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舞踏会への招待状

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「団長の話通りだ。昼食を済ませたら、普段着に着替えて来なさい。1階のエントランスで落ち合おう」

「普段着、ですか?」

 オリヴィエは戸惑いながら尋ねた。

「今回は潜入捜査官のようなものだからね。ボッカと王都は随分離れているけど、目撃者がいないとは限らない。オリヴィエが騎士団員だと知れたら、犯人だってわざわざ姿を見せないだろう」

 なるほど、確かに。オリヴィエは納得した。

「それでは、午後にまた会おう」

 セルゲイはそう言い残し、入れ替わりに執務室へ入る。

 オリヴィエも足早に部屋へ戻り、準備を始めることにする。

 普段着と言っても、私服は昨日着ていた貫頭衣と、帰宅時用のワンピースを一着しか持参していない。

「こんな用事があるなら、もう少し身の廻りのものを考えてくればよかったわ」

 騎士団に人生を懸ける覚悟はあっても、そこは16歳の乙女だ。

「試着の他に、買い物はさせて貰えないかしら……」

 必要ないからと、髪留め一つ持参していない。

 オリヴィエは、鏡の前で紐をほどく。

 銀髪をさらりと指で梳くと、大きくため息をついた。





 ***




「お待たせしました」

 昼食を終えたオリヴィエは、急いで着替えを済ませて待ち合わせ場所へ向かった。

 既にセルゲイは到着していたようだ。

「いや、大丈夫だよ」

 セルゲイは読んでいた本を閉じ、立ち上がる。

 騎士服以外のセルゲイを見るのは初めてだった。

 すらりとした長身と落ち着いた雰囲気の為か、彼の私服姿は格好よく見えた。

「流石、シルバーモント家の翠玉だ。皆が騒ぐのも無理ないね」

 やっぱり、セルゲイも頭から爪先までをじっくりとオリヴィエを眺めた。感心したような声を出す。

「へ?」と、オリヴィエは間の抜けた声を上げた。

 騒がれて無理ないのもわからないし、シルバーモント家の翠玉なんて二つ名も初めて聞いた。

 オリヴィエの知らないところで、そんな風に呼ばれていたのか。

「いや、何でもないよ」

 セルゲイはにこりと微笑むと、エスコートするように手を差し出した。

 オリヴィエも恐る恐る手を伸ばすが、その手を優しく取られると腰に手を回される。

 普段男性に触られることのないオリヴィエは、恥ずかしさに目を瞑った。

「ははっ、本当に初心なんだね。団長の心配も、もっともだ」

 オリヴィエは目を瞬いた。

「どういうことですか?」

「君は、自分が騎士団でどう思われているか、考えたことは?」

 セルゲイが耳元で囁く。オリヴィエは身体を強張らせた。

 ルーカスの言った言葉と、どこか似た響きを感じたからだ。

「え? あ……あの」

 そんなの知らないし、考えも及ばない。

 ちょっと珍しい仲間が増えた、くらいじゃないのか。

「ま、わからないならいい」

 ――セルゲイはそう締めくくると、再び歩き始めた。
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