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魔物

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「大きな鳥が窓から入って来て、オリヴィエさんを連れ去ってしまったの!」

 再度、追い打ちをかけるようにイレーネが叫ぶ。

 やはり、理解できない。

 なんだ、それは。

 ルーカスは弾かれるように、扉へ突撃した。

 肩口から扉に突っ込み、押し開けようと試みる。

「団長!? 侍女殿、聖女様、ドアの前からお引きください」

 ドッ、と突撃すると、打撃で扉が数センチ押し開く。

 中の障害物が勢いで僅かに押されたらしい。

 ルーカスの行動にグレンたちは慌てるものの、リリアとイレーネに指示を出す。

 手応えはあるものの、肩に対しての負担は少なくない。

 苛立ち紛れに、次は足で蹴り飛ばす。

 障害物が押される度に、少しずつドアが開く。

 もどかしくなりながら、ルーカスは狂ったように打撃を繰り返した。

 6度か7度、試したところでとうとう人一人が入れるくらいの隙間が開く。

 最後にもう一度体当たりしてから、ルーカスは室内に飛び込んだ。

「オリヴィエ!!」

 室内は、嵐に見舞われたかのように乱れていた。

 椅子やテーブルがひっくり返り、ベッドは引き倒されている。

 扉を押しとどめていたのは、腰の高さほどのチェストだった。

 リリアとイレーネは身を寄せ合い、右の隅で立ち尽くしている。

「オリヴィエは!?」

 リリアは茫然として、どこを見ているのか判然としない様子だった。

 ルーカスの足元のほうへ視線を彷徨わせている。

 ルーカスの剣幕にびくりと肩を震わせると、どっと滂沱の如き涙を零した。

「オリヴィエさんは、あっちのほうへ、連れ去られました……」

 イレーネが恐る恐るといった感で声を絞り出す。

 ルーカスはぽっかりと穴の開いた窓から頭を外へ突き出した。

 ざっと左右に目を配るが、闖入者の影も形もない。

「どんな鳥だ!? 体長は?」

「えっと……と、とても、大きくて」

 イレーネの声も震えている。

 人間を抱えて飛ぶほどの鳥を傍で見たなら、誰でも恐怖で委縮する。

 それを咎めてもどうにもならない。

「グレン、動けそうな騎士を集めて宿舎を守れ。俺は鳥の行方を探る」

 証言を得るのは諦めて、窓から跳ぼうと身を乗り出した。

「団長? 待ってください。指揮官自ら。行くなら私が」

 痛いところを突かれて、ルーカスは窓枠に手をかけたまま、ぐっと留まった。

 まだ、この他にも何が起きるか判らない。

 ましてや隊長のクリストファーも今は街へ出向いている。

 指揮官が一人もいないのでは、不測の事態に備えられない。

「深追いはしない。手掛かりを探るだけだ、すぐに戻る」

 それでも完全に堪えきれない。

 背中に刺さる視線を感じながらも、地上へ飛び降りる。

 着地すれば足元には、割れた窓ガラスの破片が散っていた。

 周囲を振り仰ぐが、怪鳥の気配はまるでない。
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