お飾りドールのあぶない日常 〜神の力と仲間は最強です〜

ケイソウ

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24話 願い

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 夕陽が沈むころ、來斗と桜ちゃんが到着した。オフィサー達がハンターを捕まえて連行して行く。
 西鎌は地べたに座り込み、車に寄り掛かったまま黙って夕空を眺めていた。

 そこへ桜ちゃんが駆け寄って来た。

「キーナさん! 無事かい? 琉ちゃんは……」
 
「桜ちゃん、悪いが私のやり方で終わらせたよ。西鎌さんに桜ちゃんの記憶は無い、後は任せるよ」
 
「ふたりの記憶が……そうかいそうかい、良かった、良かったよ。キーナさんありがとう、うんそれでいい、それでいいんだ。さあ琉ちゃん、帰ろう」
 
「……誰だい?」
 
「……元恋人。フッ、どうでもいい、行くよ」

 桜ちゃんは私を責めなかった。結末は正しく行われた、なんてことは私には言えない。
 それは、依頼をした桜ちゃんに判断を委ねたい。
 
 桜ちゃんと西鎌は覆パトに乗せられ帰って行った。私はただ黙って隣りに立つ來斗の手を握った。
 そうだ、來斗に何も言わずに出て来てしまった。
 怒っているだろうか……。

 來斗はそっと私を特別なハグで抱きしめた。

「キーナお疲れ様。またお前を抱けて嬉しい……」
 
「怒ってない?」
 
「何に対して?」
 
「依頼の結末と、黙って出て来てしまったこと……」
 
「直斗と話し合ってな、爺ちゃんがどんなカタチで戻ってきても、とがめず赤の他人でやり過ごそうって決めたんだ、キーナは気にしなくて良いんだよ」

 今はその言葉を有り難く受け止めよう。

「あとはそう、キーナにほうれん草は無理だな」
 
「んー、ほうれん草は好きだよ?」
 
「ククッ、なら許してやろう。さあ早く帰ろう」
 
 
 西鎌琉ニとのデュエルは終わった。しかし、新しい新居はまだ何も片付いていないと來斗は言う。
 新居のビルに着いてまず來斗は、私を3階の部屋へ誘導した。中に入ると、何と言う事でしょう。注文を遥かに超えた出来映えに驚く。
 
 真っ白な壁にウッド調の床。システムキッチンにベッドが余裕の寝室。正に理想の新婚さん部屋。
 しかしも、完璧ながらこの短期間でここまでできるものなのか、内装業者さん、匠ですね。

「うわぁ~凄くキレイだなあ、私達の新居にピッタリじゃん。來斗、これからよろしくね」
 
「こちらこそ、ここからが俺達夫婦の出発点だ」

 來斗の声もそぞろに、私は彼方此方あちらこちらを探索する。
 
「わぉ、風呂も広いよ來斗~、ふたり余裕~」
 
「お、お前は……俺を煽るなよ……」
 
 寝室を改めて覗くと、ベッドの上は來斗の私物で埋め尽くされている。

「來斗~、これじゃ寝らんないよ~?」
 
「あっ、そうか。じゃあ先にそこから片付けるか」
 
「なら私は他の片付けしてるね」
 
「いや、キーナは先に風呂へ入れよ、疲れたろ?」

 と言われたので、遠慮なくお風呂を頂く。ゆっくり湯船に浸かって至福の溜め息を吐く。
 今は何も考えたくない、まだアゲハとの決戦が残っているのだから――

 風呂から出ると、ソファにパジャマが用意されていた。初めて來斗の部屋に泊まった時のことを思い出す。そんな私を他所目に、今度は來斗が風呂へ入った。自分のパジャマは脱衣所に置く、私との違いは何なのか問いただしてみたい。

 冷蔵庫を開けると、ペットボトルの珈琲が入っていた。尽かさず手に取りソファで珈琲を飲む。
 しばらくて來斗が風呂から出てきた。來斗はバスタオルを頭に被り、ツカツカと歩み寄り、おもむろに私のペットボトルを取り上げ飲み干した。
 そしてそそくさと部屋へ入っていった。えっ?

