25 / 38
24話 願い
しおりを挟む夕陽が沈むころ、來斗と桜ちゃんが到着した。オフィサー達がハンターを捕まえて連行して行く。
西鎌は地べたに座り込み、車に寄り掛かったまま黙って夕空を眺めていた。
そこへ桜ちゃんが駆け寄って来た。
「キーナさん! 無事かい? 琉ちゃんは……」
「桜ちゃん、悪いが私のやり方で終わらせたよ。西鎌さんに桜ちゃんの記憶は無い、後は任せるよ」
「ふたりの記憶が……そうかいそうかい、良かった、良かったよ。キーナさんありがとう、うんそれでいい、それでいいんだ。さあ琉ちゃん、帰ろう」
「……誰だい?」
「……元恋人。フッ、どうでもいい、行くよ」
桜ちゃんは私を責めなかった。結末は正しく行われた、なんてことは私には言えない。
それは、依頼をした桜ちゃんに判断を委ねたい。
桜ちゃんと西鎌は覆パトに乗せられ帰って行った。私はただ黙って隣りに立つ來斗の手を握った。
そうだ、來斗に何も言わずに出て来てしまった。
怒っているだろうか……。
來斗はそっと私を特別なハグで抱きしめた。
「キーナお疲れ様。またお前を抱けて嬉しい……」
「怒ってない?」
「何に対して?」
「依頼の結末と、黙って出て来てしまったこと……」
「直斗と話し合ってな、爺ちゃんがどんなカタチで戻ってきても、咎めず赤の他人でやり過ごそうって決めたんだ、キーナは気にしなくて良いんだよ」
今はその言葉を有り難く受け止めよう。
「あとはそう、キーナにほうれん草は無理だな」
「んー、ほうれん草は好きだよ?」
「ククッ、なら許してやろう。さあ早く帰ろう」
西鎌琉ニとのデュエルは終わった。しかし、新しい新居はまだ何も片付いていないと來斗は言う。
新居のビルに着いてまず來斗は、私を3階の部屋へ誘導した。中に入ると、何と言う事でしょう。注文を遥かに超えた出来映えに驚く。
真っ白な壁にウッド調の床。システムキッチンにベッドが余裕の寝室。正に理想の新婚さん部屋。
しかしも、完璧ながらこの短期間でここまでできるものなのか、内装業者さん、匠ですね。
「うわぁ~凄くキレイだなあ、私達の新居にピッタリじゃん。來斗、これからよろしくね」
「こちらこそ、ここからが俺達夫婦の出発点だ」
來斗の声も漫ろに、私は彼方此方を探索する。
「わぉ、風呂も広いよ來斗~、ふたり余裕~」
「お、お前は……俺を煽るなよ……」
寝室を改めて覗くと、ベッドの上は來斗の私物で埋め尽くされている。
「來斗~、これじゃ寝らんないよ~?」
「あっ、そうか。じゃあ先にそこから片付けるか」
「なら私は他の片付けしてるね」
「いや、キーナは先に風呂へ入れよ、疲れたろ?」
と言われたので、遠慮なくお風呂を頂く。ゆっくり湯船に浸かって至福の溜め息を吐く。
今は何も考えたくない、まだアゲハとの決戦が残っているのだから――
風呂から出ると、ソファにパジャマが用意されていた。初めて來斗の部屋に泊まった時のことを思い出す。そんな私を他所目に、今度は來斗が風呂へ入った。自分のパジャマは脱衣所に置く、私との違いは何なのか問いただしてみたい。
冷蔵庫を開けると、ペットボトルの珈琲が入っていた。尽かさず手に取りソファで珈琲を飲む。
しばらくて來斗が風呂から出てきた。來斗はバスタオルを頭に被り、ツカツカと歩み寄り、徐に私のペットボトルを取り上げ飲み干した。
そしてそそくさと部屋へ入っていった。えっ?
後を追いかけて部屋へ入ると、來斗はベッドに座りバスタオルを頭に乗せたままじっと動かない。
「どうしたの? ちょっと、頭ちゃんと拭かないとカゼひくよ。あ~もう、まだびしょ濡れじゃん」
そう言いながらタオルで頭を拭いていると、來斗が私の手を掴んでベッドに押し倒した。
「キーナごめん、我慢できない。抱いてもいい?」
いつスイッチが入ったのか、頬を赤らめ私を見詰める。なぜいつも戸惑うように聞くのだろう。
「聞くなって言ってるのに……うん、いいよ」
「キーナの全部が欲しい、俺のものだ……」
そう言いながら私の頬に手を添えて、優しいキスをくれる、微かに珈琲の味がした。
私はキスに夢中になる、でも來斗の手はパジャマのボタンをひとつずつ確実に外している。
來斗の唇が私の唇から離れると、幸せそうな顔でささやく。
「キーナ、愛してるよ」
私の思考回路は止まりそうで、言葉を返すこともままならない。そんな私を來斗は優しく抱きしめてくれる。私は初めて心も体も幸福感と満足感を味わった。もう男は來斗だけでいいと心に決めた。
私はこの日を永遠に忘れない、來斗が朽ちて果てたとしても、ずっとね……。
翌朝――
私はいつものように早起きをして、恒例のタバコを吸う場所を探し始めた。
部屋の奥のほうに、登り階段を見つけた。さっそくタバコを持って階段を登る。
扉が見えた。ノブを回してドアを開けると、外は広い屋上になっていた。
「おお、喫煙スペース確保だ。ここならテーブルとイスも置けるかも、ちょっとリッチじゃん」
ドアの開く音がした。來斗は満面の笑みでやってくる。私は相も変わらずタバコを燻らす。
「キーナ、おはよう。体は……大丈夫?」
「うん、大丈夫。來斗は良く眠れた?」
「ああ、俺はスッキリ眠れたよ」
「スッキリか、なら良かった」
「さあ、朝ごはんにしよう、俺の可愛い奥さん」
來斗の笑顔が眩しく愛おしい――
私の寿命は永い、幾度となく人間の死を看取ってきた。特に親しき者の死は辛い。
それが愛する者だとしたら、悲しみは計り知れないだろう。これが定めと、未だ割切れない自分がもどかしい、だからいつも平常心を装う。
いつしか心が壊れてしまう日が訪れるかもしれない、ならいっそ、來斗と共に朽ち果てたい。
神は私の願いを叶えてくれるだろうか……。
その愛する人が、いま目の前で朝食の準備に励んでいる。あれこれ考えている暇はなさそうだ。
「フフッ、私もお手伝いしましょうか?」
「今日は俺がやる、キーナは休んでろ」
そう言われてソファで待機していると、運ばれてきたのはフルーツ入りのシリアルだ。
これを料理と言うのかは定かではない。とにかく食事にあり付けるだけ有難いと、せっせと口に運ぶ。
そういえばと、男3人組のことを來斗に尋ねた。
「ねえ來斗、直斗と他のふたりはどうした?」
「ああ、婆ちゃんの命令でいったん直斗の家に戻ったよ。片付けを終わらせてからだけどな」
「そっか、それでリーフとルートの印象は?」
「うん、真面目で礼儀正しい良い子だな。あれがお前を襲ったとは思えないくらいだ、ちょっと痛々しくて可哀想だったよ。それでな、俺とキーナは夫婦だって言ったら、キーナさんは女だったんですかって。俺は思わず吹き出しちゃったよ」
まあ、そんなオチでしょうね、もう慣れっこだ。來斗くらいだよ、始めから私を女だと気づいたのは。直斗はどうだったんだろう、まあいいか。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる