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13. 不出来な妹だが、どうか大切にしてやって欲しい
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俺はマジックサークルを、目的の位置へと配置する。
「ティファニア、少しだけ魔力を強めて、もう1回頼めるか?」
「こ、こう?」
ふむ、思ったとおり流れる魔力が真っ直ぐになったな。マジックサークルだけでも、十分に効果がありそうだ。
「火の魔力を込めて、もう1回」
「……旦那さまの意地悪。私、火の魔力なんて使えませんよ。お兄さま、パスです!」
先ほどまで騒いでいたフェアラスは、俺が結界に向き合い作業を始めるとすっかり黙り込んでいた。術式の編集中に、集中力を乱されてたまらないからな、ありがたい話だ。
フェアラスは静かに火の魔力を練り上げ、結界に流し込む。
「これで良いか?」
「ああ、バッチリだ。エルフは火魔法が苦手だと聞いていたが、上手いものだな?」
「あれほどのマジックサークルを見せつけておいて、それは皮肉か?」
先ほどまでの敵意がウソのように、フェアラスは苦笑いを浮かべた。
エルフは一般的に風魔法を得意とし、火魔法は不得手とする者が多い。種族による適正を乗り越えるのは、並大抵の努力ではない。純粋に誉めているんだけどな。
さてと、こんなもんだろうか。
適切な場所にマジックサークルを仕込んだおかげで、ずいぶんと結界の維持に必要な魔力も減らせたはずだ。効果内は何も手を入れられてないし、もちろん応急処置に過ぎないけどな。
「ティファニア、試しにいつもやってるみたいに結界に魔力を注ぎ込んでくれないか? 魔力のとおりが良くなって、少ない魔力で結界全体に魔力が行き渡るようになったはずだ」
ちなみに定期的に結界に魔力を注いで、効果を発動させるのが結界師の最も基本的な仕事である。それをいかに効率的にこなすかが、結界師の腕の見せ所ともいえる。術式の編集もその一環であった。
「旦那さま、さすがに私だけで結界に魔力を通すのは無理ですよ」
「そうか? まあ、やってみてくれ」
涙目でティファニアが言う。いやいや、これぐらいの規模ならティファニアの魔力量があれば十分だと思うぞ?
「うう、旦那さまのケタ外れな魔力量を基準にしないでくださいよ」
そう言いながらも、ティファニアは結界に魔力を通し――驚きに目を見開いた。
「あ、あれ? 本当に結界全体に魔力が届いちゃったよ!」
「そ、そんなバカな!?」
ティファニアが魔力を通した跡を見て、フェアラスが驚愕の声を上げる。いや、ある程度の術式最適化をしてやれば当然だろう。何をそんなに驚いているんだろうか?
「に、人間! 私が魔力を通しても大丈夫か?」
「なぜ俺に確認を取る? もちろん、自由にして構わないぞ」
俺に確認をとったフェアラスが、おそるおそるといった様子で結界に魔力をそそぎ込んだ。はじめは様子を見るために少しだけ、やがては大胆に。
その顔には、隠しきれない驚きと興奮が浮かんでいた。
やれやれ、これで一件落着か。
「魔力を過剰に注いでも、別に効果が上がったりはしませんよ?」
俺はフェアラスに近づき、そう話しかけた。
「ウソだろう……?
本当に少し魔力を注いだだけで、結界全体が活性化してしまった。人間、貴様は本当に何者なんだ?」
「リットだ。王国をクビになった――今はフリーの結界師だ」
今更ながらの自己紹介。
「今まで失礼なことを言ってすまなかった。
頼む、このとおりだ! 里で出来ることは何でもする! リット様、どうかずっとここにいてくれ!」
「……ああ、うん。その話は、もうとっくに済んでますよ」
ティファニアが俺の腕にしがみつき、フェアラスに向かってベーッと舌を出した。
「ティファニア、お手柄だぞ!」
「お兄さまは、旦那さまに失礼な態度を取ったことをうんと反省して!」
「……本当に面目ない」
フェアラスは妹にペコペコと頭を下げていた。普段の力関係がなんとなく推測できようというもの。俺が生暖かい目でその様子を眺めていると、フェアラスがふっと姿勢を改めて、こちらに向き直った。
「リット様。不出来な妹だが、どうか大切にしてやって欲しい」
(……うん?)
フェアラスは頭を深々と下げながら、そんなことを言った。これからもエルフの里の結界の面倒は見るつもりだが、いったいどういうことだ?
