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22 思い出せない悪夢(ヴィルヘルム視点)
しおりを挟む仕事の用事で自宅に戻った際自身の婚約者を抱き抱え、談話室から出てくる父親を目撃してしまったヴィルヘルムは職場に戻った後も気もそぞろであった。
「(ーー彼女と父上は距離が近くはないか!?父上も父上だ!!嫁入り前の淑女を抱き抱える等っっっ!!彼女は私の婚約者だと言うのに・・・。ーーそうか彼女はきっと私が相手をしないから女として扱ってくれる父上に甘えているのか。・・・・・・。ふんっ、やはりふしだらな女だ。騙される所であったな!早く離縁に追い込んでやらねばな!!)」
同僚達は外に出る前と戻った後で雰囲気が全く異なる様子に戸惑っていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
市中が見える城にある塔の屋上にいるまだ年若い男。
そこから見える風景は昨日までの穏やかさは打って変わり、至る所で煙や火が上がっている。逃げる民の泣き叫ぶ声や武器を持って声を上げる者達、応戦している兵士達の剣がぶつかる金属音。それらが合わさり大きな騒音となって王都を呑み込んでいる。
「・・・間に合わなかったのだな・・・」
男が小さく呟いた。男は臣下や民から冷酷王と揶揄される程情のない王であった。前王が10年前に亡くなったのだが息子であるこの男に処刑された。前王は特定の貴族に優遇し見返りを貰っていた事に気が付いた男が法で裁いた。王を裁くなどあり得ないが彼は民を誘導して王に裁判を受けさせた。
この位の罪ならば息子に王位を継がせ早々に引退させる事すら大きな罰であるのにーー死罪にした。
この男は罪に温情は一切与えず、過剰な罰を科した。りんご一個盗んだ子供に対して事情も考慮せず100叩き、大人の場合は片腕を落とした。兵士が街を巡回しており民は震え上がり王都は人がいないかの様に静かになった。多くの国民や臣下は不正を許しても前の王の方が良かったと嘆いた。
その日々に終わりを告げたのは3年前に隣国からお姫様が嫁いで来てからだった。
男の屈折した正義に対して女は何がいけないのか分かるようにずっと付き合った。それから男は自分の過ちに気付き、女と共に民の為の政策を行う様になった。
「ーー陛下は私が嫁いで来てから人が変わった様に民の為に、尽くされました事私はちゃんと見ておりましたわ・・・。私以外にも少なからず気付いた者もおりました。陛下は誇り高き国王にございます。最後までご自分を信じて下さいませ」
いつの間にか男の後ろにはふわふわしたブロンド色の髪の美しい女性が立っていた。
「お前も来たのか・・・。」
「はい、しっかりとこの国を目に焼き付けようと思いましたの」
男はため息を吐き、女に手を差し伸べた。その手を取った女は男の側による。
「ーー貴女には申し訳ない事をした。嫁いで数年で私と共に命を散らす事になるとは・・・。」
「私の方こそ申し訳ないと思っております・・・。協定を結んだにも関わらず、内乱が起き援軍の求めには一切応じない祖国・・・。私が少しでもあの方達から愛されていれば、利益が無かろうが援軍を出してくれたでしょうに・・・結局本当に愛されていなかった事だけが証明されましたわね」
女は困った様に笑った。
「・・・貴女だけでも逃げてくれまいか?貴女は祖国に心を預けた者がいるのだろう?その者ならばきっと貴女を匿ってくれるであろう」
男が横にいる女に向けた顔は苦しそうで泣きそうな表情だった。
「私はこちらに嫁いだ身。他所の男の助けを乞いません。」
強い瞳ではっきりと言い切った女に、男は安堵や困惑覚悟が入り混じった様な複雑な表情で女を見つめる。
「ーーそうか」
「ーーはい。そうにございます」
女と繋いだ手に力が篭る。
その後、男と女は城にまで来た反乱民の攻勢によって2人は城内で離れ離れになり、最後はお互い別の場所で最期を遂げた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
ーーコンコンコン
「ヴィルヘルム様朝にございます」
ヴィルヘルムは男の声に目を覚ました。
「(なんの夢を見ていたんだ・・・?思い出せないが嫌な夢だった・・・。ん?・・・泣いていたのか?)」
顔を触ると目尻から後ろに向かって濡れていた。クッションを見ると汗と涙で湿気っている。身体中汗をかいており気持ちが悪い。
「(一体なんなんだ・・・。結婚が精神に負担を掛けているのか?)」
ヴィルヘルムの思い違いは正されぬままであった。
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