虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと

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「……にしても、従者が主人の飯を勝手に食べるかなーー普通、こちらに許可を取るのが礼儀と思うが」

「拙速な判断でした。非礼をお詫び致します」

間髪入れずに、謝罪の言葉。
本心ではないだろうが、こういう状況での対処を心得ている。
若いのに大したものだ、と上から目線で心中で褒める私であった。

「謝れば済む問題じゃあーーと言いたいところだが、これは謝れば済む問題だ。そんなことで、この会食を開いた目的に影響が出ては困る。それに、切り替えの早い女は良い。好感がもてる」

「お褒めいただき、光栄です」

深々とエクレアは頭を下げた。

「だが、そこまでだ。さっきみたく、会話に横槍を刺されても困るからな。彼女と2人きりにしてもらおう」

パチン、とアンドレアル様は指を鳴らす。
彼の背後に控えていた、影のような細長い男が二人、ぬめっと前へ出る。
そのままつかつかとエクレアの前まで歩みを進める。
先ほどの重い扉を開け、そちらへ出るように手招きする。

「2人きり、と言っただろう。当然こちらも下げさせる」

「ですが、年頃の女性を密室で2人にきりになどーー」

「年頃の女性2人と男1人の方が問題だろう。疑り深いな、俺が君たちをそういう対象で見ていると、そういう事を求められると思っているのか」

思っていた。
エクレアはどうか知らないが私は思っている。
想像はしたくないが、思ってしまう。
婚約者どころか、女性の影一つ見えない男。
男が趣味なのか、あるいは他で補給しているのではないかと思われて当然だろう。
その補給役として私たちを選んだ可能性も捨て切れない。
自意識過剰かもしれないが、その程度に魅力はあると自負している。
たまたま相手がカストリア様という高嶺なだけで、背丈程の高さの相手ならば十分に籠絡できると思う。
ーー思っただけで、やったこともやるつもりもないのだけれど。
私の想い人はあのお方ただ一人。
叶わなぬ恋とは分かっている。
けど、可能性はないわけではないのだ。
勝ちの目が完全になくならない限りは、この恋を続けるつもりだ。
違うか。続いてしまう、というのが正しいのだろうが。

「いや、それはーー」


「やれやれ。不敬罪で捕縛してやろうかーーと言いたいところだが、そんな発言をすれば、ますます疑念は深まるな」

返答に詰まるエクレアに対し、嘆息気味にアンドレアル様は言う。

「分かった。鍵は開けておく。というより扉も開けておく。存分に主人の無事を確認するといい。ただ、会話は聞かれたくない。できるだけ離れた場所で耳を塞いでおいてくれ」

難しい。

「話が終われば俺の方から出向く。本当に心配ない」

心配である。

「俺を信じてくれ」

信じられない。
そもそも、信用がないからこのような言葉を吐くしかなくなるのである。

だけれど、受け入れるしかないというのが、立場の問題というものである。
公爵令嬢と第一王子、その権力の隔たりは変えようもないのだから。

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