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美坊主の悪あがき
4話
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(はて、テゴメって、なんだ?)
駄目で元々と口を動かしたが、「へもめ……」と唸った辺りで、口への圧迫が強まった。
痛い。
祝言を断られて面白くないのかもしれない。
でも、痛い目に遭わされるいわれはない。
不愉快を示すために、思いっきり眉を寄せる。
痛いし、重い。両の手で、口を押さえている深如の掌を引っぺがそうと試みた。
気持ちが伝わってか、深如は僅かに体を上げた。重みが少し和らぐ。
口元の圧迫も緩んだので、何のつもりかようやく文句をぶつけるつもりだった。
なのに今度は両の手を絡め取られて、深如の片腕で一括りに頭上で留められる。
「痛いよ。放して」
「大人しくしていれば、手荒な真似はしません」
右耳の側でくぐもった深如の声が聞こえる。既に多少なりとも痛い思いをしている。
なのに、手荒な真似をしないとのたまうのは怪しからん。
でも大人しくすればやめてくれるのかと、悠耶は力を抜いて静止した。
重なった体の隙間から、しゅ、しゅっと手際良く紐が引き抜かれる。
ぎょっとして目をやると、悠耶が先ほど借りて締めた帯が深如の手に握られていた。
「何すんのさ!?」
「静かになさい」
紐に引きずられて着物の合わせが大きくはだけた。白の襦袢が剥き出しになっている。
いつもは不精で身につけていないのに、今日は借りて着ていたのが幸いだ。
平生は男の形をしているし、他人前で肌を晒す振る舞いにも、悠耶はほぼ抵抗がない。
だから、別に何てこともない……ことはない。
脱ぐのと脱がされるのでは結構違った。
「嫌だよ、やめてよ!」
咄嗟に首を上げ、体を振った。
すると、逃れられるどころか胴の上の重みが増す。
腹の上に跨るように深如が座った。
同時に手の首を帯で纏められる。
「静かになさい」
刺すような鋭い囁きが耳に飛び込んだかと思うと、またしても口が塞がれる。
足だけばたつかせても、甲斐なく空を蹴るだけだ。
よくわからないが、苦しい。よくわからないが、只事ではない。
今日、浅草へは、悪戯犯を見つけるために、深如に頼まれてやって来た。
無事に事件も解決して、目的は果たされた。深如からこのような仕打ちを受ける覚えがない。
嫁にならないと断ったから、痛め付けようとするのか?
まさか殺すつもりではあるまい。それならばもっと早く一思いにできたはずだ。
気に入らぬから、貸し与えた着物を取り返すつもりなのか。それがテゴメか。
なんだか全くよくわからない。
だが、解せぬほどに、気味が悪い。
(うーーーーっ!)
苛々と気味悪さが募って、血流が頭と喉周りを上下する。
ろくな抵抗もできないうちに、腰から下の風通しが急に良くなる。
顔の上にも深如の上半身が迫る。
眼界は黄色い法衣の胸元で一杯だから、目では確認ができない。
だが腰巻きと襦袢が纏めて捲られた、との見当はつく。
元々悠耶には、物事を深く考える習慣がない。
だから、迷いと恐れと怒りのうち、感情は一気に怒りの方向へ振り切れた。
しかし、カッとなっても手も足も出ない。
駄目で元々と口を動かしたが、「へもめ……」と唸った辺りで、口への圧迫が強まった。
痛い。
祝言を断られて面白くないのかもしれない。
でも、痛い目に遭わされるいわれはない。
不愉快を示すために、思いっきり眉を寄せる。
痛いし、重い。両の手で、口を押さえている深如の掌を引っぺがそうと試みた。
気持ちが伝わってか、深如は僅かに体を上げた。重みが少し和らぐ。
口元の圧迫も緩んだので、何のつもりかようやく文句をぶつけるつもりだった。
なのに今度は両の手を絡め取られて、深如の片腕で一括りに頭上で留められる。
「痛いよ。放して」
「大人しくしていれば、手荒な真似はしません」
右耳の側でくぐもった深如の声が聞こえる。既に多少なりとも痛い思いをしている。
なのに、手荒な真似をしないとのたまうのは怪しからん。
でも大人しくすればやめてくれるのかと、悠耶は力を抜いて静止した。
重なった体の隙間から、しゅ、しゅっと手際良く紐が引き抜かれる。
ぎょっとして目をやると、悠耶が先ほど借りて締めた帯が深如の手に握られていた。
「何すんのさ!?」
「静かになさい」
紐に引きずられて着物の合わせが大きくはだけた。白の襦袢が剥き出しになっている。
いつもは不精で身につけていないのに、今日は借りて着ていたのが幸いだ。
平生は男の形をしているし、他人前で肌を晒す振る舞いにも、悠耶はほぼ抵抗がない。
だから、別に何てこともない……ことはない。
脱ぐのと脱がされるのでは結構違った。
「嫌だよ、やめてよ!」
咄嗟に首を上げ、体を振った。
すると、逃れられるどころか胴の上の重みが増す。
腹の上に跨るように深如が座った。
同時に手の首を帯で纏められる。
「静かになさい」
刺すような鋭い囁きが耳に飛び込んだかと思うと、またしても口が塞がれる。
足だけばたつかせても、甲斐なく空を蹴るだけだ。
よくわからないが、苦しい。よくわからないが、只事ではない。
今日、浅草へは、悪戯犯を見つけるために、深如に頼まれてやって来た。
無事に事件も解決して、目的は果たされた。深如からこのような仕打ちを受ける覚えがない。
嫁にならないと断ったから、痛め付けようとするのか?
まさか殺すつもりではあるまい。それならばもっと早く一思いにできたはずだ。
気に入らぬから、貸し与えた着物を取り返すつもりなのか。それがテゴメか。
なんだか全くよくわからない。
だが、解せぬほどに、気味が悪い。
(うーーーーっ!)
苛々と気味悪さが募って、血流が頭と喉周りを上下する。
ろくな抵抗もできないうちに、腰から下の風通しが急に良くなる。
顔の上にも深如の上半身が迫る。
眼界は黄色い法衣の胸元で一杯だから、目では確認ができない。
だが腰巻きと襦袢が纏めて捲られた、との見当はつく。
元々悠耶には、物事を深く考える習慣がない。
だから、迷いと恐れと怒りのうち、感情は一気に怒りの方向へ振り切れた。
しかし、カッとなっても手も足も出ない。
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