3 / 32
3. まさか、こんなところまでスカウトに!?
しおりを挟む
「ティファニア様、俺はこの国のいち結界師に過ぎません。
エルフの里の王族が、そんな気軽に抱きついてはいけません」
俺は世迷いごとを言うエルフの少女――ティファニアを、メリメリと引っぺがす。特徴的な金髪のロングヘアが、ふわりと俺をくすぐった。
「でも追放されたのでしょう? おめでとうございます!
旦那さまとは夫婦になるんですから、何も問題ありません!」
この少女はこう見えても、エルフの里を束ねる王の娘である。エリーゼもティファニアも黙って立っていれば王族の貫禄があるのに、喋りだすと残念な感じになるのは何故なのか。
「このバカエルフ! その胸の飾りで、リット様を誘惑するのはやめなさいよ。
リット様は、私たち獣人族の集落に住むんだから!」
ぷくっと頬を膨らませたのは、ティファニアと同時に入ってきた獣人族の少女――リーシア。もふもふのしっぽが楽しげに、ふわふわと揺れている。こう見えて廃れかけた一族を救うために日々を全力で生きる努力家だ。無邪気にティファニアと言い争っているところを見ると、そうは見えないけどな。
「ティファニアもリーシアも、そんなに迫ったらリットさんが困っとるで?
リットさんの力はドワーフ族の鍛冶スキルと合わせて、ようやく真の力を発揮するんや。な、リットさん?」
おい、こっちに振るな。
ティファニアたちの目線が、どうにも怖いんだが。
こちらを覗き込んできたのは、ドワーフ族の小柄な少女。名はエマ。背負うのは身長に不釣り合いな巨大なハンマー。鍛冶スキル一本で鍛冶連合のリーダーまで上り詰めた本格派の職人――鍛冶師・エマと言えば、遠く離れたこの地でも知る人ぞ知る有名人だ。
「ごめん。昔、ティファニアと、もしもの時はエルフの里で世話になると約束してしまったからさ。リーシアとエマも気持ちは、本当にありがたいんだけどさ……」
まさかこんなところまで来るとは、夢にも思っていなかった。いや、わざわざ俺をスカウトに来たと思うのは、いくらなんでも自惚れが過ぎるか。わざわざクビを宣告されそうな日程を調べてまで、乗り込んでくるとも思えない。
「旦那さま! 覚えていて下さったんですね、嬉しいです!」
ティファニアがまた抱きつこうとしてくるので、くるりと回避。アリーシャの視線も怖いしな。
「残念、先を越されちゃったか」
「エルフの里に飽きたら、ウチらはいつでもリットさんを歓迎するで?」
幸いリーシアもエマも、たいして気にしていない様子だった。
ほっとしたが彼女たちの優しさに甘えてはいけないよな。何か依頼されたら最優先で応えるとしよう。
「エルフの里の王族に、ドワーフ鍛冶連合の代表に、獣人族の族長まで……」
「しかもあれほど親しげな様子で……」
「あのリットとかいう結界師、いったい何者なんだ?」
謁見の間に集められた人々が、にわかに騒ぎ始めた。
「なっ なっ なっ!?」
中でもエリーゼの慌てようは、見ていて可哀想になるほどだった。口をパクパクとさせて俺とティファニアたちとの間で視線を彷徨わせ、やがてはこちらをキッと睨む。
ツカツカと歩み寄ってきて、俺の腕を掴もうとしたところで――
「あなたがエリーゼさんですね。お噂はかねがね――」
「はじめまして、ティファニア様。
遠いエルフの里まで、私の名前が知られているのは光栄です」
立ちふさがったのはティファニアだった。
「ええ。あなたのことは、よ~く知っていますよ。
世界の宝とも言える旦那さまを国に閉じ込めて、不当な契約を押し付けてこき使った――悪人としてね」
「なっ、なんですって!?」
何か言いかけたエリーゼだったが、ティファニアの冷たい視線にさらされ、気圧されたように黙り込んでしまう。王族としての格の違い。ティファニアはこの一瞬の間で、わがまま王女を黙らせてみせたのだ。
エルフの里の王族が、そんな気軽に抱きついてはいけません」
俺は世迷いごとを言うエルフの少女――ティファニアを、メリメリと引っぺがす。特徴的な金髪のロングヘアが、ふわりと俺をくすぐった。
「でも追放されたのでしょう? おめでとうございます!
