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19 式場の下見
しおりを挟む後日エミリヤは公爵邸で誓約書の署名を行った。
「(なんか読んでるとすごいな~・・・えーと・・・私とヴィルヘルムが婚姻後性行為を行わない事とギルベルト様が用意した後継のみ、イグリール公爵家の相続権がある事。2人が他所で子供を作っても公爵家には入れないって事ね。後は間違いがない様に部屋は別々なのね。子供作るつもりも無い相手と一緒に寝る必要性無いしね。)」
問題なく書き終えるとスチュアートに渡しギルベルトが受け取った。同じ様にヴィルヘルムも署名をしギルベルトに渡した。
「最後に書いているが、これを破った場合は籍を抜けてもらう。2人共守れる程度の内容だから構わんだろう?」
エミリヤもヴィルヘルムも受け入れた。
「もう半月後ですからね。あっという間です。」
スチュアートが微妙な空気を緩和させる様に話題を変えた。
「その半月も無いのに子供を産むだの産まないだの言って揉めていたのだから笑えんがな」
ギルベルトは無表情で書類の確認をしながらスチュアートに返した。その発言で再び空気が澱んだのは言うまでも無い。
「もう良いでは無いですかっ!先程の誓約で解決しましたでしょ?」
「ーーそうだな。悪かった。」
ヴィルヘルムにとって絶対的な父親に対して物怖じせずはっきり伝える婚約者に対して、父親が素直に謝っている事にヴィルヘルムは内心大きな衝撃を受けていた。笑って返している自身の婚約者と父親が羨ましかった。父親は再婚する様子が無い事と女性の影が無かった事でヴィルヘルムは父親も自身と同じく、女性不信なのだろうと思っていたのに子爵令嬢が家に来る様になって変わったのが分かった。
1人取り残された寂しさにヴィルヘルムは闇の中に一人でいる様な孤独感に襲われていた。
エミリヤとギルベルトは教会の下見に行く約束があったが、少し用事でギルベルトが出掛ける事になった。
「すまないエミリヤ嬢・・・。また今度でも良いだろうか?」
「いえそれは構いませんが、公爵様は式前後お忙しいですよね?・・・そうだ!!ヴィルヘルム様に行ってもらいましょう!!婚約者なのですからそれ位は行ってくれますよね?」
自分に振られると思っていなかったヴィルヘルムは目を見開き固まっていた。
「いや、自分はこれから部屋で仕事を・・・」
「ヴィルヘルム様、もし来た後継の方がヴィルヘルム様の様に女性を嫌ってドレスや宝飾品も一緒に選ばない式や婚姻後の打ち合わせもしないってなって、もし奥方がいなかった場合公爵の仕事も式の事も全部ヴィルヘルム様がやるんですよ?」
「ーーっぐ・・・」
「そうですね、後継の方がヴィルヘルム様もそうだったのだから良いだろうと思う可能性は十分あり得ますね。それにヴィルヘルム様はエミリヤ様との結婚生活も長く続かない可能性も高いので奥方様が居ない場合も十分あり得ますね。ーー頑張ってくださいね」
しれっとスチュアートは話にさらっと混ざって毒を吐いてきた。スチュアートって良く公爵家の侍従として雇ってもらえたなぁ・・・とエミリヤは呆れて見ている。
「・・・分かりました。・・・行きますよ。婚約者殿さっさと見て帰りますから」
どうやら渋々でも婚約者としての役目を果たす事にエミリヤは安堵した。ギルベルトとスチュアートを見送ってから、早速式を上げる予定の教会に馬車で向かった。
ーーガラガラ・・・
「そういえば、屋敷を出る前のスチュアートさん面白かったですね~?『エスコート位今の伯爵の爵位を賜っているならできて当然ですからね?公爵様に恥をかかせない様にして下さいね』ってあの人ずっとあんな感じなんですか?」
「・・・・・・。」
「スチュアートさんって辺境伯の時から仕えていらっしゃるんですかね?毎回びっくりする程の発言してくるからこの人公爵様の親戚なのかなと勘繰った程です!ですが全く見た目も雰囲気も違いますし・・・毎回公爵様に聞こうと思いながら間を逃すんですよ。今度こそ聞きませんと気になって夜も眠れなくなりそうです!!」
「・・・・・・。」
「ヴィルヘルム様は伯爵位既に賜っているって凄いですね~・・・?うーん・・・ヴィルヘルム様は私の事お嫌いですか?」
「・・・貴女だって私の事が嫌いなのだろう?同じ事だ」
ヴィルヘルムに言われてエミリヤは目を丸くした。
「え?別に嫌いじゃ無いですよ??私嫌いって言いましたかしら?」
その言葉に今度はヴィルヘルムが目を丸くする番となった。
「・・・嘘でしょう?私は貴女と結婚しても抱かない事や・・・つい最近もその・・・阿婆擦れ呼ばわりした上に父上やスチュアートの前で処女であるか確認しようとした事と押し倒して馬乗りになったり・・・。嫌われる事しか今のところやっていない事だけは理解しています。流石に謝って許されない事をしました・・・。・・・流石にやり過ぎたと反省しております・・・」
