならないと出社しない二人が。飲み会の翌日なんて堂々と遅刻し、後から午前休を申請することがザラなこの二人が。まさか私よりも早く来ているなんて、これは余程大変な事が起こったに違いない。
 
「とりあえず無事そうでよかったな。いやあ、昨日あの後俺達も反省したんだよ。川村一人に押し付けてっつーか犠牲になってもらって悪かったなって」

「先輩一人の犠牲で飲み会がつつがなく楽しめればそれに越したことはないってあの時は思ったんですけど、先輩のことを考えたら酒もまずくなっちゃって。結局、全然楽しめなかったんですよねぇ」

「そうそう。死ぬか生きるかの緊張感から解放された勢いで乾杯したはいいけどさ、やっぱ罪悪感が拭いきれなくって。ほら、俺たち善良な市民じゃん?川村がドエライ目にあってるかもしれないのに、素知らぬ顔で笑えるほど神経図太くねえのよ。で、終いにはお通夜みたいにどんよりしちゃって。これはマズい何とかしないと!って思って、コールしたり鉄板の一発芸したり一人抗ってみたんだけど、これが全っ然盛り上がんなくてさー」

「あそこまでスベってるフジモン先輩はレアでしたね。いつもは皆、ああこいつまたやってるよマジイタイDQNwwwって、フジモン先輩の気が済むまで生温かい目で見守っててくれてたのに、昨日は本気でやめろ!って怒られてましたもんね。川村がこんな時に不謹慎だぞ空気読めこのシャクレ野郎!って」

「え、ちょ、ザキヤマちゃん。そこまでは言われてなー」

「いやでも、皆先輩のこと本気で心配してたんですよ。ってか、俺たち全員犯罪に手を貸したって言われてもおかしくないんじゃないか、明日朝一に捜査員が来て事情聴取されるんじゃないかって。そりゃあもう、ビクビクで」

 ていうかそれ、私の心配じゃなくて自分の心配じゃん。どこが善良な市民じゃ、ただ自分の身が可愛いだけじゃん。

「で、昨日はあの後何事もなく帰れたんですか?ていうか、どうやってあの人の魔の手から逃げ出したんですか?よく無傷で帰ってこれましたよね?痛いとことかどこもないですか?ちゃんと指5本ありますか?」

 山崎にノンブレスで詰め寄られる。その目は本気と書いてマジだ。
 全く。志島くんのことを人間を主食とする怪物だと本気で思ってんの?そんな訳ないじゃん、馬鹿馬鹿しい。正真正銘どっからどう見ても、ただのおどろ恐ろしい見た目をした人間じゃん。

 ーーまあ、ある意味食べられたけど。
 そして、全然無傷では済まなかったのだけど。いい意味で。

「そうだよ、そこだよ。俺なんて昨日、あのまま後ろから羽交い絞めにされてジャーマンスープレックス決められるかと思ったぞ!そんくらい昨日のあいつはやばかった!まじで俺は死を覚悟したっつーの」

 まあ、それについては多分言い過ぎでも気のせいでもないと思う。あのまま志島くんが勘違いしたままだったら、藤本は今日、会社に来れなかったかもしれない。最悪の場合、朝日を拝むことも。

 ま、それは置いといて。

「あのさあ、さっきからあることないこと、っていうかないことばっか言ってるけど。いい加減私の彼氏をディスるのやめてくんないかなあ!?」

 腰に手を当ててフンっと鼻を鳴らす。
 これ以上二人のつまらない漫才に付き合う義理はない。

「いやいや、あることしか言ってませんし、ディスるなんてそんな命知らずなことできませーーえっ!?」

「そうそう!俺たちはありのままの事実を述べてるだけであって、本気でお前のことを心配しーーえっ!?」

 山崎と藤本が台詞の途中で、口をパカンと開けたまま固まった。ははっ、へーんな顔!

「……え、今。先輩、なんて」

「……そそそそ、空耳か?幻聴か?え、ザキヤマちゃん何か聞こえた?俺だけか?今、川村がなんかあり得ないことを言ったような」

「だーかーら!私の彼氏こと志島くんの悪口言うなって言ってんの!志島くんの彼女であるわたくし川村を前にして!いい度胸だな、全く!」

 さっきよりも大きくフンっと鼻を鳴らす。
 山崎と藤本は目を超高速でパシパシさせて、歯をカチカチと鳴らし、身体をがくがくを震わせ始めた。
 ぷぷっ、さっき以上にへーんな顔!