 後を追いかけて部屋へ入ると、來斗はベッドに座りバスタオルを頭に乗せたままじっと動かない。

「どうしたの? ちょっと、頭ちゃんと拭かないとカゼひくよ。あ~もう、まだびしょ濡れじゃん」

 そう言いながらタオルで頭を拭いていると、來斗が私の手を掴んでベッドに押し倒した。

「キーナごめん、我慢できない。抱いてもいい?」

 いつスイッチが入ったのか、頬を赤らめ私を見詰める。なぜいつも戸惑うように聞くのだろう。

「聞くなって言ってるのに……うん、いいよ」
「キーナの全部が欲しい、俺のものだ……」

 そう言いながら私の頬に手を添えて、優しいキスをくれる、微かに珈琲の味がした。

 私はキスに夢中になる、でも來斗の手はパジャマのボタンをひとつずつ確実に外している。
 來斗の唇が私の唇から離れると、幸せそうな顔でささやく。

「キーナ、愛してるよ」

 私の思考回路は止まりそうで、言葉を返すこともままならない。そんな私を來斗は優しく抱きしめてくれる。私は初めて心も体も幸福感と満足感を味わった。もう男は來斗だけでいいと心に決めた。
 
 私はこの日を永遠に忘れない、來斗が朽ちて果てたとしても、ずっとね……。
 

 翌朝――

 私はいつものように早起きをして、恒例のタバコを吸う場所を探し始めた。
 部屋の奥のほうに、登り階段を見つけた。さっそくタバコを持って階段を登る。
 扉が見えた。ノブを回してドアを開けると、外は広い屋上になっていた。

「おお、喫煙スペース確保だ。ここならテーブルとイスも置けるかも、ちょっとリッチじゃん」

 ドアの開く音がした。來斗は満面の笑みでやってくる。私は相も変わらずタバコをくゆらす。

「キーナ、おはよう。体は……大丈夫?」
 
「うん、大丈夫。來斗は良く眠れた?」
 
「ああ、俺はスッキリ眠れたよ」
 
「スッキリか、なら良かった」
 
「さあ、朝ごはんにしよう、俺の可愛い奥さん」

 來斗の笑顔が眩しく愛おしい――
 
 私の寿命は永い、幾度となく人間の死を看取みとってきた。特に親しき者の死は辛い。
 それが愛する者だとしたら、悲しみは計り知れないだろう。これが定めと、未だ割切れない自分がもどかしい、だからいつも平常心を装う。
 
 いつしか心が壊れてしまう日が訪れるかもしれない、ならいっそ、來斗と共に朽ち果てたい。
 神は私の願いを叶えてくれるだろうか……。

 その愛する人が、いま目の前で朝食の準備に励んでいる。あれこれ考えている暇はなさそうだ。

「フフッ、私もお手伝いしましょうか?」
 
「今日は俺がやる、キーナは休んでろ」

 そう言われてソファで待機していると、運ばれてきたのはフルーツ入りのシリアルだ。
 これを料理と言うのかは定かではない。とにかく食事にあり付けるだけ有難いと、せっせと口に運ぶ。

 そういえばと、男3人組のことを來斗に尋ねた。

「ねえ來斗、直斗と他のふたりはどうした?」

「ああ、婆ちゃんの命令でいったん直斗の家に戻ったよ。片付けを終わらせてからだけどな」
 
「そっか、それでリーフとルートの印象は?」
 
「うん、真面目で礼儀正しい良い子だな。あれがお前を襲ったとは思えないくらいだ、ちょっと痛々しくて可哀想だったよ。それでな、俺とキーナは夫婦だって言ったら、キーナさんは女だったんですかって。俺は思わず吹き出しちゃったよ」

 まあ、そんなオチでしょうね、もう慣れっこだ。來斗くらいだよ、始めから私を女だと気づいたのは。直斗はどうだったんだろう、まあいいか。
 

 
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