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三人の精霊と光の精霊の書
となりの喫茶店
しおりを挟む「わあい。ミーナのお店の近くだ」
「ふふふ、近くと言うよりもお隣さんですわね」
「なの」
兄貴の粋な計らいにより家を手に入れることが出来た。何故わざわざ快適な王宮の家から出る必要があるのかって?
それは、何でもかんでも全て用意されていて何不自由なく暮らすのが幸せかは人それぞれの価値観だと思う。
俺は、自分のチカラで生きたい。自分の可能性を信じたい。この小さいな国の先にある世界を見てみたい。
人の苦労を知らない人間が誰かに幸せを与えようと思ってもそれは本当の幸せではないと思う。
空腹を知らない人間が、他人の気持ちを分かれと言われて分かるわけがない。
俺はそんな人間になりたくはない。
俺は自分が傷ついた分、誰かを助けてやれる人になりたい。
諦めなければきっと願いは叶うと教えてやりたい。
こんな俺でも、今やれてるーー。
★ ★ ★
「隣の新居がまさかアーサーさん達の家とは夢にも思いませんでした」
ウエイトレスのミーナが目を丸くしながら湯気の立つコーヒーを運んでくれた。
お馴染みの喫茶店のまさか隣にわざわざ兄貴が家を建ててくれたのだ。まあ、確かにこの前の戦闘でこの辺りは破壊され土地は余っていた。おかげで毎日通う羽目になるのだ。
「そう言えば、あの猫さんと精霊ちゃんも毎日のように通って下さってますよ」
ミーナの何気無い一言で明るかった店内が電気でも消したかのように暗くなり静まりかえる。
「えっ? えっ? 何か変なこと言いました私」
まさかの展開におろおろと落ち着かない様子だ。
「大丈夫、大丈夫」
愛想笑いが下手な自分を今日ほど恨んだことはないと思うアーサーだった。
しかしーー 精霊三人は浮かない顔をしている。ルナと遭遇したらどうしようとかそんなことを考えているのだろうか。
ミーナが元気付けようとクッキーなどの手づくりお菓子を持ってきてくれた。
これには三人も沈んでいた気持ちも吹っ飛び大はしゃぎだ。それを見てミーナもホッと一息吐いて安心したようだった。
★ ★ ★
いつも通りガールズトークが始まり楽しそうにおしゃべりをして楽しんでいる女子たち。
アーサーはいつもの席で外の景色を眺めてゆっくりと時間をかけてコーヒーを口に運んだ。香ばし香りとほろ苦さが口の中に広がるとても上品でキレのある美味しさだ。
アーサーは、コーヒーをすすりながらメルルやルナ、彼女たちの過去の事を考えていた。
ルナと彼女たちの過去の出来事は分かった。ルナが彼女たちのことを怨んでいて、彼女たちはルナに虐められ、嫌がらせを受けて学生時代を過ごしてきた。
卒業後に人間と契約をするのが決まりで、彼女たちと俺は出逢うことになる。
ルナのパートナーが、メルルとはとても思えないのだが・・・。
メルルも何やら放浪の旅? とは言っていたが何か別の目的がある感じだったと思った。
獣人族・亜人系のメルルが何故遠く離れたこの小さいな国に来たのか?
ルナ程の天才精霊がパートナーと契約をしていないのか。
( あくまで俺の推測だけど・・・ )
「どおしたあ。 顔がこわいの」
目の前に急に顔を覗き込む、ゆるゆるふわふわ頭が飛び込んできた。
「わっ!!びっくりした。急に現れるなよ」
けらけら笑いながらエルザは抱き付いてきた。
「お昼だって、みーながごはんたべるなの? だって」
「もう、そんな時間だったのか? だいぶ考え事してたんだな」
カップの中の飲みかけのコーヒーは、すっかり冷めてしまっていた。
「せっかくだからこのまま、ここでーー」
その時・・・
ーー 店内に乾いた銀色の鈴の音が響いたーー
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