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14. 部屋割りは戦争です!

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 その後、フェアラスと別れた俺たちは、ティファニアの案内する宿に向かっていた。

「エルフの里を訪れる人はあまりいません。宿の利用者も、滅多に居ないんですよ」
「その割には、随分と手入れが行き届いているな。使っていて落ち着く――良い宿じゃないか」

 宿の中に案内された俺は、第一印象を口にする。木の暖かさと暖色の灯りが、なんとも心地よかった。

「気に入って頂けたようで良かったです! この里に招くのは、重要な人物だけです。ここは大切なお客様をもてなすための、重要な場所なんですよ?」

 ティファニアはそう呟き、笑みを浮かべた。
 そのままカウンターに向かうと、帳簿に何かを書き込み、棚の中からガサゴソと何かを取り出した。そして、いそいそと戻ってくる――その手には、いくつかの鍵が握られていた。

「何してるんだ?」
「客人のおもてなしは、私に任せて欲しいと頼み込んだんです。つまり今日だけは、私がこの宿のおかみですよ!」

 えっへん! と効果音が付きそうな態度で、ティファニアがドヤ顔を浮かべる。随分と張り切っているようだ――空回りしないことを祈っておこう。


「なんだか、不安だな」
「旦那さま、ひどいです!」

 ぷんすかと怒りながら、ティファニアは俺に何かを差し出してきた。

「こちらが旦那さまの部屋の鍵です。それでこっちはアリーシャさんたちの分! それでは、さっそくこの宿について説明を……ええっと。あちらは忙しそうですかね?」

 ティファニアがジトーっとした目を向けた先には――


「見てください、師匠! この照明、利用者の魔力に反応して光ってますよ!?」
「な、なんやここの木材!? このレベルの素材を使えば、風魔法をベースとする魔道具の常識が書き変わるで!」

 照明を発生させる術式の前でピョコピョコと跳ねるアリーシャと、未知の木材を前に好奇心を抑えきれないエマ。まるでティファニアの説明を聞こうという意思を感じなかった。

「落ち着け、アリーシャ。それぐらいの現象なら、結界を使っても出来る。後で教えてやるから……」
「え、本当ですか!? 私なんて仕組みの想像もつかないのに――約束ですからね!」

 アリーシャは、パッと顔を表情を明るくする。

「エマも未知の素材が気になるのは分かる。でも今はそこまでにして、ティファニアの説明を聞こうな?」

 ティファニアが、ぷくーっと膨れてるし。

「そうやな。ティファニアさん、後で交渉させてな?」

(エマ、空気読んで!)

 それぞれの興味の赴くままに行動していた彼女たちだったが、

「それで……部屋割りはどうするの?」

 リーシアのその一言で、空気が激変した。



「師匠と相部屋になるのは、やっぱり一番弟子である私が良いと思うんです」
「リットさんには、今後ウチで扱う商品についての相談に乗ってもらいたい思ってたんや。またとない商談のチャンス、逃さへんで!」
「今日こそ、リット様に恩返しするチャンス。部屋割りは戦争です! お姉ちゃんが言ってました!」

 部屋割りに関して、3人は何やら熱く語り合っていた。バチバチっと視線が交錯する。俺だけ蚊帳の外に置かれて、ちょっと寂しい。



「盛り上がってるとこ悪いですが、旦那さまはもちろん1人部屋です! この宿で不健全なことは許しませんよ!?」

 部屋割りの盛り上がりを羨んでいたら、1人部屋に隔離されてしまった。まあ年頃の男女が同じ部屋で寝泊まりするのも不味いだろうし、当たり前だな。

「そうですか。今日こそ師匠とのお泊まり会を楽しもうと思ったのに。残念です」
「でも私、考えてみれば、こういうお泊まり会って経験ないです。楽しみです! ティファニアにも入ってもらって、部屋はじゃんけんで決めましょうか?」

「リーシア、今日の私は宿の主人です。一緒に泊まるわけにはいかないですよ」
「残念やけど、ティファニアさんがそう言うなら仕方ないわな。素直に3人一緒でええんちゃうか? 少し窮屈かもしれへんけどな」

 俺が1人部屋に隔離された瞬間、スムーズに部屋割りが進んでいく。もしかして誰が俺の相部屋になるかを押し付けあっていたのか? アリーシャよ、そんな悲しい押し付け合いが続いてるなら、師匠を立てると思って泥をかぶってくれても良いんだぞ。

(……というか、アリーシャとリーシアたちは、ほぼ初対面のはずだよな?)

 いつの間にこんなに仲良くなったのだろうか。人との距離を詰めるのが苦手な俺としては、羨ましい限りだ。


「ふふふ、上手く行きました」

 そんな3人の様子を見ながら、ティファニアはふふっと笑みを浮かべていた。ろくでもないことを企んでいそうな気がするな?
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