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10話 居候
しおりを挟むマンションに着いて駐車場に車を停めた。また無言のまま私達は部屋へ入った。
私は構わずソファに座る。來斗が珈琲を私の分も淹れてくれて、そっとテーブルの上に置く。
來斗が私の隣りに座って、ようやく口を開いた。
「キーナ、お前の気持ちが知りたい……」
「仕方ないだろ、これは仕事だ」
「キーナ……なんで祖母の恋人なんだよ……」
「――えっ? 何の話し?」
正直、呆気に取られた。仕事の事で渋い顔をしているのかと思いきや、私と桜ちゃんの事らしい。
ならば、桜ちゃんが心配なのか、まあ、相手が私では不安にもなるのも当然か、同性だしね。
來斗がずっとシワを寄せている眉間に指を当てて、私は応える。
「あのだね來斗くん、私と桜ちゃんは同志なんだよ、不安に思うことは何もないさ」
「祖母を心配して言ってるんじゃない、キーナの気持ちが知りたいんだ」
「えっ、私かあ、恋人というのは話し相手という意味だ。特別でもなんでもない、それだけだ」
「それだけ? なら俺は?」
來斗はと聞かれても、私は特別になりたいと思うのは当然であって、でもその特別が來斗に必要かどうかは私には分からない。それこそ來斗次第だ。
恋愛経験のない私が、特別を語るのは違うような気がする。今はこの関係を大事にしたいだけだ。
私はそっと來斗の肩に手を伸ばして言った。
「あのとき、來斗が欲しいと言ったの嘘ではない、こんな私を受け入れてくれた相手だからね」
「なら、その相手は俺だけってことで……」
「フフ、ああ、それでいいよ」
「キーナ……」
「あ、それでなんだけどね、部屋を貸してくれるって話し、まだ有効かなあ?」
來斗がポカンとした顔で私を見る。
「えっ、じゃあ俺と一緒に……?」
「ああ、今日からよろしく。いいんだよね?」
來斗の表情が変わった。今にも泣きそうで、でも口元は笑って、そして私をギュッと抱く。
これって巷で言うハグってやつですか?
有難うとか嬉しいの意味だよね、確か。
そういえば私も嬉しくて抱き付いたことがあったっけ。來斗も同じ気持ちなんだろうか。
「あっ、すまん! 嬉しくてつい……」
「おっ、おう、いいよ、別に……」
來斗の視線が熱い、私も顔が熱って落ち着かない、私も勘違いしそうだぞ……。
そこで――
「グゥゥ~、あっ……ごめん、腹減ったな」
と、來斗の腹の虫が邪魔をした。拍子抜けした私はタバコを買いに行くと言って部屋を出た。
私なりに気持ちを落ち着けたかったからだけど。
車を走らせいつもの山へ向かう――
車を降りて夜空を眺め一息吐く――
「ハァ、來斗のあの表情ってなんだと思う? 私と同じ気持ちなのかなあ、それとも思わせぶり?」
独り言はけっこう本音が出るものだと、自分で喋っていて気がつく。誰かを特別に想う気持ち、やっぱり恋しているんだと改めて思う。
大空見上げて、私はただタバコを吸う……。
しばらくして部屋へ戻ると、來斗は何事も無かったかのように、パチパチとパソコンにかじり付く。
そんな中、何やら香しい匂いにそそられる。
「あ、キーナおかえり。カレー作っといた」
「來斗が? 凄いなあ、來斗はもう食べたの?」
「いや、まだだ。仕事が片付かなくてな」
「なら一緒に食べよう、明日も仕事だろ? 睡眠不足は後で祟るぞ」
來斗は仕事をキリの良いところで終わらせて、ふたり揃って食事の支度に取り掛かった。
私がライスを器に盛り、來斗がカレーを掛けてテーブルへ置く。スプーンはコップの水の中。
ふたり揃ってテーブルに着く。
「キーナ、明日は一緒にステーションへ行くぞ」
「グフッ! なんでよ?」
「それこそなんで? ポリスの事を知らなきゃ依頼は進まんぞ。内部のゴタゴタだ、当たり前だろ?」
「そうでした……」
「ステーション内では俺から離れるなよ」
「はいはい」
來斗この切り替えの速さと命令口調はどこからやってくるのか、頭の中の構造を見てみたい。きっといろんな落とし穴があるに違いない、絶対。
「來斗、食べたら風呂入って早く寝ろ。後片付けは私がやっとくから」
「そうか? なら頼むよ。風呂、一緒に入るか?」
「入んねぇーよ! さっさと行け!」
一緒に風呂へ入るとか意味が分からん。とにかく、狙われているのなら今のうちにバリアを張っておこう。
"《細砂・砂時計》"
細かいパウダー状の砂が見えない塵となり、この部屋全体を外敵から守る。
タイムリミットは陽が昇るまでだ――
私は片付けを終えて風呂へ入った。出てみるとソファにパジャマが用意されている。
有難いと思いながら着替えてみた、さすがにデカい。さて寝るかと部屋へ向かうが、2部屋あるうちのどちらが私の部屋なのか分からない。
奥の部屋をそっと覗くと、物がギッシリ埋まっていて物置き状態。となれば残るは來斗のあの部屋。
入って見ると、來斗が下に布団を敷いて寝ている。なので私も一緒に布団で寝た。
「あっ、おいキーナ! お前はベッドへ行け!」
「なんで? 差別だ」
「差別の使い方を間違えてるぞ……」
「風呂は良くて布団はダメっておかしくない?」
「アレは冗談だよ!」
こいつも冗談とか言うんだな。仕方がないので枕と毛布を持ってリビングのソファで寝ることにした。すると來斗が慌てて付いてくる。
「だから、なんでそっちなんだよ……」
「私は客じゃない、ただの居候だ。私はこのソファが気に入っているのだ、私に構わず早く寝ろ」
「キーナ……ハァ、風邪引くなよ、おやすみ」
本当に面倒くさい奴だ、これなら車で寝たほうがよっぽど楽だ。明日からは車で寝ようっと。
朝、ベランダで朝一番のタバコを吸う。空気はイマイチ、タバコは美味い。私の仕掛けた砂時計も役目を果たし、怪しい人影も見当たらない。
ここから見る景色はまるで都会の箱庭だ。仕方なく植えられた木々に、ぎゅうぎゅう詰めに整えられた家々。誰のデザインだか知らないが、ただ利便性だけを優先したポシビリティーのない世界。
慣れって怖いな、それを住みやすいと感じてしまう人々。狭まい視野としか言いようがない。
タバコを吸い終え着替えていると、來斗が起きて来た。何故かダルそうに眼を擦る。あれだけパソコンにかじり付いていれば誰でもそうなる。
今日はポリスステーションへ行くと言っていた。依頼の内容さえ詳しく教えてくれたら、ステーションなど行かなくてもいいと思うんだけど。
雰囲気を知れということなんだろうが、やはり私は億劫で仕方がない。
「キーナ、珈琲くらい飲んで行け」
「おっ、サンキュー。もう行くの?」
「ああ、時間は有効活用しなきゃな」
「あっそ、じゃ行くか」
部屋を出てエレベーターに乗り、駐車場で別々の車に乗っていざ出発。
來斗が一緒に乗った方が良いだろうと言ったが、関係性を怪しまれると困るので遠慮した――
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