「かかかかか、彼女?彼女って、へい!そこのかーのじょ♡の彼女と同じ意味の」

「違います」

「sheを和訳すると」

「違います。そんな他人行儀じゃなくて、もっともっと親密で濃厚で愛し愛されてる関係の、そういう意味の彼・女!」

「い、いやいやそんな訳……え、ええ?ま、マママママジ?」

 動揺を隠しきれない二人に向かって、どんっと仁王立ちする。これでトドメだ。

「マジ。大マジ。ていうかいい機会だから訂正させてもらうけど、志島くんは前科持ちでも元反社会的勢力でも現社会的勢力でも、人の成りをした怪物でも鬼でもモンスターでも死神でもなんでもなくて。ごくごく一般的な、ごくごく普通のどこにでもいる、ちょーっとだけ見た目の怖い、でも誰よりも優しい、でもって誰よりも私のことが大好きで私のことを大事にしてくれる、私の大好きな大好きな彼氏なんですぅー!!金輪際ホラ吹いてまわるじゃねえぞわかったか、ゴルア!!」

 最後勢いに任せて凄んでみたら、山崎と藤本は大袈裟な位肩をビクビクっと震わせて、「ははあーー」とその場に手をついた。

 なんか悪代官征伐する時代劇みたいになっちゃったな。はぁ、スッキリしたー!

「あ、志島くん!」

 丁度その時、志島くんが廊下の奥にある階段を上ってくるのが見え、おおーいこちら川村でーすと手を振った。もちろん私のことが大好きな私の彼氏である志島くんはすぐ気付いてくれ、一直線に私の前まで来てくれた。最後、「うぎゃっ」と足元で藤本の断末魔が聞こえたような気がするけど、どうでもいいから放置放置!
 
「か……お……だ……」

 目の前に来てくれたはいいけど、志島くんは顔を伏せたまま私の方を見てはくれない。ついでに、何言ってるかもよくわかんない。

「おはよう!全然大丈夫だよ、モーマンタイ!」

 私がニッコニコの笑顔でそう言うと、志島くんはちらっと目線を上げ、少しだけホッとした顔をして、また顔を伏せてしまった。

 それを見た山崎が足元で「ひ、ひぇぇ」と小さく悲鳴をあげたような気がしたけど、どうでもいいから放置放置!

 ちなみにさっき志島くんは、『川村おはよう。身体はだいじょうぶか?』と言っていたのだ。素人には、最後の力を振り絞って死ぬ直前に大切な人へメッセージを伝えていたようにしか聞こえなかっただろうけど、そこはしじ検一級(昨日昇段した)の私。志島くんの言いたいことなど、実際に言葉にしなくたって分かってしまうのである。ふふん。

 そして今、山崎や藤本には志島くんが怒ってるように見えるんだろう。けど実際は全然違う。

 志島くん、今めっちゃめちゃ照れてるから。

 初エッチして祝・脱童貞した次の日。生まれて初めてできた大好きな彼女を目の前にしてどう接していいのかわかんなくって、恥ずかしすぎて私の顔が見れなくって。さらには、顔どころか耳や首まで真っ赤になってる自分を見られたくなくって、でも私と一緒にいられるのが嬉しくって。

 とにかく、照れに照れていて、こんな感じになっているのだ。ふふ、かーわい。

「という訳だから」

 足元に転がっている藤本を跨いで、志島くんの横に立ち、志島くんのぶっとい腕に手を絡ませる。そんな私の行動に、藤本と山崎どころか志島くんまで、驚きすぎて固まってしまった。
 あっやば。中身純情女子中学生の志島くんには、ちょっと刺激が強すぎたかな?

 まあ、いっか!



 今日は火曜日。明日は水曜日。月曜日はまだまだ遠い。
 でも、そんなのもう私には、私達には関係ない。

「ねえ、志島くん」

 腕を組んだまま名前を呼ぶと、志島くんは油が足りに足りないカラクリ人形のようにぎこちなく私の方に顔を向け、「なんだ?」と人間の出せ得る一番低い声を発した。

「実は今、白髪を発見してしまいまして。しかも二本。それに、そろそろ右耳も良い感じに蓄えられて大物が掘り出せそうな気がするんだよね。だからー」

「今日、またうちに来ない?」そうニッコリ笑顔で誘ってみる。

 志島くんは、好きな男の子と隣の席になって嬉しいんだけどそれが表に出ないよう必死に我慢して、でもやっぱり嬉しいのが漏れ出ちゃってる女子中学生のようにピンク色に頬を染めて。

「おう」とはっきり言ってくれた。


 志島くん、だーいすき。



 【これで完結となります。最後までお付き合い頂きありがとうございました!】
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感想 6

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みんなの感想(6件)

べるでん
2020.01.20 べるでん
ネタバレ含む
2020.01.20 遙くるみ

さすが川村さん!!べるでんさん、最後までお付き合い頂きありがとうございました!HOTランキングに入れたのはべるでんさんのおかげです〜!

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べるでん
2020.01.18 べるでん

志島くん比喩表現、好き(笑)何パターン出てきたかな?くるみ先生の引き出しの多さ、懐の深さよ……シミジミ

2020.01.19 遙くるみ

川村さんもね!面白い比喩考えるの好きー^ ^それを面白いって思ってもらえると嬉しい!

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べるでん
2020.01.17 べるでん
ネタバレ含む
2020.01.17 遙くるみ

超大物とか羨ましいですよねー!
あのスッキリ感!\(//∇//)\

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