16 / 16
16.幸せな日々がはじまります
しおりを挟む
私はあの後、アルペジオと共に竜人の里に帰ってきました。
聖女として国で迎えたいなんて言葉もありましたが、丁重にお断りしました。
王宮への呼び出しから、早くも数か月が経とうとしていました。
私とアルペジオの新しい生活は、すっかりそれが日常になっていました。
「不思議ですね」
「イリス嬢、どうしたんだ?」
「いえ、こうして当たり前のようにアルペジオ様と暮らしていること。人生なにがあるか分からないものですね」
私にとって守護竜とは、敬うべきものでした。
国を守護する神聖なもので、祈りの対象でしかなかったのです。
「ふっ、そうだな。我はいまだに夢かと疑ってしまうほどだ。憧れの祈りの少女と、こうして会話する日が来るとは、ほんとうに想像もしていなかった」
「……もう。お世辞を言っても何も出ませんよ?」
最近ではどれだけ心から雑念を振り払おうとしても、顔を思い浮かべるだけで守護竜様を大切に思う気持ちが溢れ出してしまいます。
一緒に居られて楽しい、もっと顔を見ていたい。
聖女としてはあるまじき願いが祈りに乗ってしまわぬように、私は気を引き締めるのでした。
否――
「お世辞などではない。最近のイリス嬢の祈りは――より魅力的になった。我の数少ない生きがいだ」
「ちょ――アルペジオ様!?」
その気持ちは、ばっちりアルペジオに届いてしまっているようでした。
やっぱり修行が足りないみたいです。
「あの、怒らないのですか? そんな個人的な感情を、祈りに乗せるなんてとんでもないって」
私は、おそるおそる尋ねます。
もっとも答えは分かり切っていますけどね。
私の祈りの何が良いのか、と尋ねたことがありました。
ここまで良くして頂いたなら、それに応えたいと自然に思ったのです。
しかし答えは「イリス嬢の祈りならなんでも良い」という、なんとも困ったものでした。
「何を怒る必要がある? 我がなにより、それを好んでいるのだ」
答えるアルペジオ様は、実にだらしない笑みを浮かべました。
王宮で人々を震え上がらせた凛々しい姿とは似ても似つかない姿に、私は目を丸くしてしまいます。
もっともそれすらも、今では日常の一部。
感謝の気持ちを口にするのは恥ずかしいです。
それならこれからも祈りに乗せて――いいえ、それは少しばかり卑怯ですね。
「アルペジオ様。私、ここに来られて良かったです。『守護竜』があなたで、本当に良かったです――いつもありがとうございます」
「イリス嬢? いきなりどうしたのだ?」
「――おほん。何でもありません、少しだけお礼を言いたい気分だっただけです」
私は赤くなった顔を隠すように、スープを口に運びます。
アルペジオは驚いたように目を見開き、徐々にその表情を綻ばせました。
そんな様子を見て、私はちょっとだけ満足します。
――いつも彼の言うことには、驚かされてばかり
――だからこれは、ささやかなお返しです!
祈りに悶えているアルペジオの姿を未だに知らないイリスは、そんなことを考えていました。
きっとこれすらも、新たな日常になっていくのでしょう。
――私たちの幸せな生活は、まだ始まったばかりなのですから。
聖女として国で迎えたいなんて言葉もありましたが、丁重にお断りしました。
王宮への呼び出しから、早くも数か月が経とうとしていました。
私とアルペジオの新しい生活は、すっかりそれが日常になっていました。
「不思議ですね」
「イリス嬢、どうしたんだ?」
「いえ、こうして当たり前のようにアルペジオ様と暮らしていること。人生なにがあるか分からないものですね」
私にとって守護竜とは、敬うべきものでした。
国を守護する神聖なもので、祈りの対象でしかなかったのです。
「ふっ、そうだな。我はいまだに夢かと疑ってしまうほどだ。憧れの祈りの少女と、こうして会話する日が来るとは、ほんとうに想像もしていなかった」
「……もう。お世辞を言っても何も出ませんよ?」
最近ではどれだけ心から雑念を振り払おうとしても、顔を思い浮かべるだけで守護竜様を大切に思う気持ちが溢れ出してしまいます。
一緒に居られて楽しい、もっと顔を見ていたい。
聖女としてはあるまじき願いが祈りに乗ってしまわぬように、私は気を引き締めるのでした。
否――
「お世辞などではない。最近のイリス嬢の祈りは――より魅力的になった。我の数少ない生きがいだ」
「ちょ――アルペジオ様!?」
その気持ちは、ばっちりアルペジオに届いてしまっているようでした。
やっぱり修行が足りないみたいです。
「あの、怒らないのですか? そんな個人的な感情を、祈りに乗せるなんてとんでもないって」
私は、おそるおそる尋ねます。
もっとも答えは分かり切っていますけどね。
私の祈りの何が良いのか、と尋ねたことがありました。
ここまで良くして頂いたなら、それに応えたいと自然に思ったのです。
しかし答えは「イリス嬢の祈りならなんでも良い」という、なんとも困ったものでした。
「何を怒る必要がある? 我がなにより、それを好んでいるのだ」
答えるアルペジオ様は、実にだらしない笑みを浮かべました。
王宮で人々を震え上がらせた凛々しい姿とは似ても似つかない姿に、私は目を丸くしてしまいます。
もっともそれすらも、今では日常の一部。
感謝の気持ちを口にするのは恥ずかしいです。
それならこれからも祈りに乗せて――いいえ、それは少しばかり卑怯ですね。
「アルペジオ様。私、ここに来られて良かったです。『守護竜』があなたで、本当に良かったです――いつもありがとうございます」
「イリス嬢? いきなりどうしたのだ?」
「――おほん。何でもありません、少しだけお礼を言いたい気分だっただけです」
私は赤くなった顔を隠すように、スープを口に運びます。
アルペジオは驚いたように目を見開き、徐々にその表情を綻ばせました。
そんな様子を見て、私はちょっとだけ満足します。
――いつも彼の言うことには、驚かされてばかり
――だからこれは、ささやかなお返しです!