旦那さまとは夫婦になるんですから、何も問題ありません!」
この少女はこう見えても、エルフの里を束ねる王の娘である。エリーゼもティファニアも黙って立っていれば王族の貫禄があるのに、喋りだすと残念な感じになるのは何故なのか。
「このバカエルフ! その胸の飾りで、リット様を誘惑するのはやめなさいよ。
リット様は、私たち獣人族の集落に住むんだから!」
ぷくっと頬を膨らませたのは、ティファニアと同時に入ってきた獣人族の少女――リーシア。もふもふのしっぽが楽しげに、ふわふわと揺れている。こう見えて廃れかけた一族を救うために日々を全力で生きる努力家だ。無邪気にティファニアと言い争っているところを見ると、そうは見えないけどな。
「ティファニアもリーシアも、そんなに迫ったらリットさんが困っとるで?
リットさんの力はドワーフ族の鍛冶スキルと合わせて、ようやく真の力を発揮するんや。な、リットさん?」
おい、こっちに振るな。
ティファニアたちの目線が、どうにも怖いんだが。
こちらを覗き込んできたのは、ドワーフ族の小柄な少女。名はエマ。背負うのは身長に不釣り合いな巨大なハンマー。鍛冶スキル一本で鍛冶連合のリーダーまで上り詰めた本格派の職人――鍛冶師・エマと言えば、遠く離れたこの地でも知る人ぞ知る有名人だ。
「ごめん。昔、ティファニアと、もしもの時はエルフの里で世話になると約束してしまったからさ。リーシアとエマも気持ちは、本当にありがたいんだけどさ……」
まさかこんなところまで来るとは、夢にも思っていなかった。いや、わざわざ俺をスカウトに来たと思うのは、いくらなんでも自惚れが過ぎるか。わざわざクビを宣告されそうな日程を調べてまで、乗り込んでくるとも思えない。
「旦那さま! 覚えていて下さったんですね、嬉しいです!」
ティファニアがまた抱きつこうとしてくるので、くるりと回避。アリーシャの視線も怖いしな。
「残念、先を越されちゃったか」
「エルフの里に飽きたら、ウチらはいつでもリットさんを歓迎するで?」
幸いリーシアもエマも、たいして気にしていない様子だった。
ほっとしたが彼女たちの優しさに甘えてはいけないよな。何か依頼されたら最優先で応えるとしよう。
「エルフの里の王族に、ドワーフ鍛冶連合の代表に、獣人族の族長まで……」
「しかもあれほど親しげな様子で……」
「あのリットとかいう結界師、いったい何者なんだ?」
謁見の間に集められた人々が、にわかに騒ぎ始めた。
「なっ なっ なっ!?」
中でもエリーゼの慌てようは、見ていて可哀想になるほどだった。口をパクパクとさせて俺とティファニアたちとの間で視線を彷徨わせ、やがてはこちらをキッと睨む。
ツカツカと歩み寄ってきて、俺の腕を掴もうとしたところで――
「あなたがエリーゼさんですね。お噂はかねがね――」
「はじめまして、ティファニア様。
遠いエルフの里まで、私の名前が知られているのは光栄です」
立ちふさがったのはティファニアだった。
「ええ。あなたのことは、よ~く知っていますよ。
世界の宝とも言える旦那さまを国に閉じ込めて、不当な契約を押し付けてこき使った――悪人としてね」
「なっ、なんですって!?」
何か言いかけたエリーゼだったが、ティファニアの冷たい視線にさらされ、気圧されたように黙り込んでしまう。王族としての格の違い。ティファニアはこの一瞬の間で、わがまま王女を黙らせてみせたのだ。
1
あなたにおすすめの小説
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる