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聖女

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 だが、すぐに目を落とされる。

(オリヴィエの様子が、おかしいな……)

「だって、オリヴィエさんに任せて置いたら、邪魔をされてしまうでしょう?」

「どうした?」と尋ねるより早く、リリアが口を挟む。

 どこかしら、言葉に棘を感じなくもない。

「邪魔? ……私が邪魔なんて、するわけ」

 オリヴィエは愕然としているように見えた。

 リリアに心無い発言をされたせいか。

「だって、悔しいでしょう? 私がルーカス様の婚約者になって。ルーカス様と結婚するなんて、オリヴィエさんにとっては許せませんよね?」

 リリアは淡々とした口調で続ける。

「オリヴィエさんは自分の立場を脅かされるのが怖くて、私を遠ざけたいんですよね? だって、私は聖女候補で、本物の聖女だから!」

 えっへん、と胸を張るリリアを前に、オリヴィエはぐっと、歯を食い縛った。

「……リリア」

 いくらリリアが聖女でも、彼女にとってオリヴィエは恩人だ。

 行き過ぎた態度は、改めさせなければ。

 ルーカスはリリアを諫めようとした。

「失礼します、聖女殿。ここは、関係者以外立ち入り禁止ですが、受付の者から聞かされませんでしたか」

 しかし、そこへ凛とした声が割って入った。

 オリヴィエの肩を引き寄せ、リリアから引き離す。

 セルゲイだ。

「私は関係者よ。ルーカス様の婚約者になるんだから」

「婚約者でも部外者です。ここは軍事機密を扱う場ですから。今すぐご退去ください」

「いやよ。ルーカス様に会うのを邪魔されたくないんだもの。――オリヴィエさん、あなたもそうでしょう? 私からルーカス様を奪いたいんでしょう!?」

 リリアはオリヴィエに食って掛かる。

 だが、もうオリヴィエが気圧されることはなかった。しっかりと向き合い、毅然とした態度で応戦する。

「私は、聖女から王太子をを奪ったりしないわ。きちんと祝福するつもりで、ここにいるの。それを決意したから、聖騎士団に入団したのよ。疑われるのは、心外だわ」

 ただ――瞳の光が揺らめいて見えるのは、気のせいだろうか。

「リリア! 見つけた……何しているのよ、帰りましょう!」

 扉の間で粘っているリリアの元に、イレーネが駆けつけた。

 腕を引っ張り、強引に室外へ連れ出す。

「ごめんなさい。私、リリアを見失ってしまって……すぐに連れ帰ります。お騒がせして、申し訳ありませんでした」

 イレーネはぺこりと頭を下げて、リリアを引きずって行った。
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