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103日目
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「ねぇ、今日はさ!俺が人間だったらって妄想に付き合ってくれません?」
「また変なこと言い出したな、お前」
天使はいつものように着いてきた撮影現場で、ずらりと吊り下げられた衣装を前に目を輝かせて言った。
「だって!俺もゲイノウジン、やりたいっす!ここにある衣装着てみていいすか!?」
「その端の方は使わないからいいと思うけど…。でも人間なら別に芸能人じゃなくても良くないか?」
いそいそと衣装を体にあてて楽しんでいる天使に向かって、樹は不思議そうに言った。
樹自身、学生時代からこの世界にいるため、芸能以外を知らないと言っても過言ではないが、知識として数多くの職業があることはもちろん知っている。
人類全体でみれば、芸能に関わる人間なんて少数派だろうし、「人間ごっこ」をするには少し不釣り合いな気もした。
「だって、カメラの前でポーズとってる樹さん、かっこいいすから!俺もやりたいんす!」
ペカペカと発光するような天使の笑顔に圧倒される。
こういう時、樹はこの男が天使であると信じざるを得ないと思わされるのだ。
「……素で褒めるな、気持ち悪い」
「んも~素直じゃないっすねぇ。じゃ、俺これにするっす!」
ようやく衣装が決まったらしい天使が嬉しそうに駆け寄ってくる。
その姿に大型犬のイメージを重ねながら、樹は頭を撫でてやった。
最初出会った時随分シンプルな格好をしていたからファッションという概念が無いのかと思ったが、どうやらセンス自体はあるらしい。
大柄な刺繍の施してある空色のシャツは、彼によく似合っていた。
天使が着ているものは他人にどう見えているのだろうと気になったが、誰にも何も指摘されないので服もまた見えなくなっているのかもしれない。
適当なことを言ってメイクさんから道具を借り、人目につかない場所で天使に軽くメイクを施してやる。彼は頬を紅潮させて、まるで発表会前の幼児のようだ。
思わず樹は吹き出して、柔らかな頬をつまんだ。
「ちょっとー!なにするんすか!せっかくのお化粧がっ!」
「ファンデーションは塗ってないから大丈夫だよ」
樹を探す声がする。
返事をして、ワイワイと騒ぐ天使を引き連れ、カメラの前に向かった。
「フゥー!ひと仕事終えたって感じっす!」
「はいはい、お疲れ様」
私服に着替えた樹の周りを、同じく衣装を脱いだ天使がチョロチョロと動き回る。
結局撮影中の天使といえば、樹の横でポーズを取ったかと思えばカメラマン(のふり)にまわったりと忙しそうにしていた。
樹は笑いを堪えるのに必死だったが、彼なりに「人間ごっこ」の仕事をやりきったらしい。
「楽しかったか?」
「はい!樹さんと同じになれたみたいで嬉しかったっす!」
「そうか」
あれが楽しくて、これが大変で……と話す天使の横顔を見ながら、もしも……と樹は空想した。
キメ顔の彼と思わず笑う自分が並んだ写真が、手元にあったなら……それはどんなに心躍るだろう。
今日この日の証明がなにも残らないのは惜しいな、と樹はそんなことを思った。
「また変なこと言い出したな、お前」
天使はいつものように着いてきた撮影現場で、ずらりと吊り下げられた衣装を前に目を輝かせて言った。
「だって!俺もゲイノウジン、やりたいっす!ここにある衣装着てみていいすか!?」
「その端の方は使わないからいいと思うけど…。でも人間なら別に芸能人じゃなくても良くないか?」
いそいそと衣装を体にあてて楽しんでいる天使に向かって、樹は不思議そうに言った。
樹自身、学生時代からこの世界にいるため、芸能以外を知らないと言っても過言ではないが、知識として数多くの職業があることはもちろん知っている。
人類全体でみれば、芸能に関わる人間なんて少数派だろうし、「人間ごっこ」をするには少し不釣り合いな気もした。
「だって、カメラの前でポーズとってる樹さん、かっこいいすから!俺もやりたいんす!」
ペカペカと発光するような天使の笑顔に圧倒される。
こういう時、樹はこの男が天使であると信じざるを得ないと思わされるのだ。
「……素で褒めるな、気持ち悪い」
「んも~素直じゃないっすねぇ。じゃ、俺これにするっす!」
ようやく衣装が決まったらしい天使が嬉しそうに駆け寄ってくる。
その姿に大型犬のイメージを重ねながら、樹は頭を撫でてやった。
最初出会った時随分シンプルな格好をしていたからファッションという概念が無いのかと思ったが、どうやらセンス自体はあるらしい。
大柄な刺繍の施してある空色のシャツは、彼によく似合っていた。
天使が着ているものは他人にどう見えているのだろうと気になったが、誰にも何も指摘されないので服もまた見えなくなっているのかもしれない。
適当なことを言ってメイクさんから道具を借り、人目につかない場所で天使に軽くメイクを施してやる。彼は頬を紅潮させて、まるで発表会前の幼児のようだ。
思わず樹は吹き出して、柔らかな頬をつまんだ。
「ちょっとー!なにするんすか!せっかくのお化粧がっ!」
「ファンデーションは塗ってないから大丈夫だよ」
樹を探す声がする。
返事をして、ワイワイと騒ぐ天使を引き連れ、カメラの前に向かった。
「フゥー!ひと仕事終えたって感じっす!」
「はいはい、お疲れ様」
私服に着替えた樹の周りを、同じく衣装を脱いだ天使がチョロチョロと動き回る。
結局撮影中の天使といえば、樹の横でポーズを取ったかと思えばカメラマン(のふり)にまわったりと忙しそうにしていた。
樹は笑いを堪えるのに必死だったが、彼なりに「人間ごっこ」の仕事をやりきったらしい。
「楽しかったか?」
「はい!樹さんと同じになれたみたいで嬉しかったっす!」
「そうか」
あれが楽しくて、これが大変で……と話す天使の横顔を見ながら、もしも……と樹は空想した。
キメ顔の彼と思わず笑う自分が並んだ写真が、手元にあったなら……それはどんなに心躍るだろう。
今日この日の証明がなにも残らないのは惜しいな、と樹はそんなことを思った。
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