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2章 赤ちゃんと孤児とオークキング

第26話 レベル10

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 どうやらオークを倒すために冒険者の猛者達は5、6人のパーティを作り、罠をしかけながらオークの討伐をしているらしい。優秀なパーティでも1日に1体仕留めればいい方らしい。
 騎士団達も国の付近を彷徨っているオークを討伐しているらしいのだけど、一向にオークは減らない。
 それどころか日に日にオークが増えているようにすら感じた。
 商人達が国の外に出られない状況になっている。つまり輸入や輸出が出来ない状態になっている。オークのせいで物の値段が上がり、手に入らないモノまで出て来てしまっていた。

 俺達もオークを討伐していた。
 俺の戦略はいつでも『いのちだいじに』だった。
 生きて帰ることが一番大切である。
 オークが複数いる場合は戦わず、逃げることもあった。
 だけどオークキングが大量のオークの群れと共に、この国に向かって来ているという噂もあった。それまでに3人のレベル上げと俺自身のレベル上げをしなくてはいけない、という焦りもあった。
 レベルを上げておけば家族を守る事ができるかもしれないのだ。

「サンダーボルト」
 と俺は叫んだ。
 俺達は1体のオークと森の中で対峙していた。
 サンダーボルトのダメージを受けたオークが、地面に倒れた。

「ファイアーボール」
 とマミが火の玉を出す。
 彼女は木の棒ではなく、30センチほどの杖を購入していた。
 杖は大きく分けて2種類存在する。
 大きな杖。これは希少な石がはめ込まれているモノである。石の効果が付与されている。魔力量の増幅だったり、攻撃魔力の上昇だったりする高価な杖である。
 そして小さな杖。これは魔法を制御するためだけの杖である。
 俺は手の平から魔法を出す。手から魔法を出すことが出来るのは稀なことらしい。大抵の人間は杖を媒体にして魔法を出すのだ。

 
 ちゃんとした小さな杖を購入したことで、マミの魔法攻撃のコントロールが良くなった。
 杖は数日間のうちにオークを倒した収益で彼女が購入したモノである。
 杖から放出されたファイアーボールは真っ直ぐにオークに向かって行き、地面に倒れたオークが燃え上がった。

「プラントグローズ」
 とアイリがスキルを唱えた。
 地面から太い木の根が蛇のように現れ、燃え上がったオークを拘束する。

 アイリも新しい杖を持っていた。30センチほどの小さい杖である。
 プラントクローズとファイアーボールの相性は悪い。
 だけどアイリのレベルが上がったことで、火でも燃えきらないほどの太い根でオークを縛ることができた。

 燃え上がり拘束されたオーク。

「スラッシュ」
 とクロスが叫んで、オークの首を一撃で切り落とした。
 彼は胴体に防具を付けていた。
 数日間のオーク討伐で得た収益で、彼は胴体の防具を買っていた。
 クロスはパーティ唯一の近接だった。だから防御力を上げなければいけなかった。
 俺達はまだまだ防具も武器も揃ってはいなかった。
 
 斬られたオークの首がコロコロと転がった。
 すると死んだオークから白い煙が出て来た。
 そして4分割して白い煙が俺達の体に入っていく。
 この白い煙が、経験値である。
 死んだオークの魂が俺達の体に入り、強さの糧になった。
 この白い煙は3人には見えないらしい。
 ステータス画面が見えなかった以前の俺も白い煙は見えなかった。
 もしかしたらステータス画面が表示できるようになって、白い煙も見えるようになったのかもしれない。

 ちなみに同じパーティでもオークに攻撃しなかった者には経験値は入らない。
 だけど俺は何もしなくても経験値は入った。それは俺が彼等をブーストしているおかげだと思う。
 彼等は俺のスキルで強くしている。そのおかげで俺が直接的に攻撃しなくても、俺に経験値が入った。

 ドシンドシンドシン、と大きな足音が聞こえた。
 別の場所にいたオークがコチラに気づいて走って来ていた。
 しかも3体もいる。

「まだいるぞ」
 と俺は叫んだ。
 3人は俺がいる限り気を抜くことはしない。
 パッシブスキル『サポーター』の効果があるらしく、3人はいつも集中していた。だからこそ、ここまで急速に強くなることができたのだ。
「うん」と3人が頷いた

