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第2章 魔王と聖女
27 Vシネマなギルド長に絡まれて・・・
しおりを挟む受付のギルド職員も女性を残して奥の部屋に入り、ギルド長が下りてきたので掲示板を見ていた冒険者数人も巻き込まれまいとそそくさと出て行った。残ったギルド職員の女性も古そうな書類の整理を始めだし完全無視を決め込んでいる。
んん??・・・もしかしてまともに見える奴は大抵この世界ではヤバい奴ってのがまさかここのギルド長も当てはまっているとか・・・?ーーそんな事は・・・無いよね??ただの冒険者ギルド長らしいギルド長ってだけだよね??
「カックスギルド長はここの冒険者ギルド長のお友達なんですかぁ?」
「そうですね、お友達ですね。ロディさんとはとっても仲が良いんですよ」
ロベルトだからロディか・・・。ロディという呼び方をする程可愛さは微塵も無い。
先程ベンツァーギルド長が入って行った一瞬奥の部屋から「クソがぁぁぁっっっ!!!」という怒声と悲鳴、破壊音が聴こえた気がしたが気のせいだろう。
カックスギルド長も含めて全員の反応ないしな。
ガン無視じゃなければ幻聴で間違いない。この世界に耳鼻科あんのかな?
鑑定は解体をしていないので解体した後に一つ一つ鑑定を行うらしい。
一纏めに鑑定って出来ないんだ・・・。
鑑定が終わるまでみんなでテーブルで町で何を買う必要があるかとか、王都はどんな所か他の国に行った事あるのかなんかをダラダラと話す。カックスギルド長は商業ギルド長なので仕事柄王都や他国にも行く事が多いらしく、待ち時間に色んな話が聞けた。
「「「ーーっっ!?!?」」」
この町の名産をみんなに聞いていると奥のドアが開いて、大変不機嫌なベンツァーギルド長が手についた血を布で拭き取りながら現れた。
布は既に真っ赤である。
顔や服にも大量の血が付いていて部屋の中で何か血生臭い事件が起こっていたのでは無いかと感じさせるほど、不機嫌なイカついギルド長と血を合わせると大変危険な絵面であった。
ナマハゲ見て泣く子は今のベンツァーギルド長見たら泡吹いて失神し、法律的に警察官が中々銃を構える事のない日本ですら彼が転移したら職質の前に銃を向けるだろう。そして某大国の警官なら間違いなく既に撃ってる。
それ位の危険な雰囲気が・・・あ、ヤバい目があった・・・。
「おぉい、セイ。いま目があったよなぁ~?何で目ぇ逸らしたぁ~?」
アクスが正統派ヤンキーならベンツァーギルド長は・・・ってやめておこう。うん。ーーそれより片手で強く鷲掴みにされてる両頬が痛いんですが・・・。
目を逸らした事によってセイは見事に血塗れのギルド長に絡まれる羽目になった。肩にイカつい腕を回されVシネマの俳優の演技の様に絡んでくる。
ミラはいつの間にか自分の膝に置いたお金の入った巾着を開き、催眠術でも受けているかの様にじっとお金を見つめ続け一切セイの方を見ようとしない。
アクスは話している最中はしていなかった魔法銃の手入れをしている。
カックスギルド長はベンツァーギルド長が持っていた買い取り明細を引ったくってじっくり読んでいる。
いざという時信じられるのは、やはり自分自身だけなのだとセイは改めて学んだ。
血塗れのベンツァーギルド長がセイの肩を抱いたまま、セイのこめかみに頭をごりごりと擦り付け凄みセイは石像の様に微動だにしない。
ただただ災いが過ぎ去るのを心の中で六根清浄、六根清浄と唱えながら待つ。
テーブルの上のシロはガタガタ、ぱかんぱかんと口を開閉し威嚇している。
セイは1匹健気に自分を守ってくれようとしている姿に心で泣いた。
いや、号泣した。
「んー、5体中々手に入らない魔飛竜を納品したのですから、もう少し色が欲しいですねぇ」
「あ゛あ゛ぁん?」
セイのこめかみに擦り付けていた頭だけを離し、ベンツァーギルド長は下顎を前に突き出し顎を上げぐるりと顔をカックスギルド長に向け睨みつけた。
「5体の魔飛竜、他に流しちゃいますよ?そうですねぇ~やはり商業ギルドに異素材として買い取って貰いましょう!私がいれば商業ギルドに登録していなくても買い取って貰えますから」
「え?魔物って商業ギルドでも買い取って貰えるんですか!?」
セイはゲームやアニメで冒険者ギルドはなんとなく知っていたが、商業ギルドも魔物を買い取ってくれるという新事実に前のめりでカックスギルド長に尋ねる。
「セイさんは冒険者になって日が浅いんでしたね?そうなんですよ。商業ギルドでも魔物素材の買取りは出来るんです。ただ、商業ギルドに登録するか手数料払えばという事になりますが。」
「はいはいはいーーーっっ!!!師匠っっ!!どっちの方が高く買い取ってくれるんですかぁ!?」
催眠術から覚醒したらしいミラも金の話に餌を前にしたピラニアの様に勢いよく食いついて来た。師匠って・・・あぁー、金に関しては確かにミラにとっては師匠で間違いないな。ーーけど、お前弟子じゃないだろ。
「そうですねー、通常ダンジョンに現れる魔物の素材でしたら冒険者ギルドの方が高いと思いますよ?商業ギルドが求めているのは特殊な素材という事です。例えば魔飛竜の牙ですが、冒険者ギルドではダンジョンでほとんど出る事がないために買取価格が設定されていません。ーーですので同じレベルのトォーカメの手等と近い金額で取引されます。しかし、魔飛竜の牙は特殊な魔道具を作る為に微量ですが使いますので3倍程度跳ね上がります。需要が見極められる様になれば商業ギルドと取引きすると良いでしょうね」
「そんなぁぁぁーーーーっっっ!!今まで知らなかったなんてぇっっ」
「他の冒険者と話しなんざする事無かったから俺も知らなかったな・・・」
頭を掻きむしりながらテーブルに頭を乗せて涙を流しているミラと、どこか遠くに見つめ哀愁を漂わせるアクスがカックスギルド長の話に反応していた。
成る程、リサイクルショップと骨董屋・マニア向け商品買取店で同じ物でも売れる金額が異なるからな。例えば印刷ミスした千円を銀行に持って行って替えてもらったら勿論同額の千円。
けれど古銭買取店に行けば1万円やそれ以上になったりする。カックスギルド長が言っているのはそういう事だ。
しかし、まさかそこまで買取価格が違うとは・・・。商業ギルドにも登録しようかな?
