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10. 全てが浅はかなんですよ、あなたの行動は
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ああ、本当につまらない人だったんですね。
私は、ヴォン殿下に冷たい視線を送ります。
そんなことよりも。
今は、目の前の脅威を排除しなければなりません。
「デューク殿下。
ドラゴン、どうにかなりそうですか?」
ドラゴンの巨体。
今まであったモンスターとは格が違うということを、否が応でも意識してしまいます。
「やってやれないことはないかな。
昨日のやつ、お願いできる?」
それでも返ってきたのは、そんな頼もしい答え。
私は黙ってうなずくと
――この人を守って。
――ドラゴンなんかに負けないで
宝石を抱きしめ、静かに祈りを捧げました。
胸の中の宝石から、デューク殿下の魔力を感じます。
私にできるのは、こうして祈りを捧げるだけ。
それでも聖女の力はきっと応えてくれるはずです。
これまでにないほどの光が、デューク殿下を包み込みました。
まばゆい光。
あたたかな光。
私は確信しました。
間違いなく、成功した。
今やれる最大限の力で、デューク殿下を祝福できた、と。
デューク殿下に微笑みかけます。
彼も、私に微笑みを返します。
「すぐ終わらせる。
今日の朝食は期待しておいてくれ」
ここから先、私の目では何が起きたのかを正確に把握することはできませんでした。
印象的だったのは、騎士団長の息子であるジークですらが驚愕の表情を浮かべていこと。
正確は置いておくにせよ、彼の実力は本物のはずで。
そんな彼ですら、あんぐりと口を変えていたのですから。
次の瞬間、視界に入ってきたのはバラバラに惨殺されたドラゴンの死体でした。
「は――?」
そう。意味が分からないことですが。
あれだけの威圧感を放っていた巨大なドラゴンは。
……次の瞬間には、バラバラ死体になっていました。
うそ……。
◇◆◇◆◇◆
「あなた様は、まちがいなく聖女の力を生まれ持った尊きお方。
まごうことなき聖女様です。
この結果も、聖女様のご加護のおかげです」
ドラゴンをデューク殿下が瞬殺してくださった直後。
デューク殿下は、まるで今までの振舞いとは別人のような態度を取ってきました。
「デューク殿下、どうしてしまったというのですか?
止めてくださいよ」
「ありがたいお言葉です、聖女様」
デューク殿下が、なぜか私に跪いています。
何が起きているのでしょう?
「顔をあげてください」
「はい、仰せのままに」
「……今まで通りでお願いします」
私には、デューク殿下の変わりようが理解できませんでした。
ドラゴンを討伐できたのに少なからず「聖女」の力が関わっているのであれば。
その力が強大であることは疑いようがないことです。
そして。
――ものすごく孤独です
「……聖女様がそうおっしゃるのなら、分かった。
でも、覚えておいてね。
この国で聖女様の力は、最後の希望なんだ。
何があっても守らなければならない国の宝なんだ。
……その命は、国の王子よりも重い」
そんな大事なお方を、パーティーから追放して殺そうとしたんだ。
――さて、覚悟はできてるよね
ギロリ、と。
デューク殿下が、ヴォン殿下たちを睨みつけました。
「そ、そんな。誤解です! 信じてください、デューク殿下。
その女が『聖女』だなんて、そんな馬鹿な話はありません」
イリアが、瞳をうるうるさせてデューク殿下を見つめますが
「なら、さっきの力はどう説明するつもりだい?」
と返され、あっという間に沈黙しました。
「ま、マリアンヌさんは権力に物を言わせて、これまでも酷いことをしてきた。
やりたい放題してきた悪女なんです!」
「事実無根です。
なんなら自治団に調査を依頼してもらっても構いませんよ?」
ギリっと歯ぎしりするイリアに、こう返します。
堂々とした態度で、何も後ろめたいことはありませんから。
家名に誓って、名を辱めるようなことは何もしていません。