向かい側に座るエミリヤに向かって姿勢を正し頭を下げた。
「いっいえっ!!気付いて頂けたのなら十分です!!」
頭を下げるヴィルヘルムに困って外を見ると目的地の教会が見えて来た。
「ヴィルヘルム様っ!!見てくださいっっ教会ってあれですよね!?凄く綺麗・・・」
ヴィルヘルムとエミリヤは教会に着くまで馬車の窓から見える教会を黙って眺めていた。
教会に着くと聖職者に案内され中を2人で見て回る。もう少し見て回る事を聖職者に伝えると帰る時に声を掛けて下さいと言って外へ行った。大きく美しいステンドグラスは外の明るさで色が鮮やかであり、壁画は横の壁や天井にも事細かに描かれている。祭壇の奥にはこの世界の美しい女神像が祀られている。
「ステンドグラス素敵ですねー・・・夢の中にいる様です・・・」
「・・・来た事は無かったのか?」
「んー無いですね。ずっと引きこもって香水調合や衣服開発していましたから」
「ここの教会は王国一美しいと言われている教会なんだ。王都に住んでいて見ないのは勿体ないだろ?」
「そうですね!!損してましたっっ!!この機会逃したら見なかったかも知れないですね~」
「何故だ?見に来れる距離だぞ?」
「うー・・・私ずっとお見合い無視してましたら、お父様に舞踏会で婚約者絶対見つける様に言われてて・・・恐らく見つけなかった場合はお父様は領地に戻って周辺で探そうと思っていた筈です。お母様が領地に身体の具合が悪くて静養に帰っているんです。お父様はお母様の事大好きなんですが、どうもお母様は王都で婚約者を見つけて欲しかったらしくお父様は私の婚約者が決まらない事が心の負担に・・・」
「ーーそこで父上に目をつけたのか?」
急にヴィルヘルムの声が低くなる。
「いえ、舞踏会はデビュタントだったのですが・・・そこで婚約者探しをサボろうと思った罰なのかも知れません・・・。しばらく会場を出て終わり頃に戻れば良いやと廊下を歩いていたら招待客と思われる男性に庭園を案内すると言われついて行きました。」
「君は阿呆なのかっっ!?男が女性1人を庭園に連れて行くなんか女を襲う恰好の口実じゃ無いか!!女性に夜会で声をかけた事無い私ですら知っているというのに!!子爵は娘に何も注意しなかったのか!?」
「うぅ・・・色々言われたと思うんですが・・・興味がなくて・・・。」
「・・・信じられない・・・。君は自分の顔を鏡で見た事は無いのか!?君の様な儚い妖精にも見える無知な御令嬢は間違いなく狙われるに決まっているだろっっ!!毎日懇々と男は狼だと伝えても少ないくらいだ!!」
何故かエミリヤの脇の甘さを兄の様に叱ってくるヴィルヘルムに、エミリヤは距離が近付いた気がして嬉しくなった。
「妖精ですか?嬉しいですけど皆様お綺麗ですから霞みますけどね。ヴィルヘルム様の方が容姿整ってますよね?」
「やはり鏡が呪われて・・・。ん?私は人と距離を取りたいから余り嬉しく無いんだがな・・・。それでどうやったら男について行ったら何故父上に会う事になる?」
「(あの時点で阿呆って言われてこの後言いづらいなぁ・・・)・・・その招待客の休憩室に騙されて連れ込まれベッドに押し倒されドレスを脱がされて下着姿の所、公爵様がテラスから入ってこられ助けて頂きました。後少し遅れていたらその男と一緒にならなければなりませんでしたから、公爵様には感謝してもしきれません・・・」
「そんな危うい状態にか!?ーー助かったから良かったものの、君は本当に抜けているというかなんと言うか・・・」
「うぅ・・・反論しようの無い所がツライ・・・」
「・・・貴女とは契約上だけの夫婦関係にはなるが、貴女に何かあったら公爵家の品位に関わる。」
「はぁ、そうですね?」
ヴィルヘルムは咳払いをして壁画に顔を向けている。
「・・・つっ、つまりっ・・・その、だな・・・父上が同行出来ない様な時は私を頼ると良い」
後半は聞き取り辛い程小さい声であった。エミリヤの角度から見えるヴィルヘルムの耳はほんのり赤くなっている。言い慣れない事を言って照れるヴィルヘルムの可愛い一面に頬が緩んでいた。
「分かりましたっ!!では、これからは婚約者様をばんばん頼りにさせて頂きますわね!!」
「待てっっ!!遠慮なく呼ばれては困るっっ!!」
「ーー公爵様に無理をさせる気ですか!?」
「・・・それは・・・」
「よろしくお願いしますわね?婚約者様!!」
最初は無機質な表情だったヴィルヘルムもエミリヤとの会話で少し打ち解け、口元が笑っているのがエミリヤにも見えて満足な教会の下見となった。
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