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26話 魔女狩り①
しおりを挟むアゲハは怪訝そうにリーフとルートを気にする。どうしてこの場にいるのか、敵か味方か、頭の中で必死にもがき苦しんでいるに違いない。
だがバトルは始まったばかりだ。
「おい婆ちゃん、アゲハもか? コイツは何もできない能無しだぞ、タバコ売りがせいぜいだろ」
いきなり強烈な一発、直斗らしい台詞だけど、緊張してるとは思えない、土壇場に強いタイプ?
「まあまあ、直斗、アゲハも役に立ちたいんだろ」
來斗が冷静に言う。さすがはポリスの指揮官、場慣れ感が半端ない。
直斗が更に突っ込む――
「アゲハ、お前は今すぐ帰れよ、遊びじゃないんだ、オレ達の邪魔をするな」
「直斗さん、それはちょっと酷いんじゃ……」
リーフが余裕しゃくしゃくとアゲハのフォローに回る。だが直斗を親しげ呼ぶリーフに、アゲハは困惑気味だ。
「アタシも直斗に賛成。琉ちゃんと一緒にしたくなかったから連れてきちまったけど、やっぱ場違いだったね。キーナさんごめんよ、醜態晒して」
「お婆ちゃん、わたし來兄と一緒にいたいの」
「ダメだね、お帰り。直斗よ、送ってやりな」
「ま、まあ、今日くらいは、なあ、マザー」
ルート、どんまい。
「坊や、こういう奴は甘やかしちゃダメなんだよ。今まで悠長に暮らしてきたんだ、それもぜんぶ息子達のお陰でね」
「そんな……お婆ちゃん酷い! わたしだって一生懸命役に立とうと頑張ってるわよ!」
「何をだい? ただそこにある用意された簡単な仕事だ、お前が成して手に入れたものじゃない」
「いちおう、看板娘よ……」
來斗がアゲハを見据えて言う。
「ハァ、俺はアゲハに訊きたい事がある。お前、俺のことが好きなのか? ハッキリ言ってみろ」
「う、うん。わたしは來兄が好き、男として……ずっと言いたかった、お嫁さんにしてって」
私は身震いした。恥じらいもなく、いとも簡単に嫁という言葉を口にできるアゲハに。
その好きは本物なのか?
それとも私への当て付けか?
多分そうじゃない、生まれ持った貪欲がそう言わせているんだろう。男は全て自分のものだと思い込んでる、もう病的だな。
「そうか分かった。俺の嫁さんはキーナしかいない。変わることも、覆ることもない、諦めろ」
おっ、來斗も意外と言うねえ……。
「……アタシの入る余地も無いってこと?」
「余地? 隙間すら見当たらないな。俺の最も愛する女性はキーナひとりだ、これが言いたくてな」
「随分と言ってくれるじゃない、そんなの今だけよ、どうせそのうちわたしに靡くわ」
今だけか……そうかもしれない。でもさ、愛するより愛される難しさを私は知っているんだ。
だから今だけだっていい、愛される幸せを感じていたい、噛みしめていたいんだ。
誰が何と言おうとね。
「おいアゲハ、本当の愛も知らないくせに、今だけとかふざけんなよ、キーナへの想いは発展途上中なんだ、ピークがきたみたいに言うな!」
あのう、とても嬉しいんだけど、ちょっとヤケクソになってません?
「來斗さん、ちょっと言い過ぎでは? いちおう可愛がってきた妹なんでしょ?」
リーフ、芝居が上手すぎてなんかムカつく。
「そうだ、そうだ」
ルート、お前は手を抜くな、へたくそ。
「おや、坊や達、來斗にそんなこと言える立場なのかい? 笑っちゃうねぇ、ハ、ハ、ハ!」
えっ、桜ちゃん、台詞? アドリブ?
