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18 父親と息子
しおりを挟むーーーガタガタ・・・
帰りの馬車に中では流石にギルベルトも何もして来なかった。
「そう言えば、ヴィルヘルム様って女性嫌いなんですか?」
「・・・君には話しておかなければならないな。ーーアレが女性嫌いになったのはアレを産んだ女の所為だ。」
「あ、1年間だけ結婚されていたかたですよね?」
「主。エミリヤ様に嫌われますよ?」
エミリヤが言った発言に馬車内の空気が凍りついた。何か良くない発言だったのかおろおろとエミリヤがしているとスチュアートがギルベルトを諌めた。
「ーーっっ!?エミリヤっっっ君を怖がらせるつもりは無かったのだ!!許して貰えまいか・・・?」
「私も何か気に障る事を言ってしまったのでしょう?お気になさらずお話の続きお聞かせ下さい。」
「分かった。ーー私は、君に逢うずっと前は辺境伯だった。その近くの修道院に品性下劣で阿婆擦れの伯爵の次女が、その父親によって馬車で送られる最中逃走した。そしてその女は辺境伯だった私に目を付けていたらしく、事前に調べていたのか城に忍び込み私の寝所の開いた窓から睡眠香を焚き入れた。」
ギルベルトは虚な目で何もない空間を見るとも無く見ながら話を続ける。
「そしてちょっとやそっとの事では起きない程に深く眠らされた私は女に襲われた。朝騒がしい声に目覚めた時は、知らない裸の女が私兵に拘束されていた。自分の身体を見て何が起きたのか分かった。私はこの世界で姫様にいつか逢えると信じてずっと妻は娶らなかったのに、その女の所為で汚れてしまった事に殺意が止められなかった。だが執事や兵士に止められてしまった。」
スチュアートも黙って聞いている。
「その時出来たのがヴィルヘルム様なのですね?」
「そうだ。伯爵に娘が犯罪を犯した事を公にしない代わりに誓約をいくつも設けた。子供が出来ていようがいまいが婚姻期間は1年で即離縁する事、女はその後修道院にすぐに入る事とかだな。女には一度もヴィルヘルムを抱かせなかった。あの女が触ってしまったらそれこそ息子を消してしまいそうな自分がいたからだ。酷い親だろう?」
エミリヤは目を閉じ首を振った。
「ーーそれは仕方のない事だと思います。分かっていても道理じゃ割り切れない事ってありますからね。ちゃんとヴィルヘルム様に悪いと思っているなら心の燻っている部分は解決できますよ。私も出来る限りのお手伝いはしますから!」
「ありがとう・・・。エミリヤ」
「ヴィルヘルム様は自身の出自を他所で知って出来上がったのが『冷笑伯爵』です。そして今の『冷血伯爵』と呼ばれ始めたのが女が修道院を逃げ出したのですが、それを捜し出した様で・・・。まぁ見に行った先で見たくないものを見たんでしょうね。私が調べた時はならず者の愛人でしたから」
スチュアートが残りの説明を続けた。
「(ヴィルヘルム様お母様の温もりも知らずに育ったんだ・・・犯罪によって産まれた上に、多感な時期に女性が他の男と交わる性的な光景を見てしまったら確かに女性に潔癖な性格になるかも・・・でもこのまま放っておいても治らないよね・・・生き辛いだろうし・・・少しずつ女性に慣れて貰うためにも私がヴィルヘルム様の母親になれるといいな)」
お互い様々な事を知った湖のお出かけが終わった。
♢♢♢♢♢♢♢
エミリヤは新しい香水を作ったのでプレゼントとその感想を聞きたくて、公爵邸に足を運んだ。
「これ、いつもお世話になっているギルベルト様に。気に入ってくださると嬉しいんですが・・・。」
ギルベルトは手首に香水をかけ擦り合わせ嗅ぐとエミリヤを呼び手首を近付けた。エミリヤはギルベルトに使ったらどんな香りになるのか気になっていたので、遠慮なく近付く。嗅ごうとした瞬間には1人がけソファーに座るギルベルトに引き込まれていた。
「全く・・・、君は油断しすぎだ。こんな事ではいつ暗がりに連れ込まれるか分かったものでは無いな。一人で出かけるのは許さんからな。一人で出掛ける時は報告しなさい。」
「・・・一緒に出掛けてくれるなら喜んで報告します・・・」
「ーーっ、・・・あんまり歳上を揶揄うものでは無いよ」
エミリヤがプレゼントした香水は前世で最後嗅いだ香りになっており、ギルベルトの腕の中でその香りを満喫している。ギルベルトの胸に手を置き頬を擦り寄せ、至福の刻を味わっていた。
ーーーコンコンコン
「ヴィルヘルム様がお戻りです」
