え、宮廷【結界師】として国を守ってきたのにお払い箱ですか!? 〜結界が破られ国が崩壊しそうだから戻って来いと言われても『今さらもう遅い』~

アトハ

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31.【王国SIDE】雇われ結界師、王国をあっさり見限る

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「何、どういうことだ?」

 俺――アレクは、雇い入れた結界師が言った言葉の意味を理解できず、思わず聞き返した。


「どういうことも何も。あのサイズの結界の穴を我らだけで塞ぐのは、土台無理な話だと言っているのですよ」
「ふざけるな! 話が違うだろう!?」

 おいおい、結界師が3人もいるのだぞ。どういうことだ? 
 俺は父上から、結界の綻びをどうにかしろと命じられているのだ。今さら出来ませんなどと言えるはずがない。


「……役立たずめ! 任せておけと自信満々だったではないか。今さら出来ませんなど、許されると思っているのか?」
「……そのような無理難題を押し付けられて、役立たずとは心外ですな」

 結界師の老人は、ヒゲを弄りながらそんなことを言う。


「だが前任の――リットとか言ったか? 1人で国の結界を維持してきたのだ。3人もいて出来ないなど、ありえないだろう?」
「いやいや、あのような常識破りの結界師様と比較されても……」

 返ってきたのは呆れ声だった。
 そんなことも分からないのか、という反応。

「これだけの国を守ろうとしたら、常時待機しておく結界師が最低でも100人……出来れば200人は欲しいですな」
「結界に100メートル級の穴が空いたとおっしゃいましたな? そのような未曾有の事件――長期戦になることも想定して、追加で結界師が500人は欲しいところ」

 俺はあんぐりと口を開けた。
 ここにいる3人を集めるだけで、どれほど大変な思いをしたと思っているのか。それにこの国のどこにもそのような予算はない。


「ふざけるな! 俺たちを騙したのか!?」
「ふぉっふぉっふぉ。騙したとは人聞きの悪い、契約料に見合う仕事はすると最初に契約したはずじゃ」
「そもそも、契約書に我らの結界師としての等級もきちんと書いてあるだろう。それに見合わない仕事をさせようとするのは、契約違反だろう?」

 そんなものは読んでいない!


「……この者たち言っていることの真偽を確かめたい。ディールを連れてこい」
「え、良いんですか? さっき尋問に向かったばっかりですよ?」

 審問官・ディールの両親は、エリーゼのせいで地方に飛ばされている。エリーゼの尋問に当たることは、まさしく待ちに待った復讐の時だった。中断されたら不機嫌になることは、目に見えていた。

(そうは言っても、こっちが大問題なんだよ!)

「結界についての知識を持つ者が必要なのだ。今だけは頼むと協力を求めてくれ!」

 忌々しい姉上から、ようやく王位を奪い取る算段が付いたのだ。
 なのに――なんだろうか、この何かを見落としているような胸の奥底からこみ上げてくるような不安は。


「……わかりました」

 そうして衛兵を伝令として送ること5分後。
 ひどく不機嫌そうな表情で、ディールがやって来るのだった。



◆◇◆◇◆

「そこの結界師たちの言うことは、極めて正当なことだぜ?」

 ディールは開口一番そう言った。


「は? 3人もいるんだぞ。国を守れないって、どういうことだ?」
「おいおい……。ここの王族は、本当にどうなっちまってるんだ? 結界師は、その実力に応じてSSS~Eにランク分けされているんだ。
 リットさんは世界に1人だけのSSSランク。ここにいる結界師たちは――Dランクってところかい?」

 ディールが訪ねると、集められた結界師たちは苦笑しながら、


「ああ、その通りだ。小規模な術式のアップデートと、簡単な魔力供給は可能だ」
「ふぉっふぉっふぉ。ワシは魔力は持っていない。専門は術式の開発、Cランクじゃ」
「俺もCランクだな。器用貧乏型だ」

 そう答えを返した。

「つまりどういうことだ?」
「本気で言ってるのか? ……ここにいる結界師3人では、国はおろかこの城を守るレベルの結界を維持するだけでも精一杯。到底、国を守護することなど出来ないということさ」

 ――は?



「ふざけるな、ゴミめ! まるで詐欺ではないか。何のために雇ってやったと思ってるんだ?」

 激昂した俺は――思わずそう言ってしまったのだ。
 それは、今この状況では決して口にしてはならない言葉だったのに。



「ふぉっふぉっふぉ。雇い主の期待に応えられぬ"ゴミ"は、王国には居られませんな。お暇を頂くとしましょうぞ」
「そのようだな、俺たちのような"ゴミ"は要らないのだろう。さすがは王国の王族、さぞかし素晴らしいコネをお持ちなのだろう」
「隣国で結界に穴が空いて、国が滅びると自国に伝えないと――あ、必ずしも滅びるとは限らないか! まあ我々のような"ゴミ"には関係ない話ですね」


 そんなことを言いながら、雇われの結界師は――あっさり王国を見限った。
 これまで働いた分の給金だけを受け取り、これ以上は会話の必要もないとばかりにサッサと立ち去ろうとする。

「ふざけるな。そのような勝手が許されるはずがないだろう!?」
「ふぉっふぉっふぉ。王子、それは止めておいた方が賢明じゃぞ? 我らを殺したりすれば、この国に力を貸す結界師は誰もいなくなる。それは国の崩壊と同義じゃろう?」

 チラッとディールを見ると、頷き返してきた。事実なのだろう。
 結局のところ、俺は颯爽と立ち去る結界師たちを歯がゆい思いで見届けることしか出来なかった。




(ウ、ウソだろう……?)

 あれだけ苦労して集めた結界師たちを、一瞬で失ってしまったことになる。俺のたったひと言の失言が原因でだ。

(違うな。どちらにせよ、あいつらでは国を救うことは出来なかった)



「アレク殿下、ご自慢の結界師たちは国を去ってしまったようですね。この先、どうなさるおつもりですか?」
「ふざけるな! ディール。今からでも貴様のツテを当たって、結界師を我が国に召喚できないか交渉しろ!」

「それは無理な相談ですよ――知り合いの結界師には、我が国は結界師にとって"最悪の環境"だと宣伝して回っていますからね」
「ふざけるな! ディール。貴様、この国を滅ぼすつもりか!?」

 尋問官の男は、悩んだようにクビを傾げていたが、

「余計な犠牲者を出したくないだけですよ」

 そう答えた。


「まあ、こうなることは見えていましたね。結局のところ、私としては――両親の仇さえ討てればそれで良い」

 ニコリと微笑んだ。その瞳に移るのは明らかな狂気の色。


「きょ、狂人め……」
「なんとでもおっしゃって下さい。では私はこれにて失礼して。エリーゼ王女の尋問に戻っても良いですかな?」

 俺は、ただ黙って頷くことしか出来なかった。
 



(……嘘だろう?)

 頼みの綱は一瞬で失われた。
 相談できる相手など、望むべくもない。

(父上に相談する?)

 ぶんぶんと首を振る。
 父上からの期待を裏切り、最終的には地下牢に放り込まれた姉上を思い出す。
 今頃は尋問官ディールにより、生き地獄を味わっていることだろう。


 国王の期待を裏切ろうものなら、次は自分がそうなり兼ねない。
 自分でどうにかするしかない。でもどうやって?
 思考がまとまらない。

 ――そうしてこの場には、途方に暮れる俺だけが取り残された
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