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聖女の祝福
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頭の天辺から爪先まで、何度眺めても王子様然としていて、溜息の出そうな凛々しさだ。
「確かに色々ありましたけど……、そのお陰で、普通に選定された聖女にはできない経験がたくさんできました。その分、より深く、ルーカス様と繋がれた気がするんです」
だからこうなった今では、必要な道程だったのでは、とさえ考える。
オリヴィエは半ば見惚れながら、自分にも言い聞かせるように説いた。
ルーカスはそれでも不満なのか、考え込むように沈黙し……おもむろに口を開く。
「妙なことを言うな。俺とオリヴィエはまだ繋がっていない」
「えっ?」
オリヴィエは困惑した。
この10年余り、2人は言葉にできずとも互いを想い合っていた。
その上聖騎士団では、苦楽を共にし、強い絆を培った……と、オリヴィエは信じていた。
ルーカスの想いは違うのか?
独りよがりの感傷だったのか、と不安に襲われる。
ルーカスはより深く腰を掛け直すと、脚を組んだ。
綺麗に中心線の伸びたスラックスが、長い足を強調する。
組んだ膝の上に肘を着いて顎を乗せる。
勿体ぶった予備動作に、どんな答えがもたらされるのかと、固唾を飲んで見守ると、ニヤリと口角がつり上げられた。
「繋がるのは、今晩の楽しみだ。どこまで深く繋がれるかは……オリヴィエの頑張り次第かな」
ルーカスの比喩に、オリヴィエの頬はカッと熱くなる。
言わんとしている意味が、考えなくても浮かんでしまった。
「ちょっ……ルーカスったら! 突然何を……!」
「ふっ、耳まで赤くして、わかってるじゃないか。……澄まし顔よりそのほうが、オリヴィエらしくていい。可愛いな」
ルーカスは意地悪そうに瞳を眇めてくっくと笑った。
確かに、今日は大切な日だからと気を張り詰めていた。王太子の妃に相応しく、聖女の名に恥じないようにと。
「ルーカスだって、そんな完璧な王子様然とした姿で、変な話題に繋げないでよ……!」
「王子は品行方正でなければならない決まりはない。それともお前が結婚したのは、王太子として公務をこなす姿の俺だけか? 知っているだろう? 俺は口も悪いし、乱暴でひねくれ者だ」
言葉とは裏腹に、ルーカスは足を戻すと、ゆったりとした動作で両手を広げた。
あんな風に初夜を仄めかされると、素直に飛び込んでいいものかと迷いが生じる。
けれどやっぱり、誘惑には抗えない。
ルーカスの胸の温かさと仄かな香りは、何物にも代え難い蠱惑だった。
「残念だけど……どんなルーカスも好きよ。……意地悪な貴方も」
胸に額を当てる直前で、オリヴィエはルーカスを見上げ、じとっと睨む。
「ほう。では、覚悟しておくことだな」
ルーカスはオリヴィエの腰に手を回すと、力強く引き寄せた。膝の上に抱き上げる。
「もう! まだ言うのね。本当に意地悪なんだから」
オリヴィエが照れれば照れるだけ、ルーカスは喜ぶとわかっている。
わかっていても、羞恥は簡単には治まらなかった。
変わらずくすくすと笑い声を立てながら、ルーカスは耳元に口づけた。
「厄介な夫で悪いが、末永くよろしく頼むよ」
*おまけ* Fin
「確かに色々ありましたけど……、そのお陰で、普通に選定された聖女にはできない経験がたくさんできました。その分、より深く、ルーカス様と繋がれた気がするんです」
だからこうなった今では、必要な道程だったのでは、とさえ考える。
オリヴィエは半ば見惚れながら、自分にも言い聞かせるように説いた。
ルーカスはそれでも不満なのか、考え込むように沈黙し……おもむろに口を開く。
「妙なことを言うな。俺とオリヴィエはまだ繋がっていない」
「えっ?」
オリヴィエは困惑した。
この10年余り、2人は言葉にできずとも互いを想い合っていた。
その上聖騎士団では、苦楽を共にし、強い絆を培った……と、オリヴィエは信じていた。
ルーカスの想いは違うのか?
独りよがりの感傷だったのか、と不安に襲われる。
ルーカスはより深く腰を掛け直すと、脚を組んだ。
綺麗に中心線の伸びたスラックスが、長い足を強調する。
組んだ膝の上に肘を着いて顎を乗せる。
勿体ぶった予備動作に、どんな答えがもたらされるのかと、固唾を飲んで見守ると、ニヤリと口角がつり上げられた。
「繋がるのは、今晩の楽しみだ。どこまで深く繋がれるかは……オリヴィエの頑張り次第かな」
ルーカスの比喩に、オリヴィエの頬はカッと熱くなる。
言わんとしている意味が、考えなくても浮かんでしまった。
「ちょっ……ルーカスったら! 突然何を……!」
「ふっ、耳まで赤くして、わかってるじゃないか。……澄まし顔よりそのほうが、オリヴィエらしくていい。可愛いな」
ルーカスは意地悪そうに瞳を眇めてくっくと笑った。
確かに、今日は大切な日だからと気を張り詰めていた。王太子の妃に相応しく、聖女の名に恥じないようにと。
「ルーカスだって、そんな完璧な王子様然とした姿で、変な話題に繋げないでよ……!」
「王子は品行方正でなければならない決まりはない。それともお前が結婚したのは、王太子として公務をこなす姿の俺だけか? 知っているだろう? 俺は口も悪いし、乱暴でひねくれ者だ」
言葉とは裏腹に、ルーカスは足を戻すと、ゆったりとした動作で両手を広げた。
あんな風に初夜を仄めかされると、素直に飛び込んでいいものかと迷いが生じる。
けれどやっぱり、誘惑には抗えない。
ルーカスの胸の温かさと仄かな香りは、何物にも代え難い蠱惑だった。
「残念だけど……どんなルーカスも好きよ。……意地悪な貴方も」
胸に額を当てる直前で、オリヴィエはルーカスを見上げ、じとっと睨む。
「ほう。では、覚悟しておくことだな」
ルーカスはオリヴィエの腰に手を回すと、力強く引き寄せた。膝の上に抱き上げる。
「もう! まだ言うのね。本当に意地悪なんだから」
オリヴィエが照れれば照れるだけ、ルーカスは喜ぶとわかっている。
わかっていても、羞恥は簡単には治まらなかった。
変わらずくすくすと笑い声を立てながら、ルーカスは耳元に口づけた。
「厄介な夫で悪いが、末永くよろしく頼むよ」
*おまけ* Fin
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