「こうして私が無事にデューク殿下と合流できた時点で、チェックメイトです。
全てが浅はかなんですよ、あなたの行動は」
私は、ヴォン殿下に冷たい視線を送ります。
そんなことよりも。
今は、目の前の脅威を排除しなければなりません。
「デューク殿下。
ドラゴン、どうにかなりそうですか?」
ドラゴンの巨体。
今まであったモンスターとは格が違うということを、否が応でも意識してしまいます。
「やってやれないことはないかな。
昨日のやつ、お願いできる?」
それでも返ってきたのは、そんな頼もしい答え。
私は黙ってうなずくと
――この人を守って。
――ドラゴンなんかに負けないで
宝石を抱きしめ、静かに祈りを捧げました。
胸の中の宝石から、デューク殿下の魔力を感じます。
私にできるのは、こうして祈りを捧げるだけ。
それでも聖女の力はきっと応えてくれるはずです。
これまでにないほどの光が、デューク殿下を包み込みました。
まばゆい光。
あたたかな光。
私は確信しました。
間違いなく、成功した。
今やれる最大限の力で、デューク殿下を祝福できた、と。
デューク殿下に微笑みかけます。
彼も、私に微笑みを返します。
「すぐ終わらせる。
今日の朝食は期待しておいてくれ」
ここから先、私の目では何が起きたのかを正確に把握することはできませんでした。
印象的だったのは、騎士団長の息子であるジークですらが驚愕の表情を浮かべていこと。
正確は置いておくにせよ、彼の実力は本物のはずで。
そんな彼ですら、あんぐりと口を変えていたのですから。
次の瞬間、視界に入ってきたのはバラバラに惨殺されたドラゴンの死体でした。
「は――?」
そう。意味が分からないことですが。
あれだけの威圧感を放っていた巨大なドラゴンは。
……次の瞬間には、バラバラ死体になっていました。
うそ……。
◇◆◇◆◇◆
「あなた様は、まちがいなく聖女の力を生まれ持った尊きお方。
まごうことなき聖女様です。
この結果も、聖女様のご加護のおかげです」
ドラゴンをデューク殿下が瞬殺してくださった直後。
デューク殿下は、まるで今までの振舞いとは別人のような態度を取ってきました。
「デューク殿下、どうしてしまったというのですか?
止めてくださいよ」
「ありがたいお言葉です、聖女様」
デューク殿下が、なぜか私に跪いています。
何が起きているのでしょう?
「顔をあげてください」
「はい、仰せのままに」
「……今まで通りでお願いします」
私には、デューク殿下の変わりようが理解できませんでした。
ドラゴンを討伐できたのに少なからず「聖女」の力が関わっているのであれば。
その力が強大であることは疑いようがないことです。
そして。
――ものすごく孤独です
「……聖女様がそうおっしゃるのなら、分かった。
でも、覚えておいてね。
この国で聖女様の力は、最後の希望なんだ。
何があっても守らなければならない国の宝なんだ。
……その命は、国の王子よりも重い」
そんな大事なお方を、パーティーから追放して殺そうとしたんだ。
――さて、覚悟はできてるよね
ギロリ、と。
デューク殿下が、ヴォン殿下たちを睨みつけました。
「そ、そんな。誤解です! 信じてください、デューク殿下。
その女が『聖女』だなんて、そんな馬鹿な話はありません」
イリアが、瞳をうるうるさせてデューク殿下を見つめますが
「なら、さっきの力はどう説明するつもりだい?」
と返され、あっという間に沈黙しました。
「ま、マリアンヌさんは権力に物を言わせて、これまでも酷いことをしてきた。
やりたい放題してきた悪女なんです!」
「事実無根です。
なんなら自治団に調査を依頼してもらっても構いませんよ?」
ギリっと歯ぎしりするイリアに、こう返します。
堂々とした態度で、何も後ろめたいことはありませんから。
家名に誓って、名を辱めるようなことは何もしていません。
「こうして私が無事にデューク殿下と合流できた時点で、チェックメイトです。
全てが浅はかなんですよ、あなたの行動は」
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