 オークが3体、コチラに向かって来ていた。
 少し前なら逃げる、という選択肢をしていただろう。
 だけど今の俺達なら簡単に倒せるはずだった。

「アイリ、プラントグローズで3体を足止め」
 と俺が指示を出す。

「プラントクローズ」
 とアイリが言った。

 3体それぞれに植物が攻撃をしかけた。
 あるオークは根っこに引っかかり、あるオークは枝にチョップされ、あるオークは草に絡め取られていた。

「ファイアーボール」と俺はスキルを叫んだ。
「ファイアーボール」とマミもスキルを叫んだ。
 火の玉を食らったオークが燃え上がる。

「スラッシュ」
 とクロスが斬撃した。
 
 クロスの攻撃で1体のオークが死亡。

『クロスのレベルが上がりました』
 と脳内で女性のような機械音のような声が聞こえた。

 残り2体は炎に包まれながらもがいている。

「ウインドブレード」
 と俺はオークに近づいて行き、スキルを出す。
 風の刃がオークの首を切った。
 少し前まではかすり傷しか付けられなかったスキルだけど、今ではオークの首を切ることができた。

「プラントクローズ」
 とアイリがスキルを叫んだ。
 すると大木が燃え上がるオークに倒れた。
 どすん、と音と共に、大木にオークが下敷きにされた。

『アイリのレベルが上がりました』
『マミのレベルが上がりました』
『中本淳のレベルが上がりました。中本淳はレベル10に達したため、ステータス表示が解放されます』

 自分のステータスを開く。
 そこには空白だった場所に文字が書かれていた。

『攻撃力・1000』
『守備力・800』
『魔力量・1000/2000』

 攻撃力、守備力、魔力量のステータスの表示が追加されている。
 攻撃力1000が強いのか弱いのかはわからない。それに守備力800が強いのか弱いのかもわからない。
 わかるのは魔力量が満タンで2000あり、現在は1000しか残っていないということだろう。
 俺のレベルが上がったことでステータスの表示が追加された。
 3人のステータスも追加されているのか? 確認するために3人のステータス画面を開く。
 3人ともレベルが8に上がっているだけで攻撃力も守備力も魔力量の表示されていなかった。
 彼等のレベルが10になった時にステータス表示が追加されるのだろうか? 
 彼等は強くはなった。だけどスキルが増えた訳ではなかった。

 倒したオークの左耳を切り取り、俺がオークの心臓を抉って魔石を取り出す。俺が魔石を取り出さないと良質な魔石にはならなかった。

 冒険者ギルドに行ってオークの左耳を提出した。
 1日で狩ったオークは10体だった。
「こんなに」
 と受付のお姉さんが驚いている。
「1日で10体も倒すなんて。この冒険者ギルドの新記録です」
 と受付のお姉さんが言う。

 クロスが嬉しそうにしていた。
「えっ、10体も倒したのかよ」と冒険者達がコソコソと話しているのが聞こえた。
「日本人だから当然だろう」「あの子ども達が倒した訳じゃねぇーだろう」「あの子達は一体なんだよ?」「弟子だってさ」

 後ろで喋っている奴等の声が聞こえた。
「この子達がすごく頑張ってくれるおかげで、いっぱいオークを倒せました」
 と俺は言った。
 受付のお姉さんに向かって言っているけど、俺は後ろでコソコソと喋っている奴等に聞こえるように大きな声で言った。
「そうですか。すごいですね」
 と受付のお姉さんが言った。
「中本様には伝えとかないといけないことがあります」
 と受付のお姉さんが言う。
「伝えとくこと?」
 と俺が首を傾げた。
「隣の国はオークキングに滅ぼされました。三日後には、この国にオークキングが来るかもしれません。勇者の到着が間に合わなかったら冒険者達の先頭で戦ってほしいんです」
「なんで俺達が?」
「中本様のパーティがこの国で一番オークを倒しておりますので」
 と悪意のない笑顔を受付のお姉さんが向けた。
 この国から逃げるか? 
 3人を見る。この子達も連れて行くか。
「逃げないでくださいね」
 と受付のお姉さんが悪意のない顔で笑った。
「もし逃げたとしても隣の国は滅ぼされているので、逃げる場所はないんですけどね」
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