え、宮廷【結界師】として国を守ってきたのにお払い箱ですか!? 〜結界が破られ国が崩壊しそうだから戻って来いと言われても『今さらもう遅い』~

アトハ

文字の大きさ
7 / 32

7. 【王国SIDE】エリーゼ、絶望する

しおりを挟む
 どうにか気を持ち直した私は、リステン辺境伯のもとに伝令に走るよう指示。


「ついに――王都から救援が届いたぞ!」
「助かったのか……!」

 歓声が上がる。モンスターが続々と湧き出す絶望的な戦況で、王国への救援要請はまさしく最後の希望だったのだろう。


「そ、それで結界師様は?」
「もういないわ」

「は? それはどういう……」

 リステン辺境伯に開口一番聞かれたのは、例の詐欺師の所在。王女である私がわざわざ駆けつけたのに、なんて失礼なのかしら。

「あいつは詐欺罪で、国外追放されたわ」
「詐欺罪、よりにもよって国外追放だと? わ、わけが分からん。
 国の守りのかなめを……我が国は、いったい何を考えているのだ?」

 リステン辺境伯の顔には、心底理解できないと書かれていた。待ち望んだ救援が来たはずなのに、その顔に浮かぶのは喜びではなく絶望。

 ここの人たちは、どうやらあの詐欺師に騙されているようだ。目を覚まさせないといけない。


「皆のもの、よく戦いました。
 聖女である私が来たからには、もう大丈夫です! この程度のモンスター、私の光魔法で一掃して――」

 高らかに声を張り上げる。
 純白の衣に、見栄えのする錫杖。国の英雄となる聖女の姿はインパクトが重要だ。侵入したモンスターを殲滅した手柄を大々的に宣伝するため、随分とお金をかけた。
 それなのに――
 

「結界師様がいらっしゃらないなら無意味だ。
 ……王女様を傷つけたとあっては、末代までの恥でございます。さあ、お下がりください」
「な!? 私は聖女よ、戦えるわ!」

 まるで取り合ってもらえない。
 遠目に見ているだけでも、思わず足が震えそうになるほど膨大なモンスターの群れ。リステン辺境伯は、その群れを相手取る覚悟を決めたようだった。



「結界の手ほどきを受けたものは、どれだけいる?」
「リット様の講座に出ていたのは、私を含めて5人。心もとないが……やるしかない」

 私を抜きにして、作戦会議がどんどん進んでいく。聖女である私が目の前にいるのに、話題に上がるのはあの詐欺師ばかり。そんなのは許せなかった。


「エリーゼ近衛隊、私に続きなさい!」
「姫、お待ちください!」

 止める声など聞こえない。
 ここで多大な戦果を上げて、華々しく王都に凱旋する。そんな華々しい未来を疑いようもない。そう思っていたのだが――


「ひっ、なによこれ」

 モンスターと対峙して気づく。
 体中に紅い目を持つ、あまりに禍々しい風貌。ぎろりと見据えられるだけで、体が震えた。聖女としての力を行使する余裕などない。吞気に神に祈りを捧げてなどいられなかった。

 思わず後ずさる。
 ここは……戦場を知らない人間が、決して挑んではいけない場所だ。



 それからどうやって、今いる安全地帯に戻ったのかは覚えていない。恥も外聞もなく泣き叫んだ気がする。

「結界師を、詐欺師だなんて罵って追い出しておいて。
 それなのに、このざまか」

 そんな声なき声が、聞こえてくるようだ。聖女の力があれば国は安泰など、いったいどの口が言っていたのか。


「エリーゼ様。結界師リットは、ほんとうにただの詐欺師だったのですよね?」
「結界に空いた穴。湧き出るモンスター……」
「これではまるで――」

 私を信じて付いてきた、近衛隊の視線が痛い。
 その視線には疑心の色が濃い。


「これはただの事故よ。結界師の追放とは何も関係がない――そう、あるわけがない」

 私の言葉には、なんの説得力もなかった。なかば自分自信に言い聞かせるように。胸の奥にずっとある嫌な予感――それに向き合ったら何かが終わってしまう気がしたから。
 

 呆然と見つめる私の前で、リステン辺境伯らがモンスター相手に激戦を繰り広げていた。モンスターの大群をひきつけ、少人数の精鋭が結界に空いた穴に向かって押し寄せる。巧みな連携だった。
 リステン辺境伯たちは激戦の末、モンスターを封じ込め、結界を修復してみせた。


(ここまで活躍されては、褒賞を与えないわけにはいかない。私はなんの戦果もあげられてないし――なんの意味もない遠征だったわね)

 そんなことを考えていた私は、まだことの重大さを認識できていなかった。


「大儀でした。国に帰ったら恩賞を与えるよう父に――」
「我らはもう、この国を信じられない。
 長年、国に忠誠を尽くしてきたリット様を――結界師の一族を裏切るようなことをするなんて」

 戻ってきたリステン伯爵は、開口一番そう言った。そして、忠義の証とされた勲章を地面に投げ捨てた。
 それは貴族籍を返上するという意思表示。

「な、何をしているのですか?」
「わしらはこの地を捨てて、エルフの里へと向かう。我らが忠誠を捧げるのは、後にも先にもリット様だけだ」

 そんなことになったら、この地を守る者がいなくなってしまうではないか。


「な、何がのぞみかしら?
 金銀財宝、亜人族の奴隷――なんでも用意するわ」
「失望したよ、エリーゼ様。我らは……そのようなもので動くと思われていたのだな? 我らは誇りのために戦ってきた。この国に望むことなど、もはや何もない」

 リステン辺境伯は、まるであらかじめこの状況を予測していたようだった。決意は固い。取り付く島もなかった。

(なにが、誇りのためよ……)

 王国への敬意を欠いた行為。
 反逆罪で引っ捕らえようと思えば、連行することはできるかもしれないが……あまり、得策だとは思えなかった。客観的に見て、リステン辺境伯たちは今回の騒動では英雄だ。下手に扱うと、一気に民の心が離れてしまう可能性がある。


(今回のこと、どう説明しよう……)

 大失態だった。
 結界師・リット。ようやく一件落着だと思ったら、今度はこんな問題まで引き起こすなんて。ほんっとに忌々しいやつね。


 私は、まだ何も知らなかったのだ。
 結界師・リットを追放したことで、すでに王国を見限った者も少なくなかったことを。結界のほころびは、取り返しがつかないレベルになっていることを。

 ほんとうの地獄がここからはじまることを、私はまだ――なにも知らなかったのだ。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

貧乏神と呼ばれて虐げられていた私でしたが、お屋敷を追い出されたあとは幼馴染のお兄様に溺愛されています

柚木ゆず
恋愛
「シャーリィっ、なにもかもお前のせいだ! この貧乏神め!!」  私には生まれつき周りの金運を下げてしまう体質があるとされ、とても裕福だったフェルティール子爵家の総資産を3分の1にしてしまった元凶と言われ続けました。  その体質にお父様達が気付いた8歳の時から――10年前から私の日常は一変し、物置部屋が自室となって社交界にも出してもらえず……。ついには今日、一切の悪影響がなく家族の縁を切れるタイミングになるや、私はお屋敷から追い出されてしまいました。  ですが、そんな私に―― 「大丈夫、何も心配はいらない。俺と一緒に暮らそう」  ワズリエア子爵家の、ノラン様。大好きな幼馴染のお兄様が、手を差し伸べてくださったのでした。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...