「くそったれが!!!テメェがいるからこっちは普段より多く見積もってやってんだぞ!!!この冒険者ギルドを潰す気か!?ドタマかち割るぞワレッッ!!」
「ーーそうですか・・・これはお話しようか迷っていたのですが、8日前の雨の降る夜の事です。私はたまたまヴァイ町の商業ギルドに用事があったのでヴァイ町にいました。」
「あぁ?なんだ急に」
「用事が終わって帰ろうという時になって雨足が強くなり、急遽宿を取ることにしました。よく使う宿は急な雨で満室になっていて、この町で高い宿しか無かったので泣く泣くそちらに。」
「『宵月の宿』の事ですよね?通りから外れて奥に建っているのに何故か高いんですよね」
先程まで空気と化していた受付の女性職員も加わった。
同時にベンツァーギルド長の顔色がみるみる内に変わっていく。
「初めて行ったのですがその宿で何故か、このギルドの裏がご自宅のロディ・・・ベンツァーギルド長がいらっしゃったんです。大雨に降られて布を頭から被っていたので、ベンツァーギルド長は私には気づかなかった様でした」
「親戚でも来てて家に泊まらせられなかったからとかか?」
「なんでそんなもったいない事を・・・私なら親戚床に寝かせるのに」
アクスもミラも首を傾げ質問をする。
「私も最初は家に帰られない事情でもあるのかと思っていました。しかし、特に行事の無い休日にしてはやたら宿に人が多かったのです。」
「高級宿なんですよね??」
「いえ、高級宿というより立地条件が悪く、部屋も普通なのに無意味に料金が高い宿なんです。私は宿泊された冒険者さんに感想聞いた事があるんですけど、食事も他の宿と大差ない位に普通らしいですよ?冒険者さん無駄金使ったと悔しがっていましたね。それに、この町は行事がなければ急な雨に降られても『宵月の宿』に泊まるまでの人数が訪れませんから」
「確かに不自然ですね?」
ベンツァーギルド長が降りて来た時は無視を決め込んでいた女性職員は、俺の疑問に丁寧に答えてくれる。やはりインス町のギルドと違って俺達を嫌がらせで無視していた訳ではなかった様だ。まぁ、このギルド長に関わるのはやはり嫌だろうなとは思う。存在自体がパワハラみたいなもんだもんな・・・。
「待て、待てっっ!!カックス話し合おう!!」
「え?ここからが盛り上がる所ですよ?皆さんも気になっているんですから、このまま結末言わなければ眠れませんよ。ーーそれで私は気になって夜中自分の部屋を抜け出してみると、宿泊客が宿屋の裏手にある大きな・・・んんぐっっ」
脂汗を滲ませ青い顔したベンツァーギルド長は咄嗟にカックスギルド長の口を塞いだ。
「アッアレ!?オッカシーナァー3割マシニナッテナイジャナイカー」
棒読みで買い取り明細を男性職員にバシバシ押し付ける。どうやら金額を変更させる様だ。男性職員も胡乱げな目をするものの、ベンツァーギルド長に睨まれると怯え明細書を持って引っ込んでいった。だから存在そのものがパワハラなんだからせめて行動ではパワハラすんなや。いつか全職員がストライキすんぞ。
「い゛でっ!!!」
「ーーげほっ!!私を殺して目撃者を始末するつもりだったんですか!?酷いですねロディは。学友でしたのにまさか殺人未遂まで犯すとは・・・。どなたか警邏隊を呼んでもらえますか?」
ベンツァーギルド長は腹を押さえている。カックスギルド長が肘で打った様だ。
「・・・今日の宿代は俺が払う・・・。」
「そこの職員さん早く呼んできてください。いくらギルド長仲間とは言え犯罪を許す様な温い関係ではギルドを任せられませんので」
「ーーーこの前貴族の依頼受けて高級酒が手に入った。それでもう勘弁してくれ・・・」
遂にイカつい歩くパワハラベンツァーギルド長が膝から崩れ落ち、カックスギルド長の足に縋りついた。なんかとてつも無く見たくなかった光景である。ここまで威厳失う事も厭わないって何を宿でやっていたんだよ・・・。
カックスギルド長は床に崩れ落ちているベンツァーギルド長の肩に手を置き、顔を上げたベンツァーギルド長に微笑む。
「ーーやはりロディは心優しいあの学生時代のままですね。私は嬉しいです。折角のご厚意ですから友として受け取らなければなりませんね。ありがとうございます。ロディの友情一生忘れませんから」
涙を拭う仕草をするが、どう見ても嘘泣きである。しかし、心が疲弊していたのかベンツァーギルド長は感謝しながら泣き出した。きっと学生時代もこうやって手のひらで遊ばれていたんだろう・・・。少し可哀想な気もするが、これで入りやすい・働きやすいギルドになってくれればと思う・・・。
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