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魔物
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ゆらり、ゆらり。
揺り籠の中で心地の良い揺れが、いつまでも続くような錯覚。
オリヴィエは夢と現の境で微睡んでいた。
身体は鉛のように重い。意識は混濁して、頭がぼんやりとしている。
「おい、もう、沢山だ。とっとと置き去りにして、早く逃げよう。ここまで運べば充分だろ」
どこかで誰かが、声を押し殺しながらも言い争っているのが聞こえた。
「崖から落とせっちゅう依頼だったが、律義に守ってちゃあ儂らの命も危うい」
「そうだな。ひどい地震が2度もあった。お嬢さんもここらは物騒だからデュランドから出ろと仰ってたしな。この辺に置いておけば、どうせ化物にやられる。そうなりゃ同じだろうよ」
途端に揺れが治まり、どすん、と体が投げ出される。
衝撃で、オリヴィエはぼんやりと覚醒した。
(ここは……どこ……)
辺りは薄暗いが、夜ではないことは判る。
身体中が何かに覆われ、そのせいで光が遮られている。
光を遮るのは、布状のものだ。
身じろぐと、体が軋んだ。痛みはないが、関節がぎしぎし言う気がする。
(私、どうしたのかしら……。急に意識が遠くなって……)
オリヴィエは自由が利かないながらも、もぞもぞと体を動かしてみる。
気を失うまでの記憶をぼんやりと辿り、不意に、覚醒する。
「イレーネ!! 何のつもり!?」
覚醒するなり、記憶の名残を再現するかのように、叫ぶ。
気を失う前、オリヴィエはリリアの部屋にいた。
ダイニングに戻り、ルーカスの要請に応じるべきだと諭しに訪ねた。
部屋では先に、イレーネがリリアを説得しに当たっていた。
オリヴィエはリリアに話しかけた。
「デュランドに残ってもらっても、団長は貴女を危険な目に遭わせるつもりはないわ。今まで通り、私たちが護衛に就くから。聖女がいるだけで、皆の指揮が高まるのよ」
「そんなことは、私だって、理解してるわ。でも、何が起きるか、分からないでしょう? 騎士団の人達だって、魔物の煙であんな風に……」
リリアは生来の気の強さをすっかり失ったように見えた。
口調ははっきりせず、何を言っているのか聞き取りにくい。
「これから王都へ応援を要請する。5日と経たずに正規軍が到着するわ。街の市民やデュランドの騎士たちの指揮のために……」
オリヴィエは何と繕おうか思案した。
しかし、しばし言い淀んで、取り繕うのを止めた。
「ごめんなさい、リリア。やっぱり私は今までいい加減だったかもしれない。……聖女、だからだけでなく、ルーカス様の伴侶なら、あの人が望む時に傍を離れてはいけない。あの人を支え、あの人と共に、この国を護るのが、貴女の使命よ。ルーカス様は、リリアを必要としているの。その気持ちに、応えてあげて」
偽らざる本心を告げれば、目の奥から熱いものが込み上げた。
切ない。
感情を一言で表すなら、”切ない”としか形容できない。
ルーカスの伴侶たる存在は、オリヴィエが望んでやまない物だった。
どうして私じゃないのだろう。選ばれたのが私だったら。
言い尽くせない思いが込み上げて、一度、言葉に詰まる。
どうしてこんな風に、他人を説得しなければならないのだろう。
揺り籠の中で心地の良い揺れが、いつまでも続くような錯覚。
オリヴィエは夢と現の境で微睡んでいた。
身体は鉛のように重い。意識は混濁して、頭がぼんやりとしている。
「おい、もう、沢山だ。とっとと置き去りにして、早く逃げよう。ここまで運べば充分だろ」
どこかで誰かが、声を押し殺しながらも言い争っているのが聞こえた。
「崖から落とせっちゅう依頼だったが、律義に守ってちゃあ儂らの命も危うい」
「そうだな。ひどい地震が2度もあった。お嬢さんもここらは物騒だからデュランドから出ろと仰ってたしな。この辺に置いておけば、どうせ化物にやられる。そうなりゃ同じだろうよ」
途端に揺れが治まり、どすん、と体が投げ出される。
衝撃で、オリヴィエはぼんやりと覚醒した。
(ここは……どこ……)
辺りは薄暗いが、夜ではないことは判る。
身体中が何かに覆われ、そのせいで光が遮られている。
光を遮るのは、布状のものだ。
身じろぐと、体が軋んだ。痛みはないが、関節がぎしぎし言う気がする。
(私、どうしたのかしら……。急に意識が遠くなって……)
オリヴィエは自由が利かないながらも、もぞもぞと体を動かしてみる。
気を失うまでの記憶をぼんやりと辿り、不意に、覚醒する。
「イレーネ!! 何のつもり!?」
覚醒するなり、記憶の名残を再現するかのように、叫ぶ。
気を失う前、オリヴィエはリリアの部屋にいた。
ダイニングに戻り、ルーカスの要請に応じるべきだと諭しに訪ねた。
部屋では先に、イレーネがリリアを説得しに当たっていた。
オリヴィエはリリアに話しかけた。
「デュランドに残ってもらっても、団長は貴女を危険な目に遭わせるつもりはないわ。今まで通り、私たちが護衛に就くから。聖女がいるだけで、皆の指揮が高まるのよ」
「そんなことは、私だって、理解してるわ。でも、何が起きるか、分からないでしょう? 騎士団の人達だって、魔物の煙であんな風に……」
リリアは生来の気の強さをすっかり失ったように見えた。
口調ははっきりせず、何を言っているのか聞き取りにくい。
「これから王都へ応援を要請する。5日と経たずに正規軍が到着するわ。街の市民やデュランドの騎士たちの指揮のために……」
オリヴィエは何と繕おうか思案した。
しかし、しばし言い淀んで、取り繕うのを止めた。
「ごめんなさい、リリア。やっぱり私は今までいい加減だったかもしれない。……聖女、だからだけでなく、ルーカス様の伴侶なら、あの人が望む時に傍を離れてはいけない。あの人を支え、あの人と共に、この国を護るのが、貴女の使命よ。ルーカス様は、リリアを必要としているの。その気持ちに、応えてあげて」
偽らざる本心を告げれば、目の奥から熱いものが込み上げた。
切ない。
感情を一言で表すなら、”切ない”としか形容できない。
ルーカスの伴侶たる存在は、オリヴィエが望んでやまない物だった。
どうして私じゃないのだろう。選ばれたのが私だったら。
言い尽くせない思いが込み上げて、一度、言葉に詰まる。
どうしてこんな風に、他人を説得しなければならないのだろう。
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