祈りに悶えているアルペジオの姿を未だに知らないイリスは、そんなことを考えていました。
きっとこれすらも、新たな日常になっていくのでしょう。
――私たちの幸せな生活は、まだ始まったばかりなのですから。
68
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(22件)
あなたにおすすめの小説
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
わたくしを追い出した王太子殿下が、一年後に謝罪に来ました
柚木ゆず
ファンタジー
より優秀な力を持つ聖女が現れたことによってお払い箱と言われ、その結果すべてを失ってしまった元聖女アンブル。そんな彼女は古い友人である男爵令息ドファールに救われ隣国で幸せに暮らしていたのですが、ある日突然祖国の王太子ザルースが――アンブルを邪険にした人間のひとりが、アンブルの目の前に現れたのでした。
「アンブル、あの時は本当にすまなかった。謝罪とお詫びをさせて欲しいんだ」
現在体調の影響でしっかりとしたお礼(お返事)ができないため、最新の投稿作以外の感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
【完結】何でも欲しがる妹?お姉様が飽き性なだけですよね?
水江 蓮
ファンタジー
「あれは…妹が…アンリが欲しがったから…渡すしかなかったんです…。お父様、新しいドレスをお願いします。ドレスも宝石も欲しいと言われたら…姉として渡すしかなくて…」
お姉様は泣きながらお父様に伝えております。
いえ…私1つも欲しいなんて言ってませんよね?
全てはお姉様が要らなくなっただけですよね?
他サイトにも公開中。
義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います
成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。
家族の靴を磨いていた私が、実は【神の加護を磨き上げた聖女】だった件。隣国の冷徹皇帝に「君の献身は世界を救う」と誘拐、24 執着されています
唯崎りいち
恋愛
「お前は一生、靴でも磨いていろ」
家族に虐げられ、靴を磨き続けた私。
実はその靴、磨くたびに『神の加護』が宿る聖具になっていました。
噂を聞きつけた隣国の冷徹皇帝に、出会い頭にさらわれて――
「君は俺のものだ。24時間、指一本触れさせない」
靴を履かせてもらえず、移動は常に皇帝の腕の中!?
磨き上げた加護のせいで、皇帝の執着が神レベルに育ってしまう溺愛物語。
【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました
冬月光輝
恋愛
代々魔術師の名家であるローエルシュタイン侯爵家は二人の聖女を輩出した。
一人は幼き頃より神童と呼ばれた天才で、史上最年少で聖女の称号を得たエキドナ。
もう一人はエキドナの姉で、妹に遅れをとること五年目にしてようやく聖女になれた努力家、ルシリア。
ルシリアは魔力の量も生まれつき、妹のエキドナの十分の一以下でローエルシュタインの落ちこぼれだと蔑まれていた。
しかし彼女は努力を惜しまず、魔力不足を補う方法をいくつも生み出し、教会から聖女だと認められるに至ったのである。
エキドナは目立ちたがりで、国に一人しかいなかった聖女に姉がなることを良しとしなかった。
そこで、自らの家宝の杖を壊し、その罪を姉になすりつけ、彼女を実家から追放させた。
「無駄な努力」だと勝ち誇った顔のエキドナに嘲り笑われたルシリアは失意のまま隣国へと足を運ぶ。
エキドナは知らなかった。魔物が増えた昨今、彼女の働きだけでは不足だと教会にみなされて、姉が聖女になったことを。
ルシリアは隣国で偶然再会した王太子、アークハルトにその力を認められ、宮廷ギルド入りを勧められ、宮仕えとしての第二の人生を送ることとなる。
※旧タイトル『妹が神童だと呼ばれていた聖女、「無駄な努力」だと言われ追放される〜「努力は才能を凌駕する」と隣国の宮廷ギルドで証明したので、もう戻りません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
、、、、、完結してた(´・ω・`)
退会済ユーザのコメントです
すいません、修正します!
あれ?
元婚約者の末路は?