私は思わず桜ちゃんの顔を凝視してしまった。
桜ちゃんはニッコリ笑って頷いた。
なるほど、どうやら最終段階へ進むようだ。
多分、息子の死の真相を知るために、わざとアサシンであるふたりを矢面に立たせた。
おそらく桜ちゃんも來斗も、2年前の事件を調べていたのではないか。
來斗が直斗の作った資料を見て、随分と考え込んでいたのを覚えている。
もしかすると、事件と関係性の有りそうな人物の名前が載っていたのかもしれない。
もし、父親と同じ事件に携わっていたとしたら、一緒の現場にいた可能性は高い。來斗は自分が何かを見逃しているのではないかと考え始めた。
一方、桜ちゃんがアゲハに向ける怒りは憎悪に近い。既に確信めいたものを掴んでいると考えるのが妥当だろう。真相の鍵はリーフとルートが握っている、と睨んだからこその追撃か。
おそらく終演は近い。私に今できることはないのか、依頼を受けた時点で、桜ちゃんの苦しみに気付けなかったことがなんとも悔しい。
また頼ってはくれないか……。
「さてと、いい機会だ、これから無礼講といこうじゃないか。それぞれ溜まった垢を洗い流す時だ、言葉を選ばなくていい、思いの丈をぶち撒けよう」
私は思わず桜ちゃんに尋ねた。
「桜ちゃん、大丈夫か? 私にできることはない?もっと早く気付いていれば、すまない……」
「キーナさん謝らないでおくれよ、キーナさんは最善の方法を取ってくれた、本当に感謝してるんだ、アタシもゴッドマザーとして踏ん張るよ」
やはりまだお預けらしい。横で未だ戸惑う悪女が牙を剥くまで、様子見だ。
こうなったらとことんやり合え。
東御家と悪女のバトル再開だ。
桜ちゃんが反撃に出るようだ、私はそれを正当なものだと捉える。孫の存在というよりは、息子の死を確かめたいがゆえだろう。
依頼があった時、桜ちゃんはポリスより來斗を守ってほしいと言った。でも本当はポリスを潰してほしいと願っていた。西鎌が根本の原因ではなく、元凶はアゲハだと分かったからだ。
悪女に聖地を奪われるくらいなら、いっそ全て無くなればいい、そんな思いだったに違いない。
さあ、ここからはすべてアドリブだ――
「アゲハよ、看板娘はもう用済みだ、既に看板爺が居るからね。どこへでも好き所へお行きよ」
「えっ? どういうことお婆ちゃん?」
「これを機に独り立ちしろって言ってんのさ」
「わたしに出て行けって言うの? 何も知らない弱い女性を放り出すつもり?」
また余計な事を。降りかかる火の粉を自ら被っている、生娘振りもここまで見事だと圧巻だ。
「弱い? 笑わせるねぇ、アンタに尻尾を振る男はいくらでもいるだろうに。これ以上アタシらに関わってほしくないんだよ、さっさと出て行きな」
「マザーの言い分もわかります。でも一時はアゲハも家族だったのでは?」
リーフが意図的にアゲハを庇う。
「家族? ならどうしてその家族を死に追いやったのさ! 孫のためと思って黙ってきたが、息子の仇だ! 覚悟はいいか、このクソ魔女が!」
やはり息子の殉職にアゲハが一枚噛んでいたことを桜ちゃんは知っていた。
悲しいというよりも、無念というべきか。職務上とはいえ、嘸かし悔しかっただろう。
桜ちゃんはいつそれが分かったのか、私と会った時、いや、もっと前かもしれない。分かったうえで依頼を頼んだんだ。
当のアゲハは腕を組み、デンッと椅子に構えるその姿は正に魔女だ。
「フン、好きに呼べば。今更なんと思われようと後戻りはしたくない」
「アゲハよ、息子夫婦はあんたを普通の娘として育ててきたはずだがね、親父さんのためかい?」
えっ、親父とは? アゲハに父親が存在した? 新たな展開に困惑する――
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