外から聞こえたのはスチュアートの声であった。今日は帰りが遅いはずであったのに余りにも早い帰宅に、スチュアートは慌てた様子でいつもと違い早口だ。もしかしてこっちに来ているのかも知れないと感じ取ったエミリヤは急いでギルベルトから離れた瞬間ドアが開いた。
「・・・父上、婚約者殿。いくら私の婚約者だからといって密室に2人だけなど貴族にあるまじき行いですよ。それともお二人は父上に取り入って私を廃嫡にする算段でもしているのですか?ーーまぁ、どちらにとっても私は邪魔でしょうからね。」
部屋から出て行こうとするヴィルヘルムをエミリヤが呼び止め、急いで駆け寄った。
「ーーあのっ、これヴィルヘルム様にあった香水を作ってみたので宜しかったら使って下さいませんか?」
振り返り闇を含んだ虚な目を向けてきた。今まで見たことのないヴィルヘルムにエミリヤは思わず息を呑む。ヴィルヘルムは香水を受け取ったが、虚な目で香水をつまみ上げて眺めている。
「へぇ・・・。ーーそうやって父上をたらし込み、今度は私をもたらし込むつもりだったのか・・・?婚約者殿は本当は処女では無いのでは無いのか?」
ヴィルヘルムに酷薄な笑みを向けられたじろぐ。逃がすまいとエミリヤの腕を掴んで絨毯に押し倒し馬乗りになった。ドアの近くでスチュアートがエミリヤの後ろでギルベルトがピリッとした空気を出した。確かに貴族の女性は初夜翌日、破瓜の血を第三者が確認する程には重きを置かれている。
「父上?父上は私を産んだ女の様な阿婆擦れ殺したいほどお嫌いでしたよね?この女も淑女の顔した阿婆擦れかも知れませんよ。血ぐらい細工は出来ますからね。折角ですから今、膜があるかどうか調べましょう。良いですよね?父上。」
何でも無い事の様に平然とヴィルヘルムはエミリヤの上に跨ったままギルベルトに問う。
「彼女は子爵令嬢だ。その様な非道な真似許されん。」
「でも、それではこの女が処女かどうか解りませんよ?あの女の様に他の男のモノを咥えさせている可能性は十分考えられますよね?父上はこの女が他の男と関係を持っていても問題ないとおっしゃるんですか?」
「良いからお前はエミリヤ嬢の上から退くんだ。」
「別に調べる位良いでは無いですか。この女はどの道、公爵夫人の座を手に入れるんですから男3人に調べられる位問題ないでしょう」
「あの!!ヴィルヘルム様さっきから聞いていましたら酷くないですか!?女性が嫌いな事は分かりましたけど、男3人に調べられる位って・・・じゃあっヴィルヘルム様は上の職に就くために必要だからって女3人に調べられても良いんですね?」
「良いに決まっているだろう。それが必要ならば無論受け入れる」
ヴィルヘルムに上に座られある事ない事言われているのに腹が立ったエミリヤが言い返す。
「ふははっっ!!そうだな・・・公爵位を継ぐのだからお前の生殖器が不能では困るから、スチュアート不能かどうか調べさせる女性3人を連れて来いっっ!!すぐにコイツの生殖機能を調べさせるっ!!」
「ーー承知しました」
ギルベルトの空気がビリビリとする様な怒気を含んだ声でスチュアートに命令する。この屋敷にはギルベルトもヴィルヘルムも女性不信な為侍女が一切いない。どうしても必要な時は分家の侍女頭が推薦する者を必要な時間のみ借り受ける。それ故、スチュアートが連れて来るのはヴィルヘルムの知らない女達である可能性が高い。
スチュアートが部屋を出て行こうとするとヴィルヘルムが慌てた声を上げる。
「っっ父上!?そんな事をせずとも問題なく働きます!!それにこの女とは子供を作りませんから!!問題ありませんっっ!!」
「(慌ててるな~。そりゃ蛇蝎の如く嫌っている女性に性器触られるんだもんね。口では出来るって言ったけど絶対無理でしょ・・・。いらん事出来るとか言わなきゃ良いのに・・・。)」
「ほう・・・。確か以前も言っていたな?次の後継は養子を取れと。ーーわかった・・・後継は私が用意する。それでお前もエミリヤ嬢も良いな?後日誓約書に2人共署名する様に。」
「はっはいっっ!!ありがとうございます父上っ!!」
ギルベルトが自分の意思を汲んでくれたのだと、ヴィルヘルムは喜んでいる様である。
スチュアートとエミリヤはそんなヴィルヘルムに対して何だかなーと思いながら、エミリヤを起こしもせず去って行くヴィルヘルムの姿を見送った。
ギルベルトはというとエミリヤに手を差し伸べ優しい笑みを向けていた。
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