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娼館の制圧

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「イエスか、ノーの2択だ。身振りで答えなさい」

 セルゲイはルーカスの仕草を遮るように、2人の間に入った。

「我々に協力し、ここから脱出して、保護団員の元へ逃げるか。ここに留まり、ここの従業員と共にリュートへ引致されるか。どちらがいい? 前者か」

 ティメオは伏せさせて、抜かりはない。

 言葉を切ると、リリアはこくんと、首を縦に振った。

 次いでティメオの上体を浮かしてやる。

 ティメオも同意した。元々、ティメオは娼婦への意欲は皆無だった。

 借金が帳消しになり、家族の元へ帰れるのだから拒否する理由がない。

「では、これから君たち2人を窓から外へ降ろす。屋敷をずっと迂回して、屋敷を背にした北東の方角に一等突き出したマホガニーの木がある。その根元に、うちの団員が待機しているから、その者に保護を求めなさい」

 セルゲイは胸元の徽章を外すと、ティメオに握らせる。

「では、ティメオ。君から」

 ルーカスに承諾を取らず、ティメオを指名した。

 それは、構わない。ルーカスでもティメオを選ぶ。

 ティメオなら、娼館へ密告に走る心配もない。

 次にリリアを降ろした時、万一オリヴィエの元へ向かわず、ポールに助けを求めても、問題はない。

 リリアの把握していない用心棒が数名待機していたところで、聖騎士団の精鋭が8人も潜伏していれば、制圧は容易い。

「下に降りたら、解くから心配いらない」

 ――だが、セルゲイが確認を求めないのは珍しい。

 セルゲイはティメオの手首を拘束していた。ティメオを抱えて脱出する間、一時的に無防備な状態になる。

「団長。……しっかり、してください」

 脱出の間際、セルゲイはぼそりと呟いた。

 ルーカスは目で頷く。

 先ほどの失態は、セルゲイに心配をかけるほどのものだったろうか。

 ルーカスは忠告通り気を引き締め、続いてリリアを脱出させた。







 ***








 月が中天に懸かり、ゆっくりと冷気が忍び寄った。

 オリヴィエは身震いした体を、両腕で抱いた。

 ボッカは王都よりもやや、標高が高い。

 普段より冷えを感じるのは、そのせいか。

 火を焚きたいところだが、目立っては困る。

 オリヴィエはセルゲイの指示で、待機場所を移動していた。

 オリヴィエは木の幹に背をもたせながらじっと、館の方角を見つめた。
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