「ティファニア~!? どさくさに紛れて、なに外堀を埋めにかかってるんですか! 師匠のことは渡しませんよ」
「そうですよバカエルフ! 抜け駆けはずるいですよ!」
「そやそや、リットさんはこんな小さな里で生涯を終える方やあらへん。ウチみたいな鍛冶職人と組んで、いずれは革命を起こすんや!」
「ふっふっふ~。権力は使ってナンボなんですよ~!」
わいわいと楽しそうに言い合うティファニアたち。ふむ、仲が良さそうで何よりだ。
「ティファニア、少しだけ魔力を強めて、もう1回頼めるか?」
「こ、こう?」
ふむ、思ったとおり流れる魔力が真っ直ぐになったな。マジックサークルだけでも、十分に効果がありそうだ。
「火の魔力を込めて、もう1回」
「……旦那さまの意地悪。私、火の魔力なんて使えませんよ。お兄さま、パスです!」
先ほどまで騒いでいたフェアラスは、俺が結界に向き合い作業を始めるとすっかり黙り込んでいた。術式の編集中に、集中力を乱されてたまらないからな、ありがたい話だ。
フェアラスは静かに火の魔力を練り上げ、結界に流し込む。
「これで良いか?」
「ああ、バッチリだ。エルフは火魔法が苦手だと聞いていたが、上手いものだな?」
「あれほどのマジックサークルを見せつけておいて、それは皮肉か?」
先ほどまでの敵意がウソのように、フェアラスは苦笑いを浮かべた。
エルフは一般的に風魔法を得意とし、火魔法は不得手とする者が多い。種族による適正を乗り越えるのは、並大抵の努力ではない。純粋に誉めているんだけどな。
さてと、こんなもんだろうか。
適切な場所にマジックサークルを仕込んだおかげで、ずいぶんと結界の維持に必要な魔力も減らせたはずだ。効果内は何も手を入れられてないし、もちろん応急処置に過ぎないけどな。
「ティファニア、試しにいつもやってるみたいに結界に魔力を注ぎ込んでくれないか? 魔力のとおりが良くなって、少ない魔力で結界全体に魔力が行き渡るようになったはずだ」
ちなみに定期的に結界に魔力を注いで、効果を発動させるのが結界師の最も基本的な仕事である。それをいかに効率的にこなすかが、結界師の腕の見せ所ともいえる。術式の編集もその一環であった。
「旦那さま、さすがに私だけで結界に魔力を通すのは無理ですよ」
「そうか? まあ、やってみてくれ」
涙目でティファニアが言う。いやいや、これぐらいの規模ならティファニアの魔力量があれば十分だと思うぞ?
「うう、旦那さまのケタ外れな魔力量を基準にしないでくださいよ」
そう言いながらも、ティファニアは結界に魔力を通し――驚きに目を見開いた。
「あ、あれ? 本当に結界全体に魔力が届いちゃったよ!」
「そ、そんなバカな!?」
ティファニアが魔力を通した跡を見て、フェアラスが驚愕の声を上げる。いや、ある程度の術式最適化をしてやれば当然だろう。何をそんなに驚いているんだろうか?
「に、人間! 私が魔力を通しても大丈夫か?」
「なぜ俺に確認を取る? もちろん、自由にして構わないぞ」
俺に確認をとったフェアラスが、おそるおそるといった様子で結界に魔力をそそぎ込んだ。はじめは様子を見るために少しだけ、やがては大胆に。
その顔には、隠しきれない驚きと興奮が浮かんでいた。
やれやれ、これで一件落着か。
「魔力を過剰に注いでも、別に効果が上がったりはしませんよ?」
俺はフェアラスに近づき、そう話しかけた。
「ウソだろう……?
本当に少し魔力を注いだだけで、結界全体が活性化してしまった。人間、貴様は本当に何者なんだ?」
「リットだ。王国をクビになった――今はフリーの結界師だ」
今更ながらの自己紹介。
「今まで失礼なことを言ってすまなかった。
頼む、このとおりだ! 里で出来ることは何でもする! リット様、どうかずっとここにいてくれ!」
「……ああ、うん。その話は、もうとっくに済んでますよ」
ティファニアが俺の腕にしがみつき、フェアラスに向かってベーッと舌を出した。
「ティファニア、お手柄だぞ!」
「お兄さまは、旦那さまに失礼な態度を取ったことをうんと反省して!」
「……本当に面目ない」
フェアラスは妹にペコペコと頭を下げていた。普段の力関係がなんとなく推測できようというもの。俺が生暖かい目でその様子を眺めていると、フェアラスがふっと姿勢を改めて、こちらに向き直った。
「リット様。不出来な妹だが、どうか大切にしてやって欲しい」
(……うん?)
フェアラスは頭を深々と下げながら、そんなことを言った。これからもエルフの里の結界の面倒は見るつもりだが、いったいどういうことだ?
「ティファニア~!? どさくさに紛れて、なに外堀を埋めにかかってるんですか! 師匠のことは渡しませんよ」
「そうですよバカエルフ! 抜け駆けはずるいですよ!」
「そやそや、リットさんはこんな小さな里で生涯を終える方やあらへん。ウチみたいな鍛冶職人と組んで、いずれは革命を起こすんや!」
「ふっふっふ~。権力は使ってナンボなんですよ~!」
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