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30話 傷み
しおりを挟む翌朝――
私と來斗はステーションへ向けて車を走らせていた。あの後、直斗が起きてきて事の成り行きを話すと、羨ましそうにリーフとルートを見て、自分が相談役になってやると息巻いていた。
それと、桜ちゃんが來斗のトップ就任と、結婚の話をポリス全体に周知しておくからそのつもりで、と言って帰っていった。
駐車場へ着くと、來斗が顔を隠せと言う。私は今更ながら思い出した、そう、女であることを隠したいと來斗に強いたことを。
車を駐めて降りたとき、來斗が私の手を取って歩き出した。その顔は少し淋しげに見えた。
「これくらいは良いだろ? 結婚したことはもう周知されてるんだ、相手がキーナだってことは隠したくないからね。これからずっと一緒だ」
「……う、うん」
どうしよう、胸が痛い――
「大丈夫だよ、任せとけって。ほら、行こう」
差し伸べられた手の温もりがあまりにも優しくて、このまま甘えていいものか、罪悪感が募る。
中へ入ると一斉に視線が集中した――
「あ、東御プレナリー、就任おめでとうございます、ウフフ。あ……あなたは」
受付嬢が私を見て何故か不快な顔をする。そしてまた横から受付嬢が來斗に近寄り挨拶をする。
相変わらず人気者だ。
「東御プレナリー、就任おめでとうございます! これからもよろしくお願いします!」
「ああ、ありがとう」
「あ、あの、そ、そちらの男性がもしや……」
「ん? ああ、俺のパートナーだ、よろしくな」
來斗が私をパートナーと言った。どっち付かずの差し障りのない言葉。
來斗のあの笑顔は本物だろうか、私はどこまで來斗に我慢を強いるんだ、この先もずっと?
違う、間違ってるよ、愛が嘘になってしまう。
ああ、私また間違いを犯すところだった、ふたりだけの問題じゃないのは分かってるのに。
自分が情けない、勇気は出すためにある!
私は眼鏡とマスクを外してニッコリ笑った。
「初めまして、女で妻の東御キーナです。主人がお世話になってます、オホホホ」
「な、なんて綺麗な男性……ん? 女? ええっと、では奥様と呼んでよろしいんですよね?」
「ハイ。誤解させるようなことを言ってごめんなさいね、これからよろしくお願いします」
「も、もちろんです! 男女問わずステキです!」
「キーナ、お前……」
なんだかスッキリした、來斗の頬に赤みがさして素敵な笑顔だ、やっぱり良い男はこうでなければ。
來斗、もう無理はさせない、ごめんね。
しかし來斗は公私混同が好きみたいで、受付嬢が見ている前で私を特別なハグで抱きしめる。
「グェッ! ちょ、ちょっと來斗ったら……」
「俺の最高の嫁さん、キーナ、ありがとう!」
「喜んで頂けて、よ、良かったです、うん」
「「「キャー! ステキーッ!」」」
この後の騒動は、言わずと知れた質問トーク。
私は何故か受付嬢に囲まれて、どうして男のフリをしたのかと、理由をアレコレと訊かれた。
私は素直に、男にナメられないためと伝えると、共感を得たのか、「女性である事は内緒にしておきます」と言ってくれた。
何だかもの凄く遠回りをした気分に襲われる。素直が近道って、またひとつ学んだ。
來斗の部屋は前トップの部屋を譲り受けた。
ドアに掲げるプレートには、新しいトップの名前が刻まれるらしい。
"東御來斗プレナリー"
來斗に"プレナリー"の意味を聞いてみると、「全権を有する」なんだとか。トップに相応しい称号だと私は思う。
「キーナ、さっきは嬉しかった。でもなぜ急に?」
「來斗が我慢するのが、我慢ならなかったから」
「俺のため?」
「來斗との間に嘘があるのが嫌だったからかね。私の勝手で傷付いて欲しくなかった、ごめんね」
「いいよ、愛してる、キーナ」
愛の言葉、ほんの少しでも不安は解消される代名詞。そのための言葉なら、私も使いたいと思う。
だが、時に刃を向く剣であることを忘れてはならないのだ。言葉にリスクは付きものである。
「ああ、なんかすごく幸せだ……」
「うん、私も……」
ラブラブモードが続く中、ドアを叩く音がした。
來斗がどうぞと招き入れる。あ、直斗。
「おっ、キーナ、こんなところに居た。下でスゲェ騒ぎになってんぞ、兄貴の嫁さんが凄いって」
「凄いって何が?」
「超美人だって。面白いのがさ、男でも良かったとか、理想のタイプとか、ありゃそのうちファンクラブでも作りそうだぞ」
「え……」
「アハハ! キーナのファンクラブかぁ」
ハァ、女心は分かりません。騒ぎが大きくならないことを願う。
「あ、そうだ兄貴、この書類にサインしてくれ、また来るからそれまでに頼んだよ~」
「まったく、慌しい奴だ。あれ? 直斗ちょっと記入漏れ……ああ、もう知らんぞ」
來斗が呼び止めたが、声は届かず直斗は行ってしまった。なので、暇な私が届けてやると言って、下の階へと書類を持って直斗の元へと向かった。
エレベーターに乗って、直斗の所属する部署の階で降りると、少し前を直斗が歩いているのが見えた、声を上げて呼び止める――
「直斗、おーい、直……」
どこからか刺すような視線。この凍るような冷たい視線は一体どこから……。
「あれ、キーナ、どうした?」
「えっ? ああ、直斗が出した書類、不備があるってさ。ちゃんと確認したのか?」
「えー、マジで? 分かった、直したらすぐ持ってくよ。わざわざ悪いな」
「暇だったからね。それと、ちょっと聞きたいんだけど、新しい人とかハンター関係者とかうろついてたりする?」
何となくだが、ここへ来てから誰かに見張られているような感じがしていた。
よく知りもしない私に、殺意に似た視線を送る理由を突き止めたかった。
「う~ん、ハンターは見た目じゃ分からないからなあ――ああ、同期がひとり異動してきたよ。就任パーティーの幹事だったと思うが、それが?」
「幹事? 親しいのか、その人と」
「西側に研修があった時、同じ班になって仲は良かったが、彼女とは別に何もないけど?」
女性かあ……。
「西側でその子に変わった様子とかは無かった?」
「ああ、噂みたいのはあったな、思い込みが激しいっていうの? ウザい奴ってさ」
なるほど、勘違いや思い込みか。私が直斗と親しく接しているからなのか、でもまだそうと決まったわけじゃない。
「そっか。お前も早く彼女でも作って落ち着け、悪いが私は売約済みだぞ、知ってるか。アハハ!」
私は直斗の頭をクシャクシャっとして揶揄った。変なやつには引っかかって欲しくない、そう思う。
「じゃ、直したら早く持って来いよ、じゃあね」
「ゲッ、上から目線かよ。ハァ、直したらすく持ってく、ありがとな、キーナ」
私は後ろに手を振ってエレベーターの前に来た。ピンッと到着の合図。
扉が開くと、女性がひとり降りてきた。
「あ、どうも……」
「あら、これは奥様。そうでした、就任パーティーのお店の地図です、渡しておきますね。ウフフッ」
なんだろう、この笑い方どこかで……。
「……これはどうも、助かります」
「ドンっ!」
受付嬢がいきなり体当たりしてきた、激痛が疾る、